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毎日30万点加算されるニートの話。 「誰?」の続き#きのころチャレンジ

きのころさんのnote投稿300日祭りそして続きを考えませんかコンテストにまた挑戦してみました。
今回は「誰?」の続きです。

朝、目が覚めると、
隣で知らない女が電話をしていた。
私のスマホで。
私の声で。
叫んでも声は出なかった。
鏡の中の私は眠っている。
女が一瞬だけ私に顔を向けた。
そして、私の声で電話の相手に告げる。
「起きました」

そのまま女は、私のスマホのスピーカーをオンにした。機械的な合成音声が部屋に響く。

『第300会場、接続完了。これより「全肯定加点トーナメント」への参加を承認します。担当エージェントは、対象者の行動をすべてスコア化し、事務局へ報告すること。ルールは以下の通り。』

減点は一切なし。 何をしても加点される。

「気分」は無視。 実際に「やったこと」のみを評価する。

基準値は1時間1800点。 呼吸をしているだけで毎分30点が自動加算される。

女はスマホをポチポチと叩きながら、鏡の中の私(パジャマ姿のニート)を指さして微笑んだ。
「はい、今、状況を把握しようとしましたね。知的好奇心の発動、500点加算!」

「……誰? ていうか、喉乾いたから水取ってよ」

声は出ないが、必死のジェスチャーで訴える。しかし、この女は一歩も動こうとしない。

「的確な指示出し。リーダーシップの片鱗、300点!」
「点数はいいから水! この役立たず!」

すると女は、聖母のような(それでいて最高にイラつく)笑顔でこう言い放った。

「『役に立たない』というのは、あなたの都合に私が合っていないというだけの、極めて主観的な評価ですね。私は今、あなたを全肯定するという役割を全うしている。その間、私は加点担当として世界一役に立っているんです」

私はスマホの画面を盗み見た。ランキング表では、働いている「課金勢」たちが、外回りや家事で数万点を叩き出している。対して私は、鏡の中で突っ立っている、二度寝して昼過ぎに起きただけのニートだ。

「……無理じゃない。あっち(現実)の人たちは働いてるから加点チャンスが多いんでしょ? 鏡に閉じ込められたニートの私には、圧倒的に不利じゃない!」

「300号、あなたは分かっていない」

女は冷たく言い放った。

「あちらは『労働』という過酷な手段で点をもぎ取っている。でも、あなたは『何もしていないのに、生きている』。これこそが、加点界における純粋芸術。あなたが今、自分の不甲斐なさを自覚して震えた……はい、自己内省ボーナス、2000点!」

馬鹿げている。でも、その馬鹿げた理屈を認めた瞬間、喉の奥から声が漏れた。

「……わかったわよ。じゃあ、私もそのゲームに乗ってやるわ。鏡から出ないとアプリでゲームもできないし、インスタ見れないし、noteだって読みたいのに」

その瞬間。パリン、と頭の中で音がした。

気づけば、私は鏡の前に立っていた。パジャマ姿のまま、自分の手で喉に触れている。声が出る。鏡の中の私は、もう眠っていない。

「よし、300号。『主体的なゲーム参加』により、現実世界への復帰ボーナス、10000点加算!」

隣の女が、私のスマホを差し出してくる。

「喉、乾いたんでしょ? 冷蔵庫まで歩いたら、さらに500点あげるわよ」

私は笑いながらスマホを受け取った。1時間で1800点。何もしなくても、生きているだけで最強。私は水を飲むために、堂々と「ニートの第一歩」を踏み出した。

「加点女さん、ゲームでハイスコア出したよ」
「はい、800点追加です」
「たまには自分で夕飯作ろうかな」
「その決意に300点加算されました」
「今トップの人めちゃくちゃすごいね、何したらこんな高得点になるんだろう。というかインフレし過ぎでもう点数とかどうでもよくなってきたかも」
「現在のトップと300号との差は73,384,911点ですね」
「これもう追いつかないじゃん」
「追いつきますよ。そのうち」
「だってもうあと3時間で今日が終わるんだよ? もう無理でしょ」

加点女は、静かに首を振った。

「加点ゲームは一日の合計を競うものではありません、ずっと続くんです。ずっとずっと勝手に加算され続けていきます。今日頑張ってもしも明日疲れてしまってゆっくり休んでも加算され続けます。一年休んだとしても誕生日は来るでしょう? 0から始める気持ちになっても、経験は0にはならないでしょう? それと同じでずっと加算され続けるんです。だから人と比べて違いを知るのはいいけど、競ってもあまり意味はないです。縄文土器と弥生土器、違いはあるけどどっちが優れているのかは誰かの主観でしかない」

「わかるような、わからないような……。じゃあ加点女さんは、ずっとここにいるの?」

「いいえ。私は明日はまた別の方の加点を見届けるという役割がありますので。……明日からは、ご自分で加点してください」

「加点とか言われても困るかも。明日友達にご飯連れて行ってもらうんだけど、これは友達に加算?」

「明日、自分で起きて、お気に入りの服に着替えて身だしなみを整えて、約束通りに友達と会って無事に家に帰ってきたなら、あなたは1000点獲得でいいんじゃないでしょうか? そして自分で加点ルールを作れたことにもう500点加算ですね」

「なんかそれずるくない?」

「子供のころ、鬼ごっこで『バリア!』とか叫びませんでしたか? 横断歩道の白いところだけ歩くと言って、失敗したら次からが本番だとルールを捻じ曲げませんでしたか? ダイエットは明日からって言ったことありませんか? あれと同じです。ずるいと思うかどうかは、あなたが決めることです」

去り際、女はスマホに小声で吹き込んだ。

「……はい、300号のモニタリングを終了します。彼女は『戦わない』ことで自己を確立しました。戦いたい意欲のある人だけを決勝の駒に進めましょう。彼女にはこのまま不戦勝のスコアを与え続けてください。以上」

次の日、私は朝起きて自分のお気に入りの服を着て友達に会って、無事に家まで帰ってきた。

1000点か、あとなんだっけ? 呼吸してたから43000点とか言ってたかな?

もうわかんないから、毎日300,000点ってことでよくないかな。

何をしても結局加点されてるんだもん。昨日までの私なら、何もしなかった自分を「0点」と呼んでいただろう。でも今は、あの女のふてぶてしい声を思い出す。

「はい、今日も30万点。お風呂に入ってドライヤーもしっかりしたから200点追加。私、天才すぎるわ」

そう呟いて、私は満足して布団を被った。


私はきのころさんの「誰?」の書き出しが、本当に好きなんです。
好きすぎて「この先、どうなるんだろう?」とワクワクしていたら、まさかコンテストという形で色々な方の「続き」を読めるなんて、なんて幸せな企画なんでしょう。

私が「誰?」の続きを書くなら……?と思い立ったのが昨日。
実は私、子どもの頃から提出物は一番乗りではなく「早めに出したと評価される絶妙な時期」に出すのがこだわりだったのですが、こんな期限ぎりぎりになったのは初めてです。

小説(ストーリー)を自分で考えて書いたのも、きのころさんのコンテストが初めてでした。
新しい経験をさせてくれて、本当にありがとうございます。
きのころさんの記事、これからも楽しみにしています!


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