システムベンダーの『仕様書にありません』は思考停止のサイン。公務員が持つべき『健全な疑念』
こんにちは。普段は上下水道局で経理(財政、会計)を担当しているsoloです。ICT事務職として採用された役所の職員です。「ITレジリエンス人材」を目指して活動中です。
「レジリエンス」とは、困難な状況から回復し、より強くなる力のことです。先日、まさに組織の弱点を突かれ、それを乗り越え、未来のリスクを減らす仕組みを構築するという、レジリエンスを体現するような経験をしました。
これは、ITベンダーとの間で起きた一つのトラブルから、公務員としての私たちの「仕事の進め方」そのものを見直すきっかけとなった記録です。(フェイクを交えながら、お伝えします)
始まりは「30分の時刻のずれ」という、小さな綻び
私が担当するシステムで、サーバの時刻が30分ずれているという、あり得ない事象を発見しました。原因は、サーバ導入時に委託業者が時刻同期(NTP)を設定していなかったという、IT業界では初歩的すぎるミスでした。
業者に是正を求めると、驚くべき答えが返ってきました。
⬇️NTPについてはこちら⬇️
「導入時にその話は出ませんでした。仕様書にないので、やる必要はありません」
多くの職員が、専門家である業者からこう言われると、「そうなのか…」と引き下がってしまうかもしれません。しかし、組織のレジリエンスを担う者として、私の頭には警報が鳴り響きました。これは単なる設定ミスではない。組織の根幹を揺るがす、より深刻な問題の兆候だと感じたのです。
一つの嘘が暴いた「思考停止」と「責任放棄」の構造
この「仕様書にない」という主張は、彼らの不誠実さを覆い隠すためでした。私は毅然と反論しました。
専門家としての義務: ITのプロなら、システムの安定稼働に不可欠な時刻同期は、言われずとも実施すべき「善管注意義務」の範囲内です 。
セキュリティへの影響: 時刻のずれは、ログの信頼性を失わせ、障害やセキュリティ事故の際の原因究明を不可能にする重大なリスクです 。(実際、障害発生時に、ログ解読にかなり時間を要しました)
しかし、問題はこれだけでは終わりませんでした。他にも、保守運用業務でこのようなことが発生していました。
虚偽の完了報告: 確認していない作業を「完了」とチェックする。
不当な工数請求: 自らのミス対応で生じた時間を「超過工数」として請求する。
そして、決定的な一言が業者から発せられます。
「サーバのパラメータシートはありません。対象システムの規模で作成する必要がないと判断しました。開発チームから言われた項目を設定しているだけです」
血の気が引きました。彼らは上級SE相当額の対価を受け取りながら、設計図も持たず、自らの専門的知見も使わず、ただ言われたことを設定するだけの「作業者」に成り下がっていたのです。
これは、業者だけの問題ではありません。相手を信頼し、「お任せ」にしてしまうことで、思考停止と責任放棄の構造を許してしまった、私たち発注者側の問題でもあったのです。(なお、このシステム導入に私は関わっていません)
レジリエンス人材として、この教訓をどう組織に活かすか
この一件は、私に3つの教訓を与えてくれました。これは、公務員が知っておくべき「組織を守るための行動指針」と感じます。業者の『開発チームから言われた項目を設定しているだけ』という言葉は、インフラ担当と開発担当の責任分界点が曖昧だったことも示唆しています。今後は、誰が、何に、どこまで責任を持つのかを契約段階で明確にすることも重要です。
教訓1:「丸投げ」をやめ、「健全な疑念」をもつ
私たちは、税金や公金で事業を行う公務員です。技術者である業者を尊重し、信頼することは大切ですが、「丸投げ」は許されません。「これは本当に正しいのか?」「なぜこうなっているのか?」と、常に当事者意識と健全な疑念を持つこと。それこそが、私たちの最初の防衛線です。
教訓2:仕様書を「最低ライン」と位置づけ、非機能要件を定義する
「仕様書にない」という言い逃れを封じるには、私たちの要求レベルを上げるしかありません。 今後のIT調達では、NTP設定やログ、バックアップといった非機能要件を網羅した「標準サーバ構築チェックリスト」を作成し、契約の必須要件として仕様書に添付することをルール化します。仕様書は「ここまでやれば良い」という上限ではなく、「最低限これを満たせ」というスタートラインなのです。
教訓3:「検収」を儀式から実務へ。パラメータシートで品質を担保させる
「作動しました、はい検収完了」という儀式的なプロセスは、リスクしか生みません。 今後は、ベンダーに「サーバ設定パラメータシート」や「テスト実施報告書」の提出を義務付け、その内容と実機の設定が一致しているか、職員が自ら確認するプロセスを導入します 。設計図(パラメータシート)の提出を拒む、あるいは作れない業者は、その時点でプロとして失格です。
終わりに:すべての問題は、組織を強くする「訓練」である
この一連の調整は、精神的に非常に疲弊するものでした。しかし、レジリエンスの観点から見れば、これは組織の脆弱性を特定し、将来のより大きな損害を防ぐための、機会となりました。
私たちの仕事は、前例踏襲や業者への丸投げではありません。より良い行政サービスを提供するため、常に思考し、学び、改善し続けることです。
もし職場で「仕様書にありません」という言葉を聞いたら、それは思考停止の危険なサインです。ぜひ、その一言をきっかけに、「健全な疑念」をもってください。その小さな一歩が、組織全体をより強く、よりレジリエントなものに変えていくと思います。
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