手で考えるデザイナー
駒場の旧前田侯爵邸でレクチャー「柳宗理のデザイン教育」。

旧前田家本邸洋館
工業デザイナー柳宗理はこのお屋敷のすぐ近くに一時期住み、父・柳宗悦の跡を継いで日本民藝館館長もしていた。デザインの仕事をしつつ金沢美術工芸大学でも教鞭をとっていて駒場と金沢と柳宗理は縁があるそう。今回のレクチャーも目黒区かなざわ講座としての開催。
建物は一般開放されているとはいえ、このお屋敷の大客間で文化財に囲まれての講座は贅沢。





加賀百万石というと金箔とか九谷焼とか加賀友禅とか、豪華できらびやかなイメージ。
このお屋敷もどこもかしこも重厚で贅沢。シンプルモダンな柳宗理のデザインとは方向性が違うと思うのだが、ハコに文句をつけてはいけない。
講座の内容は充実していた。
講師は金沢美術工芸大学名誉教授の浅野隆氏。
同大学で学生として学んでいた時に柳宗理から教えを受け、現在柳宗理記念デザイン研究所の運営委員もされている。
もともとは車のデザインやソーラーカーの開発をされていたそうで、その辺の話も本編とは別にもっと聞きたかった。デザインすること、ものをつくることがお好きなんだなあというのが伝わってくる、とても朗らかな語り口。
直接柳宗理から学び身近に接していたからこそ語れるちょっとしたエピソードが楽しかった。
金沢美術工芸大学には「手で考え、心でつくる。」ということばがあり、これはもともと柳宗理のオリジナル。スケッチはせず、紙や木や石膏で模型を作って手を動かしながらデザインを考えていたそう。
アノニマスデザインに対する評価の話は、やっぱり父譲りなのかなと思った。
電線のガイシ、船舶のプロペラ、実験用ビーカー、野球ボールなど誰のデザインかはわからないけれど普遍的に実用的でなおかつ美しいデザイン。
「ボラートなんかはいかにも柳先生が好きそうな形」と言われたのにとても納得。船を繋留するロープをまきつけるアレ、よくマドロスさんが脱いだ上着を肩にパイプくわえて片足のっけてるボラートのなんともいえない曲線は確かにグッドデザイン。
柳宗悦が蒐集した民藝品に生まれた時から囲まれて育った宗理は、藝大では洋画科を専攻した。
「民藝みたいな古臭い物とは違う方にいきたかったのでしょう」と、浅野氏。そこでキュビズムに出会い、さらにバウハウスの思想と理念、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアンの影響を受けて工業デザインの道に進んだ。
オリンピックの聖火台や高速道路の防音壁など大きな公共の作品もあるけれど、イス、やかん、鍋やボウル、カトラリーなど日々の暮らしで使う物をたくさんデザインした柳宗理。今もそのデザインはちっとも古びていないし、見飽きないし、手や身体によく馴染む。
製品が生まれるプロセスには技術者の協力が不可欠であること、環境問題を含む社会性を忘れないこと、アウトプットするためには積極的にいい物を見てインプットすること、などなどそういうデザイン教育を私も直接受けてみたかったな。
金沢にある柳宗理記念デザイン研究所は、谷口吉郎設計の旧石川県繊維会館の建物を修復して、新デザインミュージアムとして2027年にリニューアル開館予定とのこと。金沢へ行く楽しみが増えた。
ところで柳宗理のポートレートで見かけるかっこいいペンダント、あれが何なのかずっと気になっていたのだが、調べてみたら李朝の針ケースらしい。製品化してほしいー!
*タイトル写真はバーコードをモチーフにした柳宗理デザインファブリックのクッションカバー。
