保育士の仕事はAIでどう変わる? 子どもと“向き合う時間”を取り戻すために
本連載では、生成AI時代のハローワークとして、子どもに人気な職業トップ100について、「AIでなくなる仕事・残る仕事」というテーマでインタビュー形式で記事化していきます。
今回は「保育士」です!
厚生労働省の調査でも慢性的な人手不足が指摘される保育の現場。AIやICT化が進めば業務の効率化が期待できる一方で、園児たち一人ひとりのケアにこそ“人の目”と“人の温かさ”が求められるのも事実です。果たして、生成AIがさらに発展する中で、「子どもたちを預かる」保育士という仕事はどのように変化していくのでしょうか?
今回は、保育士として複数の園や入所施設で経験を積まれた石井さん(仮名)にお話を伺いました。AI技術が職場に導入されつつある今、保育士という仕事がこれからどうなっていくのか――そのリアルな現場の声をお届けします。
子どもの行動への興味が原点
― これまで、どのような園や施設で働かれてきたのでしょうか?
私は保育系の短大を卒業後、最初は塾の幼児コースで働きだしました。しかし、その塾では夜間業務が多く、妊娠を機に退職しました。その後、勤めた保育園では0歳児から年長さんまで担当し、持ち上がり保育を6年経験しました。そこでは、持ち上がりというあまり外の園では多くない形態でもあり、お子さんや保護者の方々と密な関係を築くことができ、いろいろと学ばせてもらいました。
その後、入所型の施設で6年間勤務し、今は独立して、食に携わる仕事をしています。入所型の施設は児童心理治療施設という種類の施設で、虐待を受けていたお子さんや家庭内暴力がある子、発達障害を抱えている子などさまざまな背景を持ったお子さんが生活していて、小学1年生から18歳まで幅広い年齢の子どもたちをサポートしていました。
ドラマで感じた“子どもの心理”への興味
― 保育士を志したきっかけを教えていただけますか?
高校時代からアルバイト先などで人と接するときに、子どもの様子を観察するのが好きだったんです。私自身が子どもの頃は鍵っ子で、家に帰ったらテレビ番組、特にドラマを見ていました。当時、野島伸司さんの『聖者の行進』のような、人間の心理を深く描いた作品に興味を持ち、「子どもが置かれる環境って本当に大きな影響を与えるんだな」と考えるようになったんです。
そこで、子どもの心理に強く興味をもったことで「保育士の資格を取って、子どもの心の成長に寄り添いたい」と思い、保育士の短大へ進学しました。
保育士としてのやりがい — 成長を目の当たりにできる喜び
— 実際に働いてみて、やりがいはどんなところで感じていますか?
やりがいで言えば、保育園時代はとくに「集団行動の中で子どもの成長が目に見える」ことが大きいです。自分が準備した活動や制作物に、子どもたちが素直に反応してくれる。子どもの行動の理由を探ってみたり、成長過程を客観的にサポートできる点がやりがいです。
入所施設では、虐待を受けていた子や発達障害の子が多く、「愛情に飢えている」「執着心が強い」子もいます。ちょっとした言葉の選び方で、子どもの感情が大きく揺れ動くので、そこに責任を感じると同時に、“どうすれば心を開いてくれるか”を試行錯誤しながら、少人数で目の前の子どもに向き合えるのがやりがいでもあります。
ただ、やっぱりマイナスの感情を激しく出してしまう子がいたり、スタッフの入れ替わりが激しかったりと、苦労は多いですね。施設は夜勤シフトもあって負担が大きい。実際、1日で辞めてしまう人もいるほど。長く続けるには相当な気力とセルフマネジメントの工夫が必要です。
連絡帳に追われる日々、でも子どもとの時間が好き
— 保育の現場は一日どんな流れなのでしょうか? また、どの部分が特に負担と感じられますか?
一般的な保育園の一日は、午前中の活動から始まり、その後に給食を食べて、お昼寝をします。午後はまた別の活動をしてから、おやつの時間があり、最後に保護者のお迎え、というのが基本的な流れですね。
もちろん、子どもたちはとても可愛くて、一緒に過ごす中で成長を感じられる瞬間が多く、それがやりがいでもあります。ただ一方で、保育の仕事には子どもと向き合う時間以外の「事務仕事」がたくさんあります。
特に毎日の連絡帳や保育日誌の記入は、15人分を書き上げる必要があり、かなりの時間を割いています。その他にも、季節や月ごとの行事、制作物の準備も負担に感じることが多いですね。行事ごとに何をやるかを計画し、材料を準備して、当日までに間に合わせるという一連の作業が常に発生します。
また、保護者の対応も欠かせない仕事の一つです。送り迎えのタイミングや参観日などに、まとめてご要望をいただいたり、お子さんの言葉遣いなどに関する悩みや相談を受けたりします。
保育士はいつもこうした複数の業務を同時並行で進めていく必要があるため、「マルチタスク」の状態に追われている感覚が強いですね。私自身は連絡帳を書くこと自体にはあまり苦手意識はありませんが、保育士によっては「何を書いていいかわからない」「対面でのやりとりが苦手」という方もいて、保護者と保育士の間に誤解やすれ違いが生じることもあるのが悩ましいところです。
担い手不足と労働環境—子どもは好き、でも“一人ひとりの要望”に対応しきれない難しさ
— 世間では「保育士不足」や「残業の多さ」が社会問題化していますが、どうお感じになりますか?
保育士の離職率が高いのには、大きく三つの理由があると感じています。まず一つは、人間関係の難しさです。保育園の現場は女性スタッフが多いので、どうしても人間関係が複雑になりがちで、派閥や気まずい雰囲気が生まれやすいんです。それによるトラブルやストレスから、他の園への転職を考えてしまうケースも少なくありません。
二つ目は、業務のマルチタスク化による疲弊です。保育士は行事の準備や週・月単位の計画立案、小学校に送るための書類作成など、やらなければいけない仕事が常に山積みの状態です。一つひとつをじっくり取り組む時間もないまま、同時並行でさまざまな業務に追われているので、精神的にも体力的にも疲弊してしまいます。
そして三つ目は、保護者とのやりとりの難しさです。保護者からの要望は一人ひとり異なり、多岐にわたります。また、お子さんの発達について気になることがあっても、こちらから「専門医への受診」をおすすめすると、「保育士にわかるはずがない!」と反発されてしまうこともあります。一方で、同じことを年一回の健診の際に心理士などの専門家が伝えるという形だと納得してくださるケースが多いので、私たち現場の保育士としてはもどかしい思いをすることも少なくありません。
こうした複数の負担が重なり、心が疲れてしまって、結果的に辞めてしまう方も多くいるのが現状です。
テクノロジーで「子どもに向き合える時間」を増やし、魅力的な職場に
— 最近はICTやAIを導入して業務効率化を図る園もありますよね。
私の知っている範囲では、まだそこまで導入が進んでいるわけではありませんが、写真の販売や保育記録をアプリで管理する動きは広がりつつありますね。連絡帳もシステムを入れて、保護者の方のコメントにスタンプするだけで済むとか。これがちゃんと浸透すれば、連絡帳を書いている時間が短縮できるので、そのぶん子どもと接する時間が増えます。
— ChatGPTなど生成AIが注目されていますが、どのように活用してみたいですか?
たとえば保育の現場でいえば、「連絡帳」を書く手間が非常に大きいので、遊んでいる時に気づいたメモをAIに文章としてまとめてもらうだけでもかなり助かりますね。
行事の案内文や親御さんへのお便りの文面なんかも、AIが下書きを作ってくれたら、私たちは内容をチェックして修正するだけになる。制作物のアイデアや、読み聞かせの物語のアレンジをAIが提案してくれるのも面白そう。時短にもなるし、子どもと向き合う時間が増えるのは大歓迎です。
— 保育士さんの負担を減らすために、AIが搭載された見守りカメラやセンサーを導入する園も増えています。「AIが監視する・される」ことへの抵抗はありませんか?
正直、午睡中の事故(窒息など)は怖いので、AIカメラでアラートを出してくれるなら助かります。午睡中にも「連絡帳」を書いたりと、仕事はあるので、人間の目だけでなくAIのサポートがあると安心感につながります。
あとは、子ども同士がちょっと目を離したすきに噛みついちゃったり、衝突しちゃったりするトラブルも多いので、「危険行動を検知して知らせてくれる」機能があるといいですね。最終的に判断・対処するのは人間でも、AIがリアルタイムに危険を教えてくれるだけでも大幅に事故が減ると思います。
“個別カスタマイズ”でワクワクする保育ができるかも
— 子どもたちにとっても、生成AIがコンテンツや学習サポートをしてくれるのは刺激的かもしれません。活用アイデアはありますか?
AIを使えば、お遊戯会の背景や衣装デザインの準備もスムーズになるかもしれません。AIの画像生成ツールを活用すると、子どもたちが喜ぶようなイラストやアイデアを瞬時にいくつも提案してくれるので、準備の時間が短縮されるうえに、より魅力的な演出が可能になりますよね。
また、「塗り絵」を子どもたち一人ひとりの発達段階や興味・嗜好に合わせて自動生成するという使い方も考えられます。さらに、昔はピアノを弾きながら替え歌で一人ひとりの名前を呼んでいましたが、AIなら子どもの名前が入った曲を瞬時に作り出すこともできます。AIがさまざまなバリエーションの曲を提案してくれれば、行事がさらに楽しく盛り上がるかもしれません。最近話題になっている「suno」のようなサービスを見ていると、可能性がどんどん広がっていると感じますね。
保育士を目指す若者へメッセージ——大変だけど、それ以上に子どもの笑顔が支えになる
— 最後に、「保育士になりたい」と思っている子どもたちへメッセージをお願いします。
これまで保育士という仕事の大変な部分をたくさん話してしまいましたが、子どもたちと関わっていると、本当に幸せで満たされる瞬間がたくさんあります。子どもたちがふと見せてくれる可愛い笑顔や、一つひとつの成長を目の当たりにすることで、それまでの大変さが全部吹き飛んでしまうくらい、元気や勇気をもらえる仕事なんですよ。
保育士は単に子どものお世話をするだけではありません。子どもたちの人生の土台づくりに関わる、とても大切で意義のある仕事です。これからAIの導入が進んだとしても、子どもたちに寄り添う「温かいまなざし」や「心の通ったコミュニケーション」は、人にしかできないかけがえのないものだと思っています。
もし少しでも保育の世界に興味を持ったなら、ぜひ勇気を出してチャレンジしてみてくださいね。
インタビュアーあとがき:AIとの“協働”で、より子どもに向き合う時間をつくれる未来
保育士の仕事と一言で言っても、0歳児から年長クラスまで年齢ごとの担当や、通常の保育園以外の施設での障がいのある子ども、虐待などの問題を抱えた子どものケアなど、業務の幅はとても広く、園の状況や担当クラスによって求められる役割は大きく異なります。ただ、どの現場にも共通しているのは、「子どもの成長を支える」という喜びが非常に大きい一方で、「業務量の多さ」や「人間関係のストレス」などが原因となり、離職率が高いという現実です。
だからこそ、記録や資料作りなどの定型的な業務を生成AIがサポートし、保育士が本来の役割である「子どもとじっくり向き合う時間」をもっと確保できる──そんな未来がすぐそこまで来ています。さらに、センサーやカメラを使った見守りによって事故のリスクを減らせれば、保育士一人ひとりの心理的負担も軽減されるかもしれません。
一方で、子どもとの「信頼関係」や「愛情をかけること」は、AIには絶対に代替できない、人間ならではの役割です。子どもたちの小さな疑問や不安をくみ取り、言葉にならない気持ちを表情や仕草から察して支える力こそ、保育士が持つ専門性であり、本質です。その大切さはどんなにテクノロジーが進歩しても変わらないでしょう。
インタビューの中で石井さんが話してくれた「大変だけど、子どもの笑顔で救われる」という言葉には、保育士という仕事の尊さと、他では得られないやりがいが詰まっています。子どもや心理学に興味がある人にとって、AI技術が進化するこれからの時代こそ、保育士という仕事は「人としての強み」を存分に活かせる魅力的なキャリアになるはずです。
業務の負担をAIが助け、保育士がもっと生き生きと働ける。そんな充実した保育環境が広がることを、私も心から期待しています。
