長期政権が育んだ「傲慢」と「無法」
地方自治を知らない竹下亘
島根県の丸山達也知事が東京オリンピック/パラリンピック開催に異議を唱え、聖火リレーについて中止検討の意思を表明した件について、自由民主党衆議院議員の竹下亘が2月18日の派閥会合にて以下のように言いました。
「知事の発言は不用意だ。注意しようと思っている」
不用意なのは竹下亘自身です。知事への注意とは地方自治法でいう「関与」の1類型である「助言又は勧告」ですが、いち国会議員に過ぎない竹下亘に「関与」する権限はありません。地方自治法第245条で「国又は都道府県の関与」が、第245条の2で「関与法定主義」が規定されています。やや読みにくい条文ですが、以下に上げます。
第245条(本文のみ):本章において「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」とは、普通地方公共団体の事務の処理に関し、国の行政機関(内閣府設置法第4条第3項に規定する事務をつかさどる機関たる内閣府、宮内庁、同法第49条第1項若しくは第2項に規定する機関、国家行政組織法第3条第2項に規定する機関、法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関又はこれらに置かれる機関をいう。以下本章において同じ)又は都道府県の機関が行う次に掲げる行為(普通地方公共団体がその固有の資格において当該行為の名あて人となるものに限り、国又は都道府県の普通地方公共団体に対する支出金の交付及び返還に係るものを除く)をいう。
第245条の2:普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。
都道府県に関与できるのは国の行政機関です。具体的に言えば内閣府、宮内庁その他の省庁、委員会、その他内閣の所轄の下に置かれる機関であり、端的に言えば行政府です。そしていち国会議員が都道府県に関与できるとする法令は現状存在しません。したがって、閣僚でもない竹下亘に関与する権限はないという事になります(国会議員は立法府に属していますから)。注意されるべきは、行政権に介入し「関与法定主義」という原則を蔑ろにしている竹下亘でしょう。恰も自分がルールであるかのようです。太陽王ことルイ14世の「朕は国家なり」のつもりでしょうか(尤もこの「標語」については「国家たる自分は何でもできる」という意味合いではなく「国家たる自分は公共を担う存在であり権力を恣意的に行使してはいけない」という解釈もできます。少なくとも自由民主党については後者の認識はないでしょうが)。
コロナ禍の終息をさせる気がない自由民主党議員が何を言うんだ
また、竹下亘は同時にこう発言しています。
「コロナの一番遠いところにいる島根が何を言うんだ」
「コロナの一番遠い」とは「日本で最もコロナウイルス禍対策がされている」事の証左ではないでしょうか。模範とされる事こそあれ、非難される筋合はないでしょう。竹下亘、延いては自由民主党は、コロナウイルス禍を終息させたくないのでしょうか。だからGoToキャンペーンに躍起になっているのでしょうか。そもそもコロナウイルス禍から最も遠いのは、多くの市民が「自宅療養という名の放置」を余儀なくされているという状況にもかかわらず、石原伸晃のように「無症状でも即入院」できたり、無尽蔵にPCR検査を受けられたりという体制にある自由民主党ではないでしょうか。厚生労働大臣の田村憲久は通常国会開会直前に「積極的にPCR検査をする事は費用対効果が良くない」旨の発言をしていましたが、自由民主党関係者という「身内」については費用対効果について度外視しているようです。そもそも市民の生命/健康にかかわる事案について「コスト」について考える事自体がナンセンスですが。何のために租税公課を徴収しているのでしょうか。
機関委任事務制度から脱却できていない?
現在、国と地方公共団体については地方自治法第1条の2の趣旨から「対等/協力」の関係にある事は自明の理です。しかし地方自治法改正前の1999年以前は「機関委任事務」の存在により「地方公共団体は国の下部機関」という様相でした。当時、地方公共団体の事務は「固有事務(公共事務)」「団体委任事務」「行政事務」という3つの「自治事務」に加え、国の事務でありながら地方公共団体の長に対して委任された事務である「機関委任事務」がありました。ここで委任者(国)と受任者(地方公共団体)の関係については恰も上級行政機関/下級行政機関の関係として扱われ、したがって地方公共団体は国の指揮監督に服するものとされていました(民法第643条以下の「委任」も参照すると良いでしょう)。その上膨大な機関委任事務が自治事務、とりわけ固有事務を圧迫していたという非難もあり、1999年の地方自治法改正により機関委任事務制度は廃止され、地方公共団体の事務は「自治事務」と「法定受託事務」に再編され、晴れて「対等/協力の関係」となりました。尤も、地方公共団体の財政基盤が整っていない状況での再編については、国の地方公共団体への「丸投げ」という性格も看過できません。小泉純一郎内閣において「三位一体改革」が遂行されるも、結局大きな成果は出ませんでした(それどころか夕張市は2007年に財政破綻という状況に陥りました)。併せて「地方分権改革」が国主導による「上からの改革」であるとすれば、果たしてこれは「対等」と言えるのかという疑念が生じますが。
先に上げた竹下亘の発言は、恰も「地方公共団体は国の意向に歯向かうな」と言わんばかりのものであり、国と地方公共団体が「対等/協力」の関係であるという認識があるとは到底思えません。「55年体制」も含め、長らく自由民主党は政権を握ってきたわけですが、長期政権の傲りがここにも垣間見えます。竹下亘の発言はまさに自由民主党の縮図ではないでしょうか。
参考文献
⭐️宇賀克也『地方自治法概説』(有斐閣)
⭐️橋本基弘/吉野夏己/土田伸也/三谷晋/倉澤生雄『よくわかる地方自治法』(ミネルヴァ書房)
⭐️樋口陽一/石川健治/蟻川恒正/宍戸常寿/木村草太『憲法を学問する』(有斐閣)
⭐️新村とわ「自治体は変わったか」-宍戸常寿/林知更編『総点検 日本国憲法の70年』(岩波書店)
