【読書記録 -35】何者
本作の発刊は2012年の11月。
小説家が本を一冊書き上げるのに1年くらいはかかるだろうと想像すると、舞台となっているのは2010~2011年、リーマンショックの影響によって日本経済が深刻なダメージを受けた頃のお話だ。
(今となってはイメージできない人もいるかもしれないが)有効求人倍率が0.6倍とか0.7倍だった頃(現在は1.2倍くらい)、採用する企業側がめちゃめちゃ強かった「就職氷河期」と呼ばれた時代の就活のお話だ。
そういった時代背景を知っていないと、本作は理解が難しいかもしれない。言い換えると、本作はある意味「平成レトロ小説」と呼んでもいいのかもしれない。発刊から14年も経った現在においては…
本作の著者は朝井リョウ。
彼は、早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞して文壇デビューしている。その後、2013年に本作『何者』で、戦後最年少(当時)の23歳で直木賞を受賞した。会社員として働きながら執筆を続けた経歴を持ち、組織と個人の軋轢や閉塞感の表現の鋭さに定評がある。

なんだかミステリーみたいなストーリーだったな…
読み終えて、ボクはそう感じた。
本作においては、主人公および彼を取り巻く友人たちが、悩みながら、苦しみながら就職活動に取り組んでいく様子が描かれていく。彼らは就職によって何者かになろうとしていたり、就職しないことで何者かになろうとしていたり、それぞれがそれぞれの思惑を持っている。
そこにそれぞれのTwitter(当時)の投稿が交錯する。
彼らは、友人として交わす言葉とは裏腹に、140文字の投稿に自尊心や他者への嘲笑を隠し持っている。その歪みや違和感は少しずつ大きくなっていき、最後にTwitterの中の自分と現実の自分が重なっていく。
そういえば、江戸川乱歩の作品にも『何者』という同名タイトルの小説があった。
うろ覚えで恐縮だが…
こっちの『何者』も自己顕示欲がテーマだ。
犯人は自分が(名推理ができる)優秀な人物だと皆に知らしめたいために殺人を犯す。そして自分で自分のトリックを推理してみせるが、結果的に明智小五郎にその推理の穴を突かれて自白する…というようなストーリーだったように思う。
だから、本作(朝井リョウの方の『何者』)を読んだ時に「ミステリーっぽい」と感じたのかもしれない。
