【読書記録 -90】デジタル時代の基礎知識 マーケティング(第2版)「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール
デジタル時代のマーケティングに重要なのは「PDCA」
マーケティングはメディアの進化と密接に関わってきた。テレビや新聞折込が主役だった大量生産・大量消費の時代から、スマートフォンの普及によってSNSが台頭し、現在の消費者の消費行動はオムニチャネル化している。
オムニチャネルとは、すべての商流・物流・情報流がつながること。業界・企業・組織・地域・規模・年代の壁を超え、全ての人々がつながることで新たな価値を生み出すことができます。
さらに、教育課程でSDGsを学んだ世代が消費者層になってきたことから、企業は市場の捉え方を、これまでの(単純な)「消費者」から(自らの価値観で選択を行う)「生活者」へとシフトしなければならない。
現代の日本がインフレ傾向にあるとはいえ、飽食の時代であることは変わらない。この供給過剰の時代に企業が追求しなければならないのは、「宣伝」を乱発することではなく、顧客の行動をデータで「見える化」し、継続的にマーケティング活動におけるPDCAの精度を高めていくことだ。
【マーケティング活動のPDCAとは】
Plan(計画): 顧客の立場に立った商品仕様と伝え方の仮説を立てる
Do(実行): 様々な媒体で商品仕様とライフシーンでの利用例を伝える
Check(評価): 売上や利益、対象顧客の購買状況、クチコミなどのチェック項目で振り返る
Action(改善): チェック項目をもとに改善ポイントを考える
デジタル時代の「マーケティング手法」
本書『デジタル時代の基礎知識 マーケティング(第2版)「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』の著者 逸見光次郎は小売実務のスペシャリストだ。そしてオムニチャネル戦略のエキスパートでもある。

AIの進化が加速度的に進む現代において、必要なのは小手先のテクニックではなく顧客理解だ。データやテクノロジーを目的化せず、それらを顧客に寄り添うための手段として使いこなし、自ら「問いを立てる」能力を磨くことが目指すべきゴールであり、企業が拠り所とすべき「顧客ファースト」の思考法だ。
マーケティング戦略を立案するにあたっては、STP・4P・4Cのビジネスフレームワークを組み合わせるのが良い。それは、これらのフレームワークが「誰に(STP)」「何を/どのように(4P/4C)」提供するかを整理するのに役立つからだ。
1. STP(分析・戦略の明確化)
マーケティングの土台となる「どこで、誰に対して、どのような立ち位置で勝負するか」を決めるためのフレームワークです。
・Segmentation(セグメンテーション:市場細分化):市場を顧客のニーズや属性(年齢、性別、地域、行動パターンなど)ごとに細かく分ける。
・Targeting(ターゲティング:標的市場の決定):分けた市場の中から、自社が最も強みを発揮できるターゲット層を選ぶ。
・Positioning(ポジショニング:独自の立ち位置):ターゲット顧客から見て、競合他社にはない「自社ならではの価値」や「差別化ポイント」を明確にする。
2. 4P(企業視点の施策:マーケティング・ミックス)
製品を売るために、企業側がコントロールできる4つの要素を組み合わせる考え方です。
・Product(製品):何を売るか。機能、デザイン、品質、サービス、ブランド名など。
・Price(価格):いくらで売るか。定価、割引率、支払方法、ターゲットの購買力との整合性。
・Place(流通):どこで売るか。販売チャネル(店舗、ECサイト)、在庫管理、配送ルート。
・Promotion(プロモーション:販促):どう知ってもらうか。広告、SNS、イベント、PR活動。
3. 4C(顧客視点の施策)
4Pを「顧客から見た価値」に置き換えたものです。顧客中心の現代マーケティングでは、4Pとセットで検討されます。
・Customer Value(顧客にとっての価値):Productに対応。その製品を買うことで、顧客のどんな悩みが解決し、どんなメリットがあるか。
・Cost(顧客が支払う費用):Priceに対応。単なる商品価格だけでなく、購入までにかかる時間、手間、心理的負担。
・Convenience(利便性):Placeに対応。買いやすさ、アクセスの良さ、決済のしやすさ。
・Communication(コミュニケーション):Promotionに対応。一方的な広告ではなく、顧客との対話、信頼関係、アフターフォロー。
しかし企業はこれらのフレームワークだけでなく、明確な財務的視点を有するべきだ。LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)のような単純計算の指標だけでなく、それをPL(損益計算書)・BS(貸借対照表)・キャッシュフロー計算書といった財務諸表と結びつけて語ることができるリテラシーが不可欠だ。短期的なROI(投資利益率)に一喜一憂するのではなく、既存顧客との長期的な関係性が利益の源泉であることを組織全体で共有しなければならない。
そこで、重要となるのが「顧客勘定」という概念だ。
顧客勘定とは 商品単位ではなく、顧客単位(顧客軸)で売上・利益を把握・分析する手法のことで、これまでの「何がいくつ売れたか(商品勘定)」から、「どんな顧客がいくら買い物をしてくれたか」へと視点を転換します。
具体的には、顧客一人ひとりの年間購入金額や購入回数を、経年で継続的に追いかけます。これにより、全体の売上を「新規顧客」「既存顧客(リピート客)」「休眠復活客」などに分解して捉えることができます。
この手法を用いることで、企業の売上・利益・経費と、実際の顧客の行動を結び付けて考えやすくなります。 例えば、新規顧客は獲得経費がかかるうえに離反率が高い一方、既存顧客は購入単価や頻度が高く利益への貢献度が何倍も大きい、といった実態がデータとして明確になります。
このように「顧客のライフタイムバリュー(LTV)」を可視化することで、誰に向けてどのような施策を打つべきかが明確になり、結果的に財務諸表の売上や利益の向上につなげることができます。
また、組織の壁を越えた連携を実現するために、相互支援を評価する「関与売上」の導入が鍵となる。
関与売上とは、最終的な購入が行われたチャネルの売上だけでなく、その購入に至るまでに情報提供やサポートなどで関与した部署やチャネルの貢献も評価する指標です。
インターネットやスマートフォンの普及により、SNSやメルマガなどの「情報接点」と、ECサイトや実店舗などの「購入接点」が明確に分かれるようになりました。従来のように「購入チャネルの売上=担当部署の評価」としてしまうと、売上に貢献した他部署(EC事業部やコールセンターなど)が正当に評価されず、社内で評価の取り合いや不公平感が生じてしまうという課題がありました。
関与売上では、売上を関連部署にもダブルカウントするなどの方法で評価を行います。
例1)EC関与売上:ネットで注文して店舗で受け取る「店受取受注」の場合、財務諸表上の売上は店舗につきますが、EC事業部にも会社全体へ貢献した「EC関与売上」として評価を与えます。
例2)コールセンター関与売上:コールセンターでの在庫案内によって顧客が近隣店舗で購入した場合や、コールセンターがECで代理注文をして宅配した場合も、コールセンターの貢献として評価します。
関与売上を評価軸にすることで、部署間の評価の取り合いがなくなり、組織間の相互支援や協力関係を生み出すことができます。これにより、各部署が自部門の売上(部分最適)だけを追うのではなく、他部署と連携しながら顧客起点のマーケティング(全体最適)を実現できるようになります。
デジタル時代の「顧客ファースト」
AI時代において、人間の役割はより本質的な領域へシフトしなければならない。AIは商品と顧客の距離を劇的に短縮するが、それは過去のデータの延長線上にある最適解に過ぎない。
人間にしかできないのは、データの裏側にある「非合理性」「感情」「情緒」を読み取ることだ。顧客自身も気づいていない「無意識」のニーズを汲み取り、クリティカルシンキングによって「もっと良い方法はないか」と問いを立て続けることこそが、マーケティングの差別化要因となるのだ。
CRM(Customer Relationship Management)においても、単なる囲い込みや値引きクーポンという「ディスカウント・コマース」から脱却しなければならない。企業が追求すべき「カスタマーサクセス」とは、顧客の課題解決を支援することであって、単にKPIを追うことではない。そのためには、従業員のEX(Employee Experience)を向上させ、SCM(Supply Chain Management)全体で生活者に価値を届けようとする意識の向上が重要なのだ。
CRMとは、単なる「顧客管理」や「システム」のことではなく、顧客の情報を適切に管理・活用し、顧客との長い関係性を築くことであると定義されています。
マーケターの前田徹哉氏は、CRMを「サザエさんのサブちゃん(御用聞き)」に例えています。かつての御用聞きは担当する数軒の顧客情報を頭に入れて最適な提案をしていましたが、現代のICT技術でそのやり方を支援・進化させれば、5万軒でも500万軒でも同じように顧客を管理し、適切な提案ができるようになると述べています。
また、マーケターの奥谷孝司氏は、CRMを「顧客の囲い込み戦略」だと考えるのは誤りであると指摘しています。現代の顧客はオンラインとオフラインを自由に行き来して自分の課題を解決する店舗を探すため、企業側に縛り付けるような囲い込みは不可能です。
真のCRMとは、顧客視点に立って「顧客の課題解決に寄与する選択肢を増やすこと」であり、地道な顧客体験の向上を通じて「この店は私の課題を解決してくれる」と信頼してもらうことで、自然とつながり続ける関係を築くことだとしています。
マーケティングをマーケティング部門だけに任せる時代は終わった。AIが台頭する現代で通用するマーケティング手法は、テクニック的なものではなく、企業全体で共有すべき「思考法」なのだ。
自分がお客様だったらどうしてほしいかを問い続けること。
顧客の反応・購買行動の履歴をデジタルデータとして収集し、見える化すること。
これこそが「マーケティングのデジタル化」だ。
企業内を横断的に、データに基づいた「Check(検証)」と「Action(改善)」を発動させることができれば、マーケティングのPDCAサイクルをしっかりと回せるようになるのだ。
参考リンク集
・Amazon『デジタル時代の基礎知識 マーケティング(第2版)「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』書籍紹介ページ
・日本オムニチャネル協会 協会概要
