【読書記録 -163】AIの時代に頭がよくなる人 悪くなる人
AIは「学ぶコスト」を限りなくゼロにした
頭がいいとは何だろう。
知識が豊富な人だろうか。
計算が速い人だろうか。
もしそうだとすれば、その多くはAIの方が得意になりつつある。
『AIの時代に頭がよくなる人 悪くなる人』の著者 岡瑞起は、人工生命や複雑系を研究する生命研究者だ。
本書はAIの使い方を解説した本ではない。
AIによって人間の仕事や教育、創造性、共同体がどのように変化するのかを、多角的な視点から考察した一冊である。

AIは便利だ。
文章も要約してくれるし、アイデアも出してくれるし、創作まで手伝ってくれる。そして、知りたいことがあれば24時間いつでも答えてくれる。ウチの娘なんか「学校の先生よりチャッピーの方がわかりやすく教えてくれる」などと言い出す始末だ。
人が何かを学ぶとき、それは必ず金銭および時間とのトレードオフとなる。そして、そのコストはテクノロジーの進歩に伴って下がっていくものだ。
例えば、インターネットがなかった時代、著名な専門家に学ぶためには時間と金をかけて学びを乞いに行かなければならなかった。もっと時代を遡ると、交通網が発達していなかった時代には学びに行くことすらできなかったかもしれない。
ところが、AIの進化によって状況は一変した。
そう、「学ぶコスト」が限りなくゼロに近くなったのである。
人は、ループを閉じるたびに賢くなる
人は違和感を覚え、調べ、考え、選択し、行動し、その結果を振り返る。そして、その一連の循環(ループ)を何度も繰り返すことで、自分なりの判断基準や直感を育てていくものだ。
ところがAIの進化によって、そのループを自分で閉じなくても、一定水準のアウトプットが出せるようになってしまった。
AIに考えてもらう。
AIに選んでもらう。
AIに文章を書いてもらう。
もちろん、それ自体は悪いことではないのだが(ボク自身も使ってるしね)、その状態が当たり前になり、自分でループを閉じる機会そのものが減ってしまうことが問題なのだ。
― 生み出すことをAIに任せてしまうと、そのスキルは絶対に伸びない ―
まさにその通りだ。
人は失敗し、修正し、もう一度試す。
その繰り返しによって学ぶ。
だから「ループを閉じる」ことが重要だ。
情報を取り入れっぱなしじゃダメなんだ。
内省して思考を循環させない限り「学び」にならないのだ。
AIが急激に進化してしまった現代において、ループを閉じることを知っている人は、AIを活用してさらに頭が良くなっていく。だけどループを開いたままの人は、AIがそれっぽいアウトプットをしてしまうことによって、少しずつ頭が悪くなる…
本書のタイトルを、ボクはそんなふうに理解した。
AI時代に必要なのは「問い」を持つこと
ウチの娘が言うように、知識はAIが間違えずにわかりやすく教えてくれる。だから、教師の役割が「教える」ことから「導く」ことへ変わるだろうと著者はいうのだ。
それは、人それぞれが「何を知りたいのか」「何を表現したいのか」という問いを見つけ出すプロセスへの道案内だ。そして、その問いを持つためには「なんとなく面白そう」という直感を養うことも重要になる。
AIは答えを返してくれるけれど、何に興味を持ち、どこへ向かいたいのかまでは決めてくれない。その最初の一歩は、やはり人間自身が踏み出すしかないのだ。
これからの時代にAIは欠かせない道具になるだろう。
だけど、その便利さに甘え、自分で考え、自分で試し、自分で振り返る機会まで失ってしまえば、人は少しずつ成長しなくなる。
学ぶコストはゼロに近づいた。
しかし、学ぶことそのものをAIに任せてはいけない。
参考リンク
Amazon:AIの時代に頭がよくなる人 悪くなる人
Audrey Tang:『ループを、閉じる』
