心臓リハビリで行う筋力トレーニングとは?
~安全に体力を取り戻すための運動療法をわかりやすく解説~
「心臓リハビリ=ウォーキングや自転車だけ」と思われがちですが、実は**筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)**も重要な治療の一つです。
心不全や心筋梗塞、心臓手術後の患者さんは、入院中の安静や病気そのものの影響で筋力が低下しやすくなります。筋力が低下すると、歩く・立つ・階段を上るなどの日常生活が大変になるだけでなく、再入院や予後にも影響するといわれています。
この記事では、新人理学療法士や患者さん向けに、心臓リハビリにおける筋力トレーニングの基本を解説します。
なぜ筋力トレーニングが必要なの?
心臓病になると、
安静期間による筋力低下
加齢によるサルコペニア
心不全による骨格筋機能低下
疲れやすさによる活動量低下
などが起こりやすくなります。
筋肉が減ると、少し歩いただけでも息切れしやすくなり、「心臓が悪いから疲れる」と思われがちですが、実際には筋肉が弱くなっていることが原因の場合も少なくありません。
筋力トレーニングを取り入れることで、
歩く力が向上する
階段が楽になる
転倒予防
日常生活動作(ADL)の改善
QOL(生活の質)の向上
運動耐容能の改善
など、多くのメリットがあります。
心臓リハビリで行う筋力トレーニングの種類
① 下肢トレーニング(最も重要)
歩行能力に直結するため、最優先で行います。
代表例
スクワット
椅子からの立ち上がり
レッグプレス
レッグエクステンション
ヒールレイズ(かかと上げ)
セラバンド運動
特に大腿四頭筋や殿筋群を鍛えることで歩行能力が改善します。
② 上肢トレーニング
日常生活では腕を使う場面が非常に多くあります。
例
ダンベル運動
セラバンド
アームカール
ショルダープレス(軽負荷)
チェストプレス
心臓手術後では胸骨保護期間があるため、医師の指示を確認して実施します。
③ 体幹トレーニング
姿勢保持や歩行の安定性向上に役立ちます。
例
ブリッジ
ドローイン
骨盤運動
バランストレーニング
無理な腹圧は避け、安全に行います。
実施頻度
ガイドラインでは
週2〜3回
が推奨されています。
毎日行う必要はありません。
筋肉は休息することで回復するため、1日程度休養日を設けることも大切です。
有酸素運動はほぼ毎日でも可能ですが、筋力トレーニングは回復時間を考慮します。
強度(どれくらい頑張る?)
心臓リハビリでは「高重量」ではなく、「安全な強度」で行います。
初期
40〜50%1RM程度
高齢者や心不全患者ではまずこの程度から開始します。
慣れてきたら
50〜70%1RM程度
少しずつ負荷を増やしていきます。
回数
10〜15回できる重さ
1〜3セット程度
「あと2〜3回できそう」と感じる程度が目安です。
Borgスケール
筋トレ中は
11〜13(楽〜ややきつい)
程度を目標にします。
息を止めるほど頑張る必要はありません。
実施時間
筋力トレーニングだけで
20〜30分程度
有酸素運動の後に行うことが多く、
有酸素運動
筋力トレーニング
クールダウン
という流れが一般的です。
呼吸がとても重要
筋力トレーニングでは
息を止めないこと
が最も重要です。
力むと血圧が急激に上昇し、心臓への負担が大きくなります。
そのため、
力を入れる時に息を吐く
戻す時に息を吸う
を繰り返します。
注意点
① 血圧を確認する
開始前後だけでなく、必要に応じて運動中も測定します。
著しい血圧上昇には注意します。
② 息こらえをしない
バルサルバ手技は血圧変動を大きくするため避けます。
③ 胸痛や息切れが出たら中止
次の症状があれば運動を中止し医療者へ報告します。
胸痛
強い息切れ
めまい
冷汗
動悸
気分不良
④ 不整脈に注意
頻脈や新たな不整脈が出現した場合は無理をしません。
必要に応じて心電図モニターで確認します。
⑤ 胸骨正中切開後は胸骨保護を意識
CABGや弁膜症手術後では、
重い物を持たない
左右同時に力を入れる
医師の指示に従う
など胸骨への負担を考慮します。
⑥ 疲労を翌日に残さない
筋肉痛は多少あっても問題ありませんが、
強い疲労感
日常生活に支障が出る疲れ
翌日まで続く強い倦怠感
がある場合は負荷が強すぎる可能性があります。
新人PTが押さえておきたいポイント
臨床では「重い負荷をかけること」よりも、
安全に実施できるか
呼吸が止まっていないか
Borgや自覚症状は適切か
血圧・脈拍は安定しているか
フォームが崩れていないか
を観察することが重要です。
患者さん一人ひとりの病態や体力に合わせて負荷を調整し、「安全に継続できる運動」を提供することが心臓リハビリの基本です。
まとめ
心臓リハビリの筋力トレーニングは、単に筋肉を鍛えるだけでなく、「歩ける身体」「疲れにくい身体」「再入院しにくい身体」をつくるための重要な治療です。
ポイントを整理すると以下の通りです。
種類:下肢・上肢・体幹を中心に実施
頻度:週2〜3回
強度:40〜70%1RM、10〜15回×1〜3セット、Borg11〜13
呼吸:息を止めず、力を入れる時に吐く
注意点:血圧・心拍・症状を確認し、胸痛や強い息切れ、不整脈があれば中止
有酸素運動と筋力トレーニングを適切に組み合わせることで、運動耐容能や日常生活動作、生活の質の向上が期待できます。
新人PTは「負荷量」だけでなく、「安全性」と「継続性」を意識して介入することが、質の高い心臓リハビリにつながります。
