「先に行っちゃうね」より、「電車になって行く?」と言える保育士に

今、園に実習生が来ている。
二日間、うちのクラスにも入った。
お昼寝中、
「何か質問ある?」と聞くと、
いろいろ考えてくれていたみたいで、
たくさん話してくれた。
その中のひとつが、
「“やだやだ”って言う子に、どこまで受け止めて、どうしたらいいかわからなくて…」
というものだった。
例えば、寒くて水が冷たいから
「て、あらうのやだ」と言った子に、
実習生は
「じゃあ先生、先に行っちゃうね」
と言ったら、ついてきてくれた、と。
それを、あまり悪い声かけだとは思っていない様子だった。
でも私は、
その言葉を耳にするたびに、
ずっと引っかかっていた。
給食のときも、
「じゃあ先生が〇〇ちゃんの分、食べちゃうね」
午睡でも、
「寝ないなら先生、〇〇ちゃんのお布団で寝ちゃうね」
きっと、どこの園でも一度は聞いたことがある言葉。
でもそれって、
“〇〇されるのが嫌だからやる”
になっていないかな、と思う。
置いていかれるのが嫌だから行く。
食べられるのが嫌だから食べる。
布団がなくなるのが嫌だから寝る。
それは、
不安や焦りをきっかけに
動いているだけかもしれない。
脅しているつもりはなくても、
こどもの中には小さな「怖さ」が残るかもしれない。
もしその怖さがなかったら、
その子はやらなくていいのかな?
私は、できれば
“やりたいからやる”
を育てたい。
心が前を向いて動く経験を、
少しずつ重ねていってほしい。
そう思っている。
だから実習生に、
そんな私の考えをそのまま伝えた。
そして、具体例も話した。
まず私は、
「やだ」
と言われたら、すぐに方法を考えない。
「そっか、嫌なんだね」
と、その子の気持ちを言葉にする。
正しいかどうかじゃなくて、
今そう感じているんだね、と受けとめる。
そのあとで、
「じゃあどうしたらできそうかな?」
と、一緒に次の一歩を考える。
先日、おやつ前に
「て、あらうのやだ」と言った子がいた。
その子は日向に座っていた。
「じゃあここでおひさまパワーで温めて、
ささっと洗って、また戻ってくれば冷たくないかも♪」
それでも「やだ…」
「じゃあ、今ここでポカポカにして
さささっと洗って、またここで温めるのはどう?」
少し考えて、
「…うん!」
そう言ってくれた。
結果は、
泡石鹸まではいかなかった。
水で濡らしただけ。
でも、私はそれで十分だと思った。
今日は“水道まで行けた”
それが大きな一歩。
「石鹸もやろうね」とは言わなかった。
「手洗えたね」
それだけで終わりにした。

その話を、実習生は真剣に聞いてくれて、
たくさんメモを取っていた。
そして次の日。
実習ノートにこう書いてあった。
おやつ前、
また「て、あらいたくない」と言う子がいた。
そのとき、
「電車になっていく?」
と声をかけたら
「うん!」
と言ってくれて、
安心した表情を見せてくれた、と。

“やりたい”につながる声かけ、レパートリーを増やしていきたい、とも書いてあった。
読んだとき、
胸がじんわりあたたかくなった。
伝わったんだ。
しかも、すぐにやってみた。
それが何より、すごい。
こどもを動かす方法は、いくらでもある。
でも、
こどもの心が動く方法は、
少しだけ手間がかかる。
想像力がいる。
待つ時間もいる。
でもその分、
こどもの中に残るものは違うと思っている。
実習生がこれから保育士になったとき、
今日のあの「電車になっていく?」が、
どこかでまた誰かの“やりたい”を育ててくれたらうれしい。
私は今日、
こどもだけじゃなく、
未来の保育士の心も、
少しあたためられた気がした。
▼日々の保育で感じたことや大切にしていることを綴っています。読んでいただけたら嬉しいです。
