見出し画像

【連載小説】「コワレモノ預かりカウンター」は コチラです(第8話)


前の話    第1話から読む (あらすじ)        次の話




「えっと…女の子はたぶん幼稚園くらいだったかな?僕のTシャツの裾を引っ張る子がいるなーと思って見てみたら、無言でメモを渡してきたんです」

高野くんが言った。


「なんか恥ずかしそうにモジモジしてて…。これなあに?って聞いたら、ちっちゃい声で、
『きっと、見つけられると思うよ』
ってだけ言って、僕がまだ何も答えないうちに走ってっちゃって…。
お母さんがちょっと離れたところで見てて、僕と目が合うと会釈してくれました」


渡されたメモには、


マルイヒカリノモトヘ


と書かれていたそうだ。


「メモを読んですぐ顔を上げたんですけど、二人とももういませんでした。僕、言葉の意味全然わかんなくて…」


「丸い光のもとへ…?じゃあ、ヒントにはならなかったんですか?」


私は聞いた。



「はい。僕はたまたま赤いカボチャの中に入ったんですけど…。後から考えてみたら丸いヒカリ、ありました!
丸い窓からの日差しが、床とか壁に映ってたんです!」


その親子はどんな物を修理に出して、どんな縁が修復されたのだろう。

「さっきのメッセージ、もう一度考えてみない?」


風未がテーブルの上にさっきのメモを置いた。


「イツモトマルソノサキニアル、だよね…


「どこで切るのか、考えられるパターン書いてみましょうか」


私はノートとペンを出した。


イツ  モト  マル  ソノ サキ  ニア  ル

イ  ツモ  トマ  ルソ  ノサ  キニ  アル


「イツ、モト、マル、ソノ、サキ?誰かの名前?」


風未はペンを取って文字を丸で囲った。


「ツモ?中国語っぽい感じ…?違うか」


高野くんは自分で却下した。


「アルは、何かが有る、のアルかな…」


私は言って、


イツモト  マルソノ サキニアル


と書いた。


「あっ!!」


高野くんが叫んだ。


「マルノサキ…丸の先にある、じゃないですか?!丸いオブジェとか?」


「マルノサキ、じゃなくてマルノサキだよ。ソ、が入ってるよ」


言いながら、風未は新たに、


イツモ トマル ソノサキニ  アル


と書いた。


「やっぱり、イツモ トマル…普通に考えたら、『いつも・とまる・そのさきに・ある』って感じだけど…」


「いつも泊まる、ソノサキにある」


私が書いた文字を、高野くんが興奮気味に叩いた。


「わ!きっとこれですよ!…でもソノサキ、っていう場所とかホテルとか民宿とか、聞いたことないなあ…あっマルソノサキ…?もしかしてマルソノ サキさん?」


「それ誰…?」


風未が呆れたように言ったので私が吹き出し、高野くんもハハハと笑った。
私たちはそろそろ行こっか、と席を立った。
会計のとき高野くんが、


「ものすごーく美味しかったです!ごちそうさまでしたぁ!!」


と、大きな声で言った。
私はいつも小さな声で「ごちそうさまでした…」と言うのが精一杯だ。
お店の人は嬉しそうに笑い、みんな笑顔になった。

それは、高野くんが無意識に周りに配っているギフトだと思う。些細なことだけれど、こんな瞬間が人の心に積み重なっていったら、色んなことがもっとうまく回ってゆくのかもしれない。



「高野くんのときカボチャのオブジェだったってことは…観光スポットに出るってことかなぁ。私、前に来たときはそういうところ、あまり行かなかったから…」


「だとしたら、土庄港とのしょうこうに行ってみますか?すぐそこですよ、観光センターとかオリーブの大きなオブジェとかもありますし。僕、案内します!」


私たちはとりあえずそこに行ってみることにした。
高野くんがバイクに跨り、ヘルメットを被ろうとしたとき、風未が声を掛けた。


「ねえ、高野くん。今日は島に泊まるの?」


「いえ、今日夕方のフェリーで帰ります。岡山のほうをまわって途中も行きたいとこあるし、バイクだから時間も掛かるんで…」



「さっきからずっと私たちの旅に付き合わせちゃってるけど、大丈夫なの?どこか行きたいところとかないの?」


風未は天真爛漫な感じだけれど、意外にまわりをよく見ていて気を遣うタイプなのがだんだん分かって来た。


「僕、このために来たんです。ぜひご一緒させて下さい!…って、あっ、でもそっか!僕がいたらかえってお邪魔かも!すみません、気が付かなくって…」


「邪魔なんてことないですよ!むしろ感謝してます」


私は本心から言った。


「そうそう!何言ってんの?そんなつもりで言ったんじゃないよ!一緒に探してくれるのは心強いけど、せっかく島に来たんだから、って思ったの。
私、お世辞とか思ってもないこと、言えないタチだからね」


「嬉しいなぁ。ありがとうございます!
…えっとじゃあ僕、昨日泊まった知り合いの家に荷物少し置かせてもらってるんで、こっから近いしそれ取りに行って、また合流します」


私達はその場でラインを交換し、高野くんは手を振りながらバイクで走り去って行った。



土庄とのしょう港の観光センターに着くと、ちょうどフェリーが到着したところで辺りは観光客で賑わっていた。
港にはひときわ目立つ、金色のオリーブの輪のオブジェが見える。
卵のオブジェと同様、瀬戸内国際芸術祭の作品らしく「太陽の贈り物」というタイトルだった。風未はオブジェを見上げた。


「私のデミタスカップも太陽柄だから、もしかしたらって思ったけど…。高野くんのときは港のカボチャの中…。これも港のオブジェだけど『イツモトマルソノサキニアル』との関連性あるかなぁ」


「船が停泊する、の泊る…とか?」



よく見ると、葉の一枚一枚に何かメッセージが刻まれている。調べてみると地元の小学生約百人の書いた、未来へのメッセージとのことだった。
こんなプロジェクトに参加したら、島を出ることになっても特別な思いでこのオリーブのオブジェのことを思い出すんだろうなと思った。

私たちは、しばらく金色に輝く美しいオブジェを見上げていたけれど、特に変化はなさそうだった。


「やっぱりここじゃないのかぁ。 いかにもこの輪の中にカウンター、出てきそうな雰囲気なのに…」


でもあそこじゃ届かないか、と風未は腕を組んで考え込んだ。

それから私たちは、すぐ近くの観光センターに行ってみた。
中は広々として明るく、お土産コーナー、イートインの売店などがあった。


「わあ!春琉ちゃん、お土産見ない?なんかテンション上がってきたー!」


「はい!私もみたいです!」


店内には小豆島名物の醤油やそうめん、オリーブオイルやお菓子、化粧品などがずらりと並んでいた。
さっきまでいたところには人はあまり見かけなかったのに、どこに隠れていたのかと思うほど、観光センターは混雑していた。
私たちはそれぞれじっくりと品物を選んで、思った以上に買い込んでしまった。


「はぁー、満足!」


大きな紙袋をいくつも抱えた風未が、ベンチにドサっと座った。
私も名産品の醤油や生そうめん、ごま油、オリーブオイルはもちろん、お菓子や化粧水やハンドクリームなども買ってしまった。


「あー!私もそれ買った!前きたとき買って、美味しかったんだよね」


私の紙袋から見えていたのは『そうめんぽりぽり』という、そうめんを油で揚げたスナック菓子だった。


「あとこれもめちゃくちゃ美味しいよ!」


風未は『オリーブポルボローネ』というお菓子の箱を出した。そのパッケージには“幸せをよぶお菓子”という、言ってしまえばベタなキャッチフレーズが書かれていた。


「これ、クッキーみたいなんだけど、ホロホロする感じですごく美味しかったんだ。ほんとに幸せ呼ぶ感じ…。だから春琉ちゃんにあげるね」


「えっ?いいの?」


「うん!そのつもりで買ったんだ、食べてもらいたくて。どうぞ!」


「わぁ、嬉しい!ありがとうございます」


いつもならもっと遠慮してしまうけれど、風未はまっすぐに気持ちを伝えてくれるので、素直に受け取れる。
友達付き合いでも気を遣いすぎる自分に疲れていたので、風未の屈託のなさは気持ち良く、嬉しかった。

本当なら、もっと血眼になってカウンターを探さなければダメなのかもしれない。けれど風未の前回の旅の話を聞いたからとかではなく、それでは見つからないような気がしていた。

この旅で何かが変わるような予感がしていて、それは良いことなのかはよく分からなかった。でも表面的にはどうであれ、悪い方には行かないと心の深いところで感じていた。
だからこのまま、成り行きに任せながら風未と小豆島を旅しよう。
それで見つからないのなら仕方ない。




結局、私たちはノープランのまま車に乗り込んだ。


「思ったんですけど…少しこの辺りを歩いてみるのはどうですか?」



「確かに!車で移動してるだけだから、それもいいね!あ、あそこに五重塔…三重?の塔みたいなのが見えるけど…あそこ、行ってみない?」


「いいですね!私、調べてみますね」


私たちは駐車場を探して車を停めた。


朱色の三重塔は「西光寺さいこうじ」というお寺のもので、「迷路の街」の中にあった。
私たちはその周りをゆっくりと歩きながら、いろいろな話をした。



「私、ずっとお母さんと折り合い悪くてさ。口を開けばケンカ。何でも口出して来るし、いつも決めつけてくるし…。ちょっと…なんていうか…そうだな。怖いくらいだったの。
で、結婚したい人連れてったら大反対されて、大喧嘩のあと勝手に結婚しちゃったんだ。ラインとかも変えて、お母さんからの連絡来ないようにして」


両親は風未が幼い頃離婚し、自分も二つ下の弟も就職で家を出ていたので、母親は一人暮らしだったそうだ。


「でもやっぱり気になっちゃってさ…。しばらくしてから実家のマンションに帰ってみたら…違うひとが住んでた」


弟に連絡し、すぐに新しい住所は分かったものの、それ以来母親に会うのも連絡先を教えるのも怖くなってしまったそうだ。


「自分が悪いんだけどさ…人生ってそんなときあるよね」


風未は私の前を歩いていたけれど、ふいに止まって、空を眺めた。


「ああ、私バカだったな、なんであんなことしたんだろう、って、帰るときにマンションの部屋を振り返って、知らない人の洗濯物が干してあるのを見た時ね……子供みたいに大きな声で泣いちゃったんだ」


私は自分の母親のことを思い出した。過干渉なときもあったりするけれど、連絡が取れなくなったらと思うと胸がぎゅっとした。


「きっとお母さん、私に縁切られてすごくショックだったろうな、って思ったら、怖くなっちゃって…。
そしたら、就職で実家を出るとき持ってきたデミタスカップが、何の前触れもなく割れて…。お母さんが結婚のお祝いにもらったのを、一客分けてくれたのに…。
そしたらあの木箱が現れたんだ。で、すぐに小豆島に行ってカウンター探してみたけど、見つからなかったの」


風未はくるっと振り返った。


「で、さっき言ったように箱は消えちゃったんだけど、この間、玄関の棚にまた現れて。…で、フェリーに乗って、春琉ちゃんに出会って、今に至る!」


重たい話ごめん!と思ったのか、風未は最後はふざけた調子で言った。
美人で明るくて元気、人見知りもしなくて男女共に人気がありそうな風未にも、他人からは分からない抱えている思いがあるんだな…と思った。


「私は、彼と突然連絡とれなくなって…」



私は恭平がいなくなったときのことを話した。


「彼は真面目で律儀な性格だから、別れたいと思ったらきちんと伝えてくれるタイプだと思ってたんです。だからショックで取り乱す、というよりは正直驚いちゃって…驚いて、呆然としました」


私が勝手に築き上げた、恭平に対するイメージだったのかも知れない。「こういう人のはずだ」と、自分に都合のいいように作り上げていたのかもしれない。


長い階段を上りながらそんな話をしているうちに、三重塔の真下にたどり着いた。
横には『第五十八番奥の院 誓願ノ塔』と書かれた看板が立っていた。


(第8話に続く)

前の話    第1話から読む   次の話

まとめ読みはコチラです。



いいなと思ったら応援しよう!