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【#30】連載小説 『美容室「ヨアケ」、開店します。』 (第5章11話「そっちからみたら」末継の場合③)

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『わぁ…かわいい!』


「すごーい!!」


クリスマスの飾り付けが終わった一階スペースを見て、「あーちゃん」と美久が言った。新城が中心になって用意した手作りの簡単なものだったが、独特の色使いやセンスでとてもおしゃれに見えた。
少し照明を落としたので、白い漆喰の壁にツリーの電飾の点滅が鮮やかに映っていた。

『アカツキ、クリスマスパーティーってこんなに楽しいものなのね!』


パーティーが始まってしばらくした頃、「あーちゃん」は末継に小声で言った。姿もそうだが、中身の小夜さんも子供のように楽しんでいた。

小学一年生の美久みくが用意してきたクイズ大会は、意地悪なぞなぞだったので、大人は本気を出しても誰も当てられなかった。
そんな中「あーちゃん」は次々に正解し、

「すごっ!」

「えーっ?!なんで分かるの?!」


などと皆の称賛を浴びていた。


『アカツキ、なぞなぞと言えば猫でしょう?猫はなぞなぞが得意なのよ』


「あーちゃん」が隣にいた末継に得意げに言った。


「ちょ、声が大き…」


「えーっ?!あーちゃんってオーナーのこと、アカツキって呼んでんの?!」


荒井が叫んだ。


「そうなんすか?呼び捨て…」


新城も驚いたように言った。


「え、いや、えっと…」


末継が口ごもると、「あーちゃん」が、


『そうなの。良いでしょー』


と言った。


「仲が良いんですね!」


スタイリストの田辺麻衣も言った。


『アカツキだから、アカちゃんって呼ぶこともあるよ』


「あーちゃん」が調子に乗って言うと、いつもクールなオーナーとのギャップがおかしくて、皆がどっと笑った。


「アカちゃん!オーナーが…!!う、うける…」



スタイリストの荒井美里は笑い上戸なので、お腹を抱えていつまでも笑っていた。
末継はむっとして「あーちゃん」を見たが、「あーちゃん」はわざとそっぽを向いて、気付かないフリをしていた。


(もう、小夜さん…。あ、そろそろ行く時間だな)


「ヨアケ人」である末継は勘のようなものが必ず働く。それは小夜さんも同じだった。


「あの、小夜さ…じゃなくて、あーちゃん。そろそろ…」


『………』



「行かないと」



そのとき、荒井が大きな声で言った。


「ではみなさーん!これよりビンゴ大会になりまーす!!」


いつもシャンプーなどが陳列されている棚には、末継が用意した景品が並べられ、皆に一枚ずつカードが配られた。テーブルの上には、ハンドルを回すと数字の書かれた球が転がって一つずつ出てくる、ビンゴマシンが用意された。


「絶対ワイヤレスイヤホン!」


「でもさ、高級チョコレートもあるよ?あれ今超人気でなかなか食べれないよ?」


「やっぱギフト券もいいな」


皆が口々に言った。


『ビンゴ…』


「あーちゃん」がつぶやいた。


「もう行かなきゃ…」


末継が言うと、「あーちゃん」は


『そうね…』



と残念そうに言った。そして二人がそっと席を立とうとしたときだった。



「ねねね、あーちゃん!ビンゴ初めてって言ってたよね?めーっちゃ、楽しみにしてたんだよねっ!」



隣に座っていた吉祥寺が言った。


『あ…うん』


「じゃあ僕がサポートするからさ、一緒にがんばろー!!ビンゴとるぞー!!オーーーッ!!!」


ビンゴの何を頑張るのかは不明だが、吉祥寺は張り切ってあーちゃんの前で手を振り上げた。
末継はこの状況で「あーちゃん」を連れ出すのも不自然な気がして、動けなくなってしまった。


「もう少しだけなら大丈夫そうかな」


『そうね!』


「あーちゃん」は、いそいそと座りなおした。


ビンゴカードには数字がランダムに並べられていて、その一つ一つにアーチ型の切れ込みが入っている。発表された数字を自分のカードの中から探し、同じならそれを押し込んで穴を開けていく。
縦か斜めの列で数字が全て揃えばビンゴとなり、商品を貰えるルールだ。

パチンパチンと数字を開けていく、そんな単純な作業も楽しいらしく、「あーちゃん」は夢中になっていた。

思ったより早めに「あーちゃん」のビンゴカードが、あと一つ空けば全て揃う、リーチの状態になった。


『あ!リーチ!!!』


一足先にリーチになった美久が叫んでいたのを見たので、「あーちゃん」も真似をして叫んだ。
その時、末継が小声で言った。

「あーちゃん、残念だけどもう行かなきゃ…」


『わかってるわ。……悔しいけど仕方ないわね』


「あーちゃん」はため息をつくと、そっとみんなの輪を抜け出し、末継と一緒に二階に上がって行った。
休憩室に入ると、シルバーグレーの猫の姿に戻った。


『吉祥寺くんが用意してくれた、このチョコレートケーキの衣装、あーちゃんによく似合ってたわね。お陰で私も楽しめたわ』


「小夜さん、もう多分、そうとうギリギリだと思うよ」


『分かってるわよ』


末継は壁に掛かっていたタータンチェックのワンピースとチョコレートケーキの衣装を、用意していた紙袋にそれぞれ入れた。


「小夜さん、入って」


音もなく小夜さんがジャンプし、末継のコートの中に滑り込んだ。

末継は一階に戻り、吉祥寺の後ろに紙袋をさりげなく置いたが、皆ビンゴに夢中で気づかなかった。
そのままそっと入口のドアを開けて外に出る。通りは少し出ただけでも寒く、吐く息は白かった。末継はかじかむ手で倉庫のシャッターの鍵を開けた。
薄暗い倉庫の中はしんとして、雑多に置いてあるものも、冷たさに全て固まっているかのようだった。


『急いだ方が良いわね。アカツキ、ワンピースちょうだい』


倉庫の奥で、再びあーちゃんの姿になった小夜さんが言った。


「うん。……え?」


「どうしたの?」


暗闇で紙袋をガサガサと探っていた末継が顔を上げた。


「小夜さんごめん!!間違えた!」


末継が紙袋から出したものは、吉祥寺の用意したチョコレートケーキのワンピースだった。


「吉祥寺の後ろに置いた紙袋があーちゃんのワンピースだった…!!」


『ええっ?!』


末継は落ち着いているように見えるが、ここぞというときに意外と失敗することがあった。


「ごめん!何とか取り替えなてこないと…」


『そうね…間に合うかしら…。間に合わせるしかないけれど』

「すぐ取ってくるよ!」

『いえ、私があーちゃんの姿で取ってくるわ。その方が小さいから隠れやすいし、あなたじゃ目立ち過ぎるわよ。坂本さんには、いつの間にか私達がいなくなったように思わせなきゃならないんでしょ?』

「小夜さんごめん…」



小夜さんはあーちゃんの姿で皆のところにそっと戻ると、ソファーの背もたれの後ろを四つん這いになって進んだ。


「はい!では次の番号でーす!」


ビンゴ係の荒井が言った。その頃にはリーチのカードを持つ人が多かったので、皆、固唾をのんで見守っていた。


「あ、ごめん!」


その時、ビンゴマシンから出てきた球を、荒井がうっかり落としてしまった。
球は運悪く「あーちゃん」が隠れているところに向かってコロコロと転がっていってしまった。


「はーい!僕、拾いまーーっす!」

吉祥寺が元気よく立ち上がり、ソファの後ろに回った。


「おっと!ん?…あれっ?あーちゃん?!」


吉祥寺は「あーちゃん」を踏みそうになるのを直前で回避した。



「危なかった~!どこ行ってたの?そんなところでなにしてんの?あ!猫ちゃんごっこ?」



吉祥寺は猫が顔を洗うときの仕草をしながら言った。


「僕、あーちゃんの分もビンゴカード開けてたんだよ!そしたらね…ななな、なーんと、今!トリプルリーチだよ!」



『え…あ、う、嬉しい!』


「ほらほら、自分で数字開けた方が楽しいよ〜!ここ座って!」


吉祥寺が自分の隣に「あーちゃん」を座らせ、ビンゴカードを渡した。


「はーい、皆さん!僕が拾った球の番号を言いまーす!えっとね…はい!91です!」

「あーあ」とか「ないよー」という声が響いた。吉祥寺は荒井に拾った球を返した。


「91かぁ。私も無かったよ。そろそろ誰が揃いそうなのにねぇ…って、あれ?」


ビンゴマシンには、出てきた後の球を乗せておくシートが付いていた。
番号が振られている窪みのところに、一つずつ球を乗せていく。それを見ながら荒井が言った。



「ちょっと待って…このビンゴ、75までしか無いはずだけど…」


荒井が言った。

「あー!ちょっとー吉祥寺!これ逆さまじゃない?!」


球に書かれたビンゴの数字には、上下間違えやすいものは下にラインが引かれている。

「これ、91じゃなくて、16だから!もー、吉祥寺ぃー!」



「うわっ、間違えたっ!すみませーん!16かぁ」


吉祥寺はあーちゃんのカードを横から見ながら言った。

「16?じゅうろく、って言いました??言いましたよね?!…あー!!!あーちゃん、ビンゴーーーッ!!」


吉祥寺は自分がビンゴになったかのように喜び、ジャンプしてターンを決めた。


「あーちゃん、初ビンゴ!がんばったねーーー!!!」


『ありがとう!』


「あーちゃん」は皆んなの拍手の中、パッと立ち上がり、景品を選びに棚の方に走った。



『もう本当に急がないと…』



倉庫で猫の姿に戻った小夜さんが言った。



ブブブ、ブブブ…



そのとき、末継のスマホが振動した。


「あ!坂本から電話だ…もう俺たちがいないのに気付いたみたいだ」


それからすぐに、少しだけ開いていたシャッターが上がる音がし、短い階段を降りる靴音が聞こえてきた。
半開きにしていたドアを押し開け、誰かが中に入ってくる。


「えーと、あの…誰かいる?」


坂本の声が聞こえた。


(#31 第五章終わり。「エピローグ」に続く)


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