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【連載小説】「コワレモノ預かりカウンター」は コチラです(第10話)


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穏やかな公園の空気にそぐわない音で、二人のラインが同時に鳴った。

「うお、びっくりしたー」


風未はすぐにポケットからスマホを取り出し、さっき作った三人のグループラインを開いた。


「やっぱり高野くんだ。用事終わったのかな?」


もう少ししたら知り合いの家を出るから、どこかで落ち合いましょう、とのことだった。


「私、海沿いのジェラート屋さん行きたかったんだけど、そこで待ち合わせってどう?」


風未は私のガイドブックのページをめくり、これこれ、と指差した。


「ジェラート美味しそう…!私も行きたいです」



調べたらここから車で五分くらいだった。グループラインで高野くんに伝えると、『りょーかい!!』と敬礼しているワンちゃんのスタンプが返って来た。

まだ時間があったので、私たちは出る前にオリーブの葉を探しに行った。
細長い葉の先がハート型になっているものが時々あるらしく、園内で摘んだものをラミネート加工して持って帰れる、ということだった。私たちはよく探したけれど、目に入るのは微妙な形のものばかりだった。


「もう行こうか~。みんな、採りつくされちゃってるんじゃない?」


そうは言いつつ、風未はオリーブの葉を目で探していた。


「なんかこの旅、探し物ばかりしてるような…あっ!これいいかも!」


風未は少し高いところに残っていた枝を掴んで引き寄せ、葉を摘んだ。


「わあ!きれいなハート型ですね!いいなぁ…私も見つけたい」


「まだ時間あるし、見つけるまで探そうよ。間に合わなそうなら高野くんにはラインするから」


普段の私なら、大丈夫です、迷惑かけちゃうし…と遠慮してしまうところだったけれど、素直に頷いて探し続けた。



「あ!あった!!…って、二枚だった…」


葉が重なってハート形に見えてしまい、風未に違うじゃーんと笑われたりしながら探していると、下のほうの枝にちらりとそれらしい形が見えた気がした。
またどうせ二枚重ねのかな、と思って枝を引き寄せてみると、綺麗なハート型の葉がついていた。


「これ…すごく良いかも」


「わぁ!めっちゃ完璧なハート!!春琉ちゃんの粘り勝ちだね!」


「うん、嬉しい!ありがとう」


ラミネートして作ったカードを、私は大切にスマホケースに入れた。



『かすみジェラート』に到着すると、まだ高野くんは来ていなかった。
瓦屋根の平屋を改築したらしい、素朴な感じのおしゃれなお店だった。
すぐ目の前が海で、小さな船が入れるような桟橋がある。隣には駄菓子屋さんもあり、観光客で賑わっていた。

私たちが木の板に書かれたメニュー表を吟味していると、一台のバイクが駐車場に入って来た。


「お待たせしましたーー!!」


バイクを停めると、ヘルメットでぺちゃんこになった髪の毛を手で撫でつけながら、高野くんがやって来た。


「もう食べちゃいました?僕もジェラート食べたいです!」


「まだこれからだよー。一緒に食べよう。お姉さんが奢ってあげよう」


風未が言った。


「うわ!良いんですかっ?ほんとに?!ありがとうございまーす!そうめんもジェラートも…小豆島来てよかった!!わー…どれにしようか迷うなぁ…」


高野くんは嬉しそうにメニュー表を眺めた。島の名産や、旬の野菜などの自然素材を使ったものが多く、みんな真剣に悩み、ようやく決めた。

高野くんはチョコレートと島レモンのダブル、私たちは二人とも同じで、醤油味とオリーブオイルのダブルにした。
高野くんはこの上なく幸せそうな表情で、ショーケースからジェラートがすくわれる様子を眺めていた。

カップを受け取ると、私たちは外のベンチに三人並んで座った。


「すんげえ!うめえ!!」


高野くんがバクバクと口に運びながら言った。
私たちも激しく同意しつつ、ゆっくり楽しみながら食べていた。醤油味は初めて食べたけれど、香ばしい香りがカラメルのようで美味しかった。

出会って数時間の人たちと、こうして並んでジェラートを食べている。心から楽しいと思っていて、そう思える自分に驚いていた。
この旅にはやっぱり何か魔法のようなものを感じるし、実際掛かっているのかもしれない。


「もうすぐ夕方だね…私、あの箱っていうか、あるのか何なのか分かんないカウンターにずっと振り回されてるような気がしてたんだけど、今日二回目の小豆島に来て、やっぱりそれは違うって分かったよ」


ジェラートを木のスプーンで少しずつ削りながら、風未が言った。


「必死で探さない方が良いって自分に思い込ませて、余裕じゃん、みたいな感じでいるくせに、必死で探したくなる自分もいて…。でもね、今はやっぱり、必死でカウンター探さなくたっていいんだな、って本心から思えてるの。あ、必死必死って、めっちゃ回りくどい言い方!とんだけ必死なんだ、ごめん!」


風未が自分でつっこんで笑った。


「私も必死でした…!必死で、同じこと思ってました!」


私も笑った。


「リスの置物を直してもらえれば全て解決して、また元のように戻れるのかもしれないって、祈るような気持ちだったんですけど…。元のよう、って、違うんじゃないかなって」


「うん。単純に時間が戻っても意味ないし、そういうことじゃない。縁は壊れても、また戻っても、先に進まなきゃ意味ないよね。その“先”っていうのはどんなに行きたくない所だったとしても、進まなきゃいけないところで…」


「そうですね。…でも怖くてもなんでも進むんなら、ある意味怖くないのかも。だって結局は進まなきゃいけないんなら、一緒だし…」


「うん。ただ一つ分かってることは…」


風未はそこで口をつぐんだ。


「お二人とも、哲学的過ぎて…僕、ついていけないですよ~!」


高野くんが言ったので、私たちは笑った。


「あの、ただ一つ分かってることってなんですか?」


「ほう。青年よ、答えてみたまえ」


風未は腕を組みながらニヤリとした。


「えーー?!うーーん。…後悔、先に立たず?とか?」


「おお、青年よ。なかなか良い答えだぞ。でも今私が言おうと思ったのは…ハル先生、どーぞ」


風未が芝居がかった様子で私を指した。


「えー…結局、なるようになる、ってことですか?」



「そう!!だよねっ!!」



風未がパチンと手を叩いた。
なるようになる。なんだか月並みな気もするけれど、結局はそうなんだと思った。

いつも私は、必要以上に未来を怖がってしまう。起きてもいないことを脳内に作り出し、怯えている。
でも時間は止められないし戻らない。大富豪にも犯罪者にも普通の人にも、必ず平等に進んでいく。



「あっ!そろそろエンジェルロード、行った方がいいかもです」


時計を見て高野くんが言った。



「干潮って十八時半でしょ?まだ三時過ぎだよ、早くない?」



「あまりギリギリ過ぎると砂の道が海に隠れて見れないかもしれないので、早めに行ってみた方がいと思います。
それに帰りのフェリー、福田港ですよね?僕は土庄とのしょうから帰るんで良いですけど、福田港からはちょっと遠いですよ」


私たちが立ち上がって歩き始めたときだった。赤い首輪を着けた一匹の大きな犬が現れ、高野くんは、


「わーーー!かぁーわいいなぁーーー!ここで飼ってんのかな?」


と言いながら茶色の毛皮をワシャワシャ撫でた。
犬にじゃれつかれて顔をべろべろ舐められ、心底嬉しそうにしていた。


するとその時、犬が高野くんの腕をすり抜けて、私のほうにやってきた。
お、私にも撫でさせてくれるのかな?と思っているとそうではなく、犬は私の足元の地面を前足でトントン、と突いた。


「え…?」


私が動けないでいると、犬はもう一度トントン、と足元を突いた。よく見るとそこには、小さな水色の石が落ちていた。私は屈んでそれを拾った。
犬は満足したように軽く頷くと、足取りも軽く去って行った。


「な、なんだろう…今の…」


風未も高野くんも、私の手のひらの石を覗き込んだ。薄い水色で、半透明の細長い石だった。


「これ、ビーチグラスじゃない?」


風未が言った。


「ビーチグラス?って何ですか?」


高野くんが知らなかったので、


「割れた瓶とかのガラスがね、長期間海を漂って角が削れて丸い石みたいになったものだよ。綺麗だから、雑貨屋さんとかにも売ってたりするの」


と教えてあげた。
あの犬、何だったんだろう…?と三人で首を傾げていると、高野くんが突然、あっ!と叫んでから言った。


「あのっ!!僕がカウンター見つけたときに、拾った王冠も出したっていいましたよね?!あれ!あの…」

「あーっ!!ほんとだ!これ、カウンターに木箱と一緒に出すものじゃない?!」

風未が言った。


「確かに…。わざわざ私に『拾って!』って言ってるみたいでしたよね…」


「分かった!!これ、修理の代金みたいなものなんじゃないですか?」


「代金って…でもそうだよ!きっと!!」



私の手のひらに乗せたビーチグラスを、三人は無言でしばらく見つめていた。
いよいよ本当に『コワレモノ預かりカウンター』が現れるかもしれない。
そう思うとなんだか震えるような、上手く言い表せないけれど怖いような気もしてきた。

その時、高野くんのスマホが鳴り、麻痺したように固まっていた空気が動き出した。


「はい!どうしました?僕、何か忘れ物とか?…あ、今、かすみジェラートです。はい…………………え?……えっ……

えーーーーっ?!?!

な、なんでそれを?!え?もうすぐここに?……あ!はい!じゃ、待ってます!」


「どうかしたの?」


「あの…僕が泊めてもらったひと、佐山さやまさんって言うんですけど、その人、びっくりなんですけど………カ、カウンターのこと、知ってたみたいなんです!」


「えーーーーーっ?!」


「僕も今知って…めちゃめちゃびっくりして…。お二人にこの『かすみジェラート』で手がかりを渡すように、カウンターに指示されてるって…!」


「えーーーっ?!」


「もう一つヒントがあったら見つけられるかも…!」


風未が手を叩いた。


「どうして知ってるとか、何で僕に今話したとか、詳しいことは来てから聞いてみましょう!」



(第11話に続く)

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