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【連載小説】 「コワレモノ預かりカウンター」は コチラです(第6話)


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「え?!今、なんて言った?!」


風未が運転席の窓を開けた。


「あの!コワレモノ預かりカウンターっていう…」


「うそっ!?えっ?何か知ってるの?!」


「はい!だからほんと、誤解ですってば」


「じゃあ、ヤバい人じゃないのね?!」


「もちろんですっ!」



「そっか!うわぁ!早とちりしちゃってごめんなさい!」


風未は素直に、ペコリと頭を下げた。
二十代前半くらいのその青年は、細い目に丸い鼻で、なかなか愛嬌のある顔立ちをしていた。穏やかに微笑んでいるような顔立ちから、人が良さそうなのが見てとれる。
ヘルメットをかぶっていたせいで、寝癖のように髪があちこち跳ねていた。


「あの…伝言ってどういうことですか?」


私は待ちきれずに、助手席から運転席の方に乗り出すようにして聞いた。


「あの、えっと…僕、前に“コワレモノ預かりカウンター”、見つけたことあるんです」


「えーーっ!?すごい!ほんとに??」


風未が大きな声を上げた。


「で、壊れたものを直してもらえた人は、次の人に伝言して欲しいって…」



「伝言?」




「日時を指定されて、小豆島に行ってくれって」


「く、詳しく教えて下さい!」



つい食い気味に言ってしまったので、青年が引いてしまったのではないかと思ったが、彼は気にする様子もなく、


「もちろんです、そのために来たんですから!僕に分かることなら…でもあまり沢山は無いんですけど…」


「じゃあ…あ!あっちにあるベンチに座って話しませんか?」


風未が、道路を挟んだ向かい側にある見晴し台を指さした。


「了解です!」


私達はもう一度車を停めなおしてから、歩いて道路を渡った。少し下がったところにウッドデッキがあり、階段で降りられるようになっている。
目の前はなだらかに傾斜し、そのすぐ向こうには瀬戸内海が広がっていた。

この時間でもこんなに綺麗なのに、夕日が落ちる頃に来たらどんなに美しい景色が見られるのだろう。
都会なら春休みの絶景スポットは混雑してしまいそうだが、誰も人はおらず、少し冷たい風がとても気持ちが良かった。

お洒落な家の庭にありそうなアイアン製のテーブルとイスがあったので、私たちはそこに座った。


「いきなり笑っちゃって…さっきはすみませんでした…。ケガとか、大丈夫でしたか?」


青年が頭を下げた。


「全然大丈夫です。私の方こそ、怖がっちゃって失礼しました」


私も謝った。


「いえいえ!警戒して当たり前です…すみません…あ、僕は高野圭太たかのけいたって言います」


高野くんは二十一歳で、大学二年生だった。私たちもそれぞれ自己紹介をした。


「今日の日付と、この「屋形崎夕日の丘」の場所が書かれたメモを持ってて…さっき大観峰の展望台ところでお二人を見かけて、もしかして?って思ったけど、場所が違うので声は掛けなかったんです。
とりあえず箱を見せれば信じてもらえるかもって、荷物からすぐ出せるように探したりしてて…」


だからさっきの展望台で荷物整理してたんだな、と思った。


「で、先に屋形崎に来てこの展望デッキで待ってたら、お二人がここに来るのが見えたんで、とりあえずいつ声掛けようかって思ってて…。そしたらなんか、不審者みたいになっちゃって…怖がらせてすみません」


高野くんは頭を下げた。

「この日は絶対に逃しちゃだめだから、昨日の午後のフェリーで前乗りしたんです。島で知り合いがカフェやってるんで家に泊めてもらいました。横浜から来たんでちょっと長旅でしたけど、バイク好きなんで…」


「えっ、私も横浜出身です!」


私は言った。


「そうなんですね!」


何区ですか?と聞いたら隣の区で、同じショッピングモールに行ってたことが分かり、地元が近いっていうだけで人は何でこんなに気分が上がるんだろうと思った。旅のテンションで、いつもより声のトーンも上がっている自分に気が付いた。
本来ならここで自分に制御を掛けて “落ち着けー、後で恥ずかしいから変なこと言わないように!” となるところだけれど、今回はそういうのは無しにするつもりなんだった、と思い出した。


「僕、前に “コワレモノ預かりカウンター” 見つけたのって、直島なおしまなんです」


「直島って…同じ香川の?ここから割と近くですよね?アートの島…」


テレビで見ていつか行きたいと思っていたところだった。風未も知っているようだった。


「そうそう!真っ赤なカボチャ!…えっと、誰の作品だったっけ」


草間彌生くさまやよいの水玉模様のカボチャです!島の入り口の港にでっかいのありました。小豆島と同じ香川県です」


一年前の夏、高野くんは私達と同じように自宅に現れた小箱を持って直島へ向かい、カウンターを探した。
半信半疑だったけど旅行好きなのでツーリングも楽しんでいたら、それが良かったのか分からないが無事見つけられたとのことだった。


「ねねね、状況、詳しく教えて!!カウンターの大きさとか…」


風未が待ちきれない様子で身を乗り出した。


「はい!えっと…僕の時は、このくらいの木枠のカウンターでした。上のところがアーチみたいになってて…」


高野くんが手で表した大きさは意外に小さく、ノートパソコンくらいのサイズだった。


「島のどこで見つけたんですか?」


「それが…さっき話した、カボチャのオブジェの中なんです」


「えーーーっ?!」


私と風未は、二人同時に叫んだ。あれは確か中が空洞になっていて、人が立って入れるくらいの大きさはあったはず…。
あんなに有名スポットの中に?!と驚いた。


「夜とか、誰もいないときに出たの?」


風未が聞いた。


「いえ、それが…沢山まわりに人がいて…」


「それなら、他の人も驚いたりとか…」


「そのはずなんですけど…」


瀬戸内海に浮かぶ香川県の直島はアートの島と呼ばれていて、オブジェの他にも体験型の建物や美術館もある、とても人気の島だ。
外国人観光客もたくさん訪れる…というか外国語が飛び交い、ここはほんとに日本か?という印象だったと高野くんは言った。
だからその時も、島の入り口の港にある赤地に黒い水玉模様のカボチャのオブジェは大人気で、観光客がたくさんいたそうだ。


「僕もせっかく島にきたから写真撮って、中にも入ってみたんですけど…」


カボチャには大小の丸い穴がいくつか開いていて、その中の一番大きな穴から中に入れるようになっている。
小さい穴から海を眺めようと覗いたとき、いきなり木製の小窓みたいなカウンターが現れたそうだ。


「最初、何が何だか全然分かんなくって…いきなりだったんで、アートの仕掛け?とか思ってたら、声が聞こえたんです、箱のときみたいに。『こちら、コワレモノ預かりカウンターです』っていう…」


「わ…すごっ…」


「で、うわっ!ほんとにあった!!って、慌ててリュックを探しました。消えちゃったらヤバイって思って…。で、何とか木箱を見つけて、カウンターに置きました。手なんか震えちゃってました」


「きっとそうなるよね…見つけたら」


風未がつぶやいた。


「でも、しばらく何の変化も無くて…。で、焦ってどうしようって周りを見たんですけど…」


高野くんはなぜか小声で、


「それがですね…」



と言い、一瞬黙ってから口を開いた。


「人がいなくなってたんです、一人も」


「えっ?!」


私達は、二人同時に声を上げた。


「直前まであんなにいたのに…。横の窓ものぞいてみたんですけど、外にも、港のでかい観光案内所にも誰もいなくて…あ、その建物、ガラス張りなんで中まで見えるんです」


「時間が止まったってこと?」


風未が聞いた。


「うーん、多分そうじゃなかったみたいですけど…波の音とかは聞こえるし、風も吹いてたし…。で、その時また声が聞こえたんです。『島で拾ったものも一緒にお出し下さい』って」



島で拾ったもの…出すのはコワレモノだけじゃないの?と思った。


「僕、すぐには分からなかったんですけど、とりあえずポケットの中を探ってみたら、海岸で見つけた瓶の蓋が出てきたんです。あ、王冠っていうんでしたっけ?ビール瓶とかに付いてる、フチがギザギザの…。
海外のものっぽくてデザインがカッコ良かったんで拾ってて。で、一か八か、それを箱の上に置いたんです」


高野くんはそこで自分を落ち着かせるように、ペットボトルのスポーツドリンクを一口飲んだ。


「そしたら…すぐにカウンターの中に箱が勢いよく引き込まれて行って、で、確か五秒後くらいだったかなぁ、また吐き出されてきたんですよ」


「えーーっ?なんで?!返されちゃったの?!」


風未が大きな声を上げた。


「僕もそう思ったんですけど…出てきたと同時に『恐れ入りますが、お品物のご確認をお願いします』っていう声が聞こえてきたんです」


高野くんは震える手で留金を外し、箱の蓋を開けた。


「そしたら…」


「そしたら??」


「その中身の物……もう直ってたんです!」


『えーーーー??!!』


聞いている私達はもはや、えーー、というだけで、言葉がでてこなかった。


「中身は腕時計で、ガラスにヒビが入って止まってたんですけど、きれいに直って動いてて…しかも時間まで合ってたんです。
で、僕が確認したらすぐにカウンターは消えました。
それから、なんか動けなくてぼんやりしてたんですけど、観光客のおばさんがこの人何で動かないんだろう?って感じで見てきて…そんとき、おおっ、て我に返りました」


カボチャから出ると、周囲にはたくさんの観光客が戻ってきていて、高野くんは訳が分からなかったそうだ。


「手掛かりって?」


風未が待ちきれないように言った。


「えっと、木箱の中にメモが入ってて…」


高野くんは小さな紙きれを取り出した。覗き込むとそこには小さな字で、今日の日付と場所、三十代の女性二人組がいるということ、そしてその下には何やらカタカナの文字が並んでいた。

(第7話へ続く)

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