【#19】連載小説 『 美容室「ヨアケ」、開店します。』 第5章・最終章「そっちからみたら」プロローグ
美容室「ヨアケ」の半地下の倉庫には、大きな鏡の付いたアンティークのチェストと、スタイリングチェアが置かれている。
鏡のふちや引き出し部分には草花模様の彫刻が施され、高級木材マホガニーで出来ていた。スタイリングチェアもかなりの年代物で、がっしりとしたスチールの骨組みに、座面には艶々とした黒い革が張られていた。
10畳ほどの倉庫の壁際には棚が置かれ、ダンボール箱やカット練習用のウィッグなどが雑多な様子で並んでいる。バーベキュー用のコンロや今となっては何が入っているのか分からない箱もあり、うっすらと埃を被っていた。
チェストは奥の方にあり、そのスペースは倉庫の中でもどこか違う空気が漂っている。
天井近くの小窓からは薄い光が差し込み、商店街を行き交う人々のざわめきが微かに聞こえていた。
カタッ…
その時、チェストの三段あるうちの一番上の引出しが少し動いた。
カタッ、カタッ…カタカタカタ…
引き出しは少しの間揺れていたが、そのうち
ガタッ!
と音を立てて、ひとりでに開いた。少なくとも、はた目からはそう見えた。
そしてその開いた隙間から、シルバーグレイの毛皮の美しい猫が、ひょいと顔を出した。
猫は深い海のような美しい瞳で辺りをゆっくり見回すと、軽い身のこなしで飛び出し、トンと着地した。
それから振り返って前足を上げ、そっと引き出しを閉めると、近くの棚に寄りかかって物思いにふけっていたオーナー、末継 暁の近くに行って、顔を見上げた。
「ああ、来たね、ご苦労さん」
末継は猫に声をかけると、歩いて行ってスタイリングチェアに座り、二段目の引出しを開けた。
中から取り出したのは分厚い本だった。しっかりとした革張りの装丁で、かなりの年代物に見える。長年大切にされてきたようで、深みのある茶色い革は、親しみのこもった色になっていた。
末継はそれをチェストの上に置くと、ページをめくった。
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