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【連載小説】 「コワレモノ預かりカウンター」は コチラです(第4話)


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私たちが車に乗り込むと同時に、フェリー前方のスロープが開いた。

車のタイヤの前に置かれた黄色いストッパーを、係員のおじさんが手際よく次々と外していく。各列の進み具合を見て一番スムーズに出られる順番を瞬時に判断し、誘導していた。
車が次々にフェリーから吐き出されていく様子は見事だった。

おじさんがフロントガラスの前で軽く手を振ったのを見て、風未は車を発進させた。
福田港は小さな港で、フェリーを出てから数十メートルも行かないうちに突き当たりになり、左右に道が分かれていた。


「わ、わ、どっちだろう?!」


風未が言った。


「えと、えーーっと…」


こんなに早く別れ道が来るとは思わなかったので、私たちは焦った。


「まあいいーや!こっち!!」


風未は右にハンドルを切った。

よく考えてみたら港の駐車スペースに停めて、落ち着いてから行けば良かったのだけれど、他の車の勢いに気圧され何だか必要以上に慌ててしまった。風未も同じように思ったらしく、

「そういえば前ん時も焦ったんだよねー。なんか皆、迫力があるっていうか…モタモタするなんて許されないみたいな。そんな訳ないんだけどね」

と大笑いした。

船の上では、お互いのことを話したり景色を見るのに気を取られ、そう言えばルートはあまり話し合っていなかった。
私は昨日姫路のコンビニで買った小豆島のガイドブックを持っていて、風未は公式ホームページに載っていたロードマップを、タブレットにダウンロードしていた。

「ごめん春琉ちゃん、地図みてもらっていい?あ、タブレットに出してあるから。ナビもあるけどとりあえずロードマップで」


「あ、はい。借りますね」



風未の古い軽自動車にはナビは付いていなかったが、代わりにタブレットにナビアプリを入れているらしかった。


「えーと…」


「ごめん!やっぱちょっと停まろっか」


風未はハザードを出し、道路脇に停車した。



「とりあえず…前のときに風未さんが行ってないところにしてみるとか…」


私はタブレットの地図を拡大して見ながら言った。

「確かに!それいいかも。あ、春琉ちゃんのガイドブック、貸してもらって良い?」


「どうぞ」


「ありがとう!」


小豆島に行くのを決めたのは直前だったので、ほとんど下調べはできていなかった。遠いし、第一突然現れた小箱の指示に従うなんて…となかなか思いきれなかったからだった。


「ねえねえ、この卵、見てみたくない?」


ガイドブックをめくっていた風未が指さしたのは、海を望む丘に設置された大きな卵のオブジェだった。
全体にヒビが入っているようなデザインで、三年に一度この辺り一帯で開催される「瀬戸内国際芸術祭」の作品として設置されたという。
『コワレモノ預かりカウンター』を探す旅なのに、普通に観光してていいのかな…と一瞬思ったが、その表情を敏感に感じ取ったのか、風未が言った。


「前きた時ね、私、とにかくカウンターを見つけたくて一所懸命あちこちまわったの。観光スポットとかもあまり行かないで、道端をずーっと気にしながら。
たぶん、目なんてギラギラしててさ、めっちゃ怖い顔だったと思う」


風未が、大袈裟にギラギラした目を再現したので私は笑った。


「でも結局手掛かりすら見つかんなくて…なんか、違ったかなって。小豆島はすごく綺麗で良いところだったはずなのに、あんまり覚えてなくて…。だから今回はちゃんと島を見てみようと思ったんだ。
それで島を感じて、そしたら見つかるのかも、って。見つけられないなら、それはそれだったのかな…ってね」


「…そうだったんですね」


「だから私、この卵、見てみたい!あ、春琉ちゃんも行きたいところある?」


「えーと…このエンジェルロードって見てみたくて…」


エンジェルロードとは、潮が引いた時だけ海上現れる砂の道だ。近くの小島まで繋がる美しい景色を見るには、満ち引きの時間を見計らって行かなければならない。


「そこ前にも行ってみたんだ。消えかけたときが一番素敵だっていうの聞いて潮見表見て行ったんだけど…。
砂浜に着いたらフツーに海になってて、『なんだぁ、道、ないじゃん!』ってなったの」

と笑った。



「私、姫路港の切符売り場に書いてあった干潮予測時間、スマホで撮っておいたんですけど…」


確認すると、早朝6時半と夕方18時33分だったので、夕方あたりに行ってみることにした。


「じゃあ、まずは卵ですね…ええと…“はじまりのとき”っていう名前みたいです」


地図を確認してみると、島の北側の海沿いをぐるっと回って行く道が一番近いようだった。
そのルートを提案すると、風未がうーん、と考え込んだ。


「その道も良いんだけど…山に行く道も行ってみたいんだよね。前はほとんど行かなかったから…」


「それなら、この島の真ん中に向かってる道で行けそうです…。あっ、でも山道で狭いって書いてある…。通行注意って…大丈夫かな。やっぱり、海沿いのほうがいいかもしれません」


「私の車、軽だから大丈夫だよきっと。よし、行くか!」


風未は私の心配をよそに、車をスタートさせた。
島といえば海沿いの道、と勝手にイメージしていたので、あっという間に山道に入り、本州のどこか山奥を走っているような感じがした。

小豆島は本州と四国の間に位置する、人口二万六千人程の大きな島だ。一周するには車で三時間ほど掛かるらしい。
私たちのフェリーは、兵庫県の姫路港から島の北東の福田港に入港した。
地図上の「右斜め上」からフェリーで来て、「島の右上」から入った、ということだ。

一番栄えている港は土庄とのしょう港の辺りで、福田港の対角線上、「島の左下」の位置にある。
だからなのか、福田港にはあまり観光客の姿は無かったように見えた。


「前に四国、車で周ったことあるんだけど、ガードレールがないのに崖がすごくて、なのにすれ違いもできない山道ばかりで…。軽自動車でもひーってなったんだよねー。まあ、ほんとはそれが楽しかったんだけど。
で、ここ小豆島だから四国じゃないし…って思ってたけど、よく考えたら香川県だった!四国だった!」

風未はハンドルにしがみつきながら言った。


「あれ?でも慣れてきたら意外に大丈夫かもーー」


小さな黄色い車は、山道から振り落とされそうな角度でぐんぐん登ってゆく。私は道端にもしかしたらカウンターの手掛かりがあるかも知れない、と思って、キョロキョロしていた。

深く細い山道を登って行くと、時折木々の隙間から美しい瀬戸内海の景色が見え、ついカウンターを探すのを忘れて見入ってしまう。
こういう所に来ると、思ったより自然に飢えている自分に気付く。


「だいぶ山の上の方まで来たっぽいね」


風未が言った時、後ろからバイクの音が聞こえてきた。


「うわぁ、うちら遅いから先に行かしてあげよう」


少し広い路肩を見つけて徐行すると、バイクの人が片手を挙げてお礼をしつつ、追い越して行った。
大きな荷物を荷台に括り付けていて、私達と同じように観光客のようだった。

走り去るバイクを見ていたら、ずいぶん前に恭平のバイクの後ろに乗ったことを思い出した。
カーブに合わせて体重移動するのが怖くて、必死にしがみついていたら「コアラみたい」と恭平が笑った。
そのバイクは買ったばかりだったのに、何故かすぐに見なくなった。どうしたのか聞いたら、飽きたから売ってしまったと言う。そんなに飽きっぽい性格ではないはずだし、明るい調子で言っていたのがなんだか不自然で、今考えてみてもあれは不可解だった。


「あっ、なんか展望台みたいなのがあるよ!寄ってみない?」


風未が言った。

「結構上まで来た気がするし、景色良さそうですね」


「そういえば春琉ちゃん、ようやく小豆島初上陸だね!」


「確かに!私、まだ地面に足をつけてなかったです」


十台ほどの駐車スペースには、高知ナンバーの白い車が一台と、さっき抜かしていったバイクが停まっていた。バイクの青年は大きな荷物の整理をしていた。

車から降りて深呼吸してみると、東京の空気とは明らかに違うのが分かった。緑の匂い、土の匂い、石や生き物の匂い…よく分からないけれど、色々な自然の匂いや空気が混ざっている。
身体が喜んでる、と思った。
薬草を煮て作った薬のように、全身に沁み込んでゆく。

私たちは駐車場からなだらかに傾斜した石段を、ゆっくりと登った。


「わぁ…!!」


眼下には美しい緑の渓谷が広がり、その先に海が見えた。入江近くには町が広がっている。遠くには瀬戸内海の島々と本州まで見渡せた。
そこに立っているだけで気持ちも緩んでいく気がし、しばらく二人で眺めていた。

こんなところに住んだらどんなに心が穏やかになるだろう、と思ったが、外からきた私達には分からない苦労もあるのだろう。だとしても羨ましいと思ってしまう。都会とは何もかも、根本的に違う。
展望台には大きくて平らな岩があった。風未は身軽によじ登ると、


「なんか、座りたくなるような岩じゃない?」


と言ってあぐらをかいた。
近くにあったコンクリートの展望台では、カラフルな服を纏ったおしゃれな老夫婦が景色を眺めていた。お互いの写真を撮りあっているのを見て、風未は立ち上がると大きな声で、


「あのー!わたし!写真!撮りましょうかーーっ?」


と叫んで岩から降り、走って行った。
実は私もさっきから気になっていて、写真撮ってあげた方がいいかな、と思っていた。でも、もしかしたら余計なお世話かも…とか、もう帰ろうとしてる?迷惑かな…などと考えすぎてしまい、声を掛けられないでいたのだった。
気がつくやいなや行動に起こせる風未が羨ましかった。


「あら!嬉しいわ、ありがとう」


奥さんが言った。二人で並んでいるのを良い角度で撮りたいからと、風未があれこれ老夫婦に指示しているのを見ながら、さっきの大きな岩の上に登り、座ってみた。
私もデニムにすれば良かった。スカートなのであぐらはかけない。
ゴツゴツとした岩を感じながら景色を眺める。気付いたらぼんやりできている自分がいた。

本当はさっきから、私もここに座ってみたかった。 
ほんの些細なことでも何か行動を起こす時、色々考え過ぎてしまって踏み出すのが遅れ、後悔することがあまりにも多すぎる。
この旅では、やりたいと思ったことはなるべくすぐにやるようにしよう、と私は密かに決めた。

足元には石を並べた道が、大きな岩をとり囲むようにして作られていた。風未が戻って来ると、降りて二人で崖を覗いてみたり岩を下から見てみたりしたが、カウンターのようなものは見当たらなかった。


「無いなぁ…木製のカウンターらしいって聞いたことあるけれど…」


私がつぶやくと、風未が驚いてこっちを見た。


「えっ?どこから聞いたの?どんなものか詳しく知ってるの?」


「あ、いえ、ううん、全然詳しくはなくて…」


実はあのマークの付いた箱を一度だけ見たことがある。今回小箱が現れた数日後、ふいに思い出したのだった。


(第5話に続く)

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