#せりふ三題噺|「内緒だからな」、第二ボタン、たい焼き、駐輪場
ショートショート:開いた小箱
この時期になると毎年、
思い出したようにこの小箱を開けてみる。
そこには、あの時の思い出とともに、
鈍く光る第二ボタンが収まっている。
あれからもう4年になるのか。
卒業式の帰り道、
駐輪場で彼とはちあわせた。
「おう。もう帰るのか?」
下級生からも人気のある彼は
誰かからせがまれたのだろう。
上から2番目のボタンはもう無い。
自転車を押しながらなんとなく
ならんで歩きだした。
「4月から東京の大学に行くんだよね?」
「そう、お前は地元の大学だっけ?」
付き合っているわけじゃない。
昔馴染みのちょっと仲のいい友達。
そう言い聞かせていた。
商店街の角のたい焼きやさんの前にきた。
「たい焼き、食う?。」
「え?私、お金持ってきていないよ。」
「それくらいおごるさ。」
そう言って、ポケットから小銭をじゃらじゃら出して
数えた彼が申し訳なさそうに言った。
「1個分しかない。。。」
「何、それ。」
2人で顔を見合わせて笑った。
そして、たい焼きを1個だけ買って半分こにした。
私に頭のほうを差し出して、彼はしっぽの方を食べた。
「あと、これ。」
そう言って手に握ったものを私に差し出した。
「え?」
「…内緒だからな。」
それがいま、この小箱の中にある。
ちょっと甘酸っぱい思い出。
それだけのことだ。
急にあのたい焼きが食べたくなって
散歩がてら店までやってきた。
そこで、見覚えのある後ろ姿を見た。
たい焼きを受け取って振り返った彼が
私の顔を見てオドロキながら言った。
「おう。半分食べる?」
笑いながら半分もらった。今度はしっぽのほう。
「どうしたの?帰省?」
「4月からこっちの高校の教師になる。」
私たちが卒業した高校だ。
「まだ、内緒だからな。」
そう言って笑った。
今年の春はいつもと少し違う
新しい風が吹いた。
おわり。
はらとけいさんの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いします。
お題は、以下の通りです。
■セリフ
「内緒だからな」
■三題
・第二ボタン
・たい焼き
・駐輪場
#せりふ三題噺 #第二ボタンたい焼き駐輪場 #ショートショート
では、また。
ごきげんよう。
