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「なんで今でも覚えてるんだろう…」|水中で出会った生き物が忘れられない理由



ログブックをめくっていて、ふと手が止まる瞬間はありませんか?

「あのウミガメ、まだあの根にいるのかな?」
「目が合った気がしたんだよな…」
「写真も残っていないのに、なんで覚えてるんだろう?」

そんなふうに、水中で出会った生き物のことが、何年経っても心のどこかに残り続けている

今日は、水中で出会った生き物がなぜあんなにも忘れられないのか、私なりに考えてみたお話です



あの日のウミガメは、私のことなんて気にもとめていなかった


もう何年も前、伊豆の海でのことでした

秋の平日で、海の中は静かでした
透明度はそこそこ、特別なものは何もいない、いつもの海だと思っていたんです

根の先端を回り込んだとき、前を泳いでいたガイドさんがゆっくり指をさしました

岩の上に、ウミガメが一匹じっとしていたんです

あわてて近づきたくなる気持ちを抑えて、少し離れたところで止まりました

聞こえるのは自分の呼吸の音だけ
泡が上がっていく音がいつもより大きく感じられました

ウミガメは私のことなんて気にもとめず、ゆっくり首を持ち上げて、また目を閉じました

時間にすれば、たぶん1〜2分だったと思います
でもあの時間の長さは今でもうまく説明できません

「向こうの日常に、こちらがお邪魔している」

そう感じたのは、あれが初めてだった気がします

それまでの私は、生き物を「見つけるもの」だと思っていました
チェックリストを埋めるみたいに、会えたら一枚撮って、次を探しに行く
そんな潜り方をしていた気がします

でもあの日から、少し変わりました
見つけることより、同じ時間をそこで過ごすことの方が、ずっと記憶に残るんだと知ったからです



忘れられないのは「こちらの都合が通じない」からかもしれない


陸の上の感動は多くが人間のために用意されたものなんですよね

景色のいい展望台も、手入れされた庭園も、誰かが「見せよう」として整えてくれたもの

でも水中の生き物は違います

ウミガメはこちらを楽しませようとして、あそこにいたわけじゃない
魚の群れは私たちのためにかたちを変えているわけじゃない

同じ場所に潜っても、昨日いた魚が今日もいるとは限りません
海は毎日違う顔をしていて、生き物たちはその中で生きています

会えるかどうかは完全に向こうの都合です
だからこそ、会えた一瞬が贈り物みたいに感じられるのかもしれません

あとから気づいたことがあります

私が今でも覚えている出会いは、ぜんぶ偶然でした

狙って会いに行った生き物より、ふいに現れてくれた生き物の方が、ずっと記憶に残っているんです


パラオで、マンタが目の前を通り過ぎた日


今年の3月、初めての海外ダイビングでパラオに行ってきました

国内では長く潜ってきたけれど、海外の海は初めてで、エントリー前は少し緊張していました

ジャーマンチャンネルというポイントで、マンタが目の前を通過していったんです

大きな影がすっと視界に入ってきて
羽ばたくようにゆっくり近づいてきて
気がついたら、目の前を横切っていました

カメラを構えることも忘れて、ただ見ていました

生き物との出会いはそれなりに経験してきたつもりでした
それでも、あの瞬間は呼吸を忘れそうになるくらい圧倒されたんです

帰りのボートの上で、一緒に潜ったダイバーさんと顔を見合わせて

「見ましたか?」
「見ました」

それだけの会話で、ふたりとも笑っていました

言葉にしなくても伝わる感動って、あるんですよね

その旅では、ほかにもたくさんの出会いがありました

シアスコーナーではサメの群れが悠々と泳いでいて
グラスランドでは砂地からチンアナゴが顔を出していました

近づくとすっと引っ込んで、離れるとまた顔を出す
あの駆け引きは、何分見ていても飽きませんでした

それでも不思議なもので、いちばん心に残っているのは、狙いすまして見たものより、ふいに目の前を通ったあのマンタなんです



今日からできる小さな3つの工夫


生き物との出会いを記憶に残すために、私がやるようになったことを3つだけ書いてみます


1つ目は、見つけても追いかけずに、その場で止まってみること


生き物は追うと逃げます
逃げると、こちらもつい追ってしまって、呼吸が乱れます

私の場合は、ガイドさんに合図をして、その場でゆっくり息を吐いて待つ方が、結果的に長く観察できることが多かったです

向こうから近づいてきてくれたときのうれしさは、追いかけて見たときの何倍にもなる気がします


2つ目は、カメラを一度おろして、自分の目で見る時間を作ること


写真に残すことに夢中になると、画面越しの記憶しか残らないことがあります

私はマンタのとき、カメラを構え忘れたおかげで、あの光景を全部自分の目で見ることができました

今では
「最初の30秒は撮らない」
と、ゆるく決めています


3つ目は、ログブックに生き物の「様子」をひとこと書いておくこと


「ウミガメ1」と数だけ書くより
「岩の上で目を閉じていた」と書いておく方が、何年経っても思い出せます

ログブックは記録というより、未来の自分への手紙なのかもしれません



会えない日の海も、豊かでした


もちろん、何にも会えない日もあります

ウミガメを期待して、砂地しか見なかった日もあります
マンタどころか、魚影の薄い日もあります

それでも大丈夫です
会えないまま上がってきても、大丈夫です

ガイドさんに
「今日は何も出ませんでしたね」
と申し訳なさそうに言われた日も、不思議と悪い気はしませんでした

海の中で過ごした時間そのものが、ちゃんと残っているからだと思います

会えない日が続いたからこそ、会えた日の記憶が深くなる
そう思えるようになってから、海に入るのが少し気楽になりました

海は生き物に会いに行く場所ではなく、生き物の世界に少しだけお邪魔させてもらう場所です

だから、会えたらうれしい
会えなくても、青い水の中にいられただけでいい

そのくらいの気持ちの方が、長く楽しめる気がしています



おわりに


水中で出会った生き物が忘れられないのは、あの一瞬が完全に向こうの都合でくれた、偶然の贈り物だからです

だからこそ、追いかけず、急がず、その場で待つ
それが生き物との距離を縮める、いちばんの近道なのかもしれません

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