「天使が棺を捨てる日に」第十話
ヨハンはまだ生きている。しかし死に向かっているのもまた揺るぎない事実だった。生きているならば救いたい。心の底からそう願ったが、彼の命を救うには何もかもが足りなかった。止血を施したとしても、ヨハンは既に血を失い過ぎている。確実に輸血は必要だ。その上、消化器を始めとした臓器を代替品に替える必要もある。血液と臓器なら、私の分を差し出してもよい。しかし血液型が一致しなかった場合、彼を救うどころか、死を招くことになる。何より、臓器に関しては移植する技術も環境もない。
幼少期のヨハンも、こうした気分になることがあったのだろうか。金さえあれば、物さえあれば、と何もできない自分を呪った日があったのだろうか。
時の流れが厭に遅く感じられるほど、ヨハンを救う手立てに考えを巡らせていた時、鬱屈とした空気を打ち破って、凄まじい地響きと大量の何かが部屋の上から流れ込んできた。地響きの正体が天井の崩落であり、部屋に流れ込んできたのが土砂とコンクリートの破片、そして瓦礫だということに気づいたのは、それから数秒の間が空いてのことだった。
小さい砂の粒子や粉々になった鉄粉が、砂塵となって視界を遮っている。ネイスに上を向かせると、次第に晴れる視界の向こうに、天井に空いた大穴の輪郭とそこから覗く空が見えた。大穴の先には、相変わらず分厚い暗雲が、昼も夜も奪い去ったかのように重く垂れ下がっている。普段この街の灯りといえば、点在する火の手がそれぞれの一角を橙に照らすくらいのものだ。しかし今はそこに不気味なまでの白と、青い発光の群れがあった。天使のネイスだ。
天使たちの青色のカメラアイが、一斉に私を見た。途端に息苦しさが、私の身体を支配した。息を深く吸い込んでも、肺に空気が行き渡らない感じがする。自然と呼吸が荒くなる中、吐き気までもが押し寄せてきた。撃墜された直後、逆さまに落ちてゆく瞬間の、内臓が浮き上がる感覚が私の胃を圧し潰す。込み上げた酸が喉を焼いて、苦味と酸味が混じり合ったような味が、いくら呑み込んでも舌の奥の方に引っかかっている。
あの日感じなかった五感のいずれもが、またも私に警鐘を鳴らしていた。早鐘を打つ心臓が痛いのも、耳鳴りが酷いのも、視界の一切が紫に染まりつつあるのも、恐怖心の所為だ。死ぬことが、銃口を向けられることが、怖くてたまらない。
お願いだから、飛び去って。貴方たちが奪って得をするものは、ここには何もないのだから。
何かに祈った。神の存在など今更信じるには値しないが、それでもこの状況を司る何者かに祈った。天使は皆優秀だ。薄暗い地下空間に光るカメラアイを、見逃すことはないだろう。加えて私たちのネイスは、彼らにとって敵国の機体だ。それが戦闘の最中に地下から姿を現したとなれば、このまま何も起こらずに天使たちが去る可能性は、期待できない。
天を仰いだ。望むべくもない確率でも、願わずにはいられなかった。
薄く瞑った瞼の間、モニターの上の方で、天使たちは静止したまま、こちらを見下ろしている。彼らにとって私たち――新たな敵国の機体を発見したのは想定外の出来事だっただろうが、戦闘行為に発展していない以上、撃墜にしろ鹵獲にしろ、選ぶ余裕が彼らにはある。
私は祈った。望む未来をくれるというなら、たった五年程度しかないが、私のこれからの生涯を捧げても惜しくはない。彼らをこの場から消し去って、ヨハンを救うための手立てを――。
ふと、目についた。モニターの端、燃える何かが、目についた。何故目を離せないのか理解できないが、兎に角私の目の焦点はその一点を離れようとしない。薄い板状の人工物、その下で激しく燃える筒、おそらくは――エンジン。興奮に瞳孔が震え始めた時、燃え上がるそれが、翼だと分かった。大型の航空機の、主翼だ。
メーデー。不運な輸送機の通信が、記憶の中を駆けた。あの輸送機の貨物には、コールドスリープ装置があったはずだ。コールドスリープとは、生物を生きたまま冬眠させる行為だとヨハンは言っていた。そして人間に使う者がいるとも。
この場に、ヨハンを救う物資はない。しかし延命させる装置なら、ある。コールドスリープ装置をヨハンに使って、彼に必要な物が揃うまで命を繋げれば、蘇生の見込みはある。
手も足も、震えは止まらないままだ。それでも私には分かる。これは今までの震えとは違うものだ。死の恐怖に身が竦んだからではない。彼の命を救えるという希望が、私の身体を興奮させているのだ。
『フィー、君も……君も、幸せに生きろ』
ヨハンの言葉が脳裏を過った。今から私がすることは、命を賭さなければ成し得ないことだ。彼の意思に反することだ。それでも――。
「ごめんなさい。ヨハン」
それでも、私は貴方の言う事に従わない。貴方が私にしてくれたように、私が貴方を救ってみせる。この一月で、貴方が私を人間にしてくれた。貴方が私をフィフスにしてくれた。そのお返しというわけではないが、私がするべきこと――いや、私がしたいことは、あまりにも単純で明白だった。
「私は、戦う!」
ヨハンの手を掴み、コンソールの端に宛がった。武装の使用権限、緊急時のエンジン過負荷の許可、ヨハンが未だロックしていた、様々な機能が解放されてゆく。
恐怖心が無くなったわけではない気がする。それでも強いられる戦いと自らの意思で戦うことの間には、大きな違いがあると思うのだ。例え怖くとも、成し遂げたいことがあるのなら立ち向かうことができる生き物、それが人間だと私は思う。
ヨハンの手を膝に置き、ヨハンの身体ごとシートベルトを装着した。操縦桿を握り締めると、獣の咆哮のような大袈裟な音がコックピットの中からでも聞こえてきた。これが棺桶とまで呼ばれた旧型ネイスの、本来の音なのだろう。
ネイスのスラスターが炎を吹き床を焦がす。割れたテーブルもコンクリートも関係なしに灰にする赤い炎が、地下室に流れ込んだ砂を巻き上げる。砂塵の中、私のネイスは空に飛んだ。大穴を抜け、噴き上がった砂塵から飛び出して、退こうとする一機に肉薄する。
咄嗟に発射された機関銃を正面から浴びた。至近距離からの射撃だったが、前面装甲はびくともしない。ヨハンが言っていた通りだ。跳弾と火花がモニターの下側で踊った。効かないと分かれば、気にする必要はない。私はネイスに左腕を振り被らせ、擦れ違いざまに振り抜いた。ただの拳ではない。左腕の武装、ヨハンが拾い修理したジャンクパーツ、掘削用の杭打機が、敵機の頭部を貫いた。まずは奇襲で一機。ネイスのカメラ機能は殆どが頭部に依存している。あの機体はもう退くしかないだろう。
背後の敵機が後退し始めたところに、四方から機関銃の掃射が降り注ぐ。大丈夫だ。致命的な部位に被弾しなければ。装甲を信じ、もう一機に狙いを合わせ引き金を引いた。重い腕部でも跳ね上がるほどの大口径のライフル弾が、空を裂いた軌跡だけを残して敵機の片腕を吹き飛ばす。続けて撃った二発目がもう片腕を、三発目が脚部を破壊した。
これで二機目。そうしたところで、モニターの正面に敵の一機が割り込んだ。反撃を試みるより前に、銃口がコックピットに突きつけられる。サブカメラの映像に目をやったところ、どうやら三方向から機関銃を向けられているようだ。動けない。スラスターやカメラアイ、装甲に覆われていない部位を狙われれば、頑丈なこの機体でもひとたまりもないだろう。
『――こちらはB国軍、第百四十一独立小隊』
通信が開いた。今対峙しているのは、かつての私の所属部隊のようだが、そんな些事はどうでもよかった。より気がかりなことに、耳を疑ったからだ。通信元から聞こえたのは、確かに私の声だった。
『貴機は我々の領空を犯したのみならず、我々に対し攻撃を実施した。速やかに投降せよ。さもなくば撃墜する』
やはりそうだ。私と同型の天使が、通信をしてきている。それに気づいたと同時に、私は首を横に振った。同型だろうが、私には関係のないことだ。無力化した二機と私を包囲している三機で、敵機は五機。どうやら私が抜けた穴は、既に埋まっているようだった。
包囲の向こうで、煙を吹いたネイスが離脱するのが見える。二機を無力化されてもなお通信を試みているということは、彼らは何かを欲しているのだろう。おそらくは全てだ。私の所属や、目的、そして物資。いつでも私を撃墜できる状況を作っておいてそれを実行しないのは、私を撃墜しないことが彼らに利益を生むからだ。天使ならそう考える。
通信回線を、開いた。彼らが私に呼びかけた回線ではなく、B国の天使たちが用いる回線を。
「――拒否する。私はコールドスリープ装置が欲しい。それを妨害するならばこの場の全員を撃墜する」
『……この回線を何故知っている? いや、その声……同型か。私の着任直前に、五型培養槽出身の天使が戦死した記録があったが……よもや生きていようとはな』
互いに静止したまま、数秒の凪が生まれた。
『天使の身にありながら、所属部隊への反逆行為……理解に苦しむな。それさえなければ、申し開きもできたろうに』
指揮官の声音には、吐息が混じっていた。残念がっているのだ。撃墜されてなお生き恥を晒す天使と、同型だと思われたくはないのだろう。
「……出自は、関係ない」
『何……?』
「出自は関係ないと言った。私はフィフス。再度この場の全員に通告する。私の邪魔をする者は、一人とて容赦しない!」
『――天使に生まれたことすら否定するとはな』
呆れか、それとも失念か、どちらにせよ知った事ではないが、指揮官の息遣いに、熱が混じったように思えた。
『最早お前は同型ではない。お前などと一緒にされてたまるか。記録通り戦死しろ』
指揮官の攻撃指令は、発砲と共に下された。それと同時に、あるいは私の方がやや早かったかもしれないが、私は機体の背部から武装を射出した。降り注ぐ弾丸より一回り大きい球が私の機体の真上で爆ぜ、色彩の一切を奪う白い発光が空一面を眩ませた。ヨハンが拾い、機体に装備させていたフラッシュグレネードだ。一時的だが、強い光を放つことでネイスの視界を奪う。当然ながらそれは私も同条件なのだが、包囲を脱するのに視界は必要ない。
私は機体数機分上空へ飛び上がると、フラッシュグレネードの光を背に、我武者羅にスラスターを吹かした。背後で爆発音が聞こえたのは、光の中で乱射した馬鹿がいたのだろう。期せずして、同士討ちが起きたようだ。
残りは二機。回復しつつあるサブカメラが、背後から接近する機影を確認した。この機体は鈍重だ。天使の駆る軽い機体からは逃げられない。旋回して迎え撃とうにも、距離が詰まりすぎている。旋回している間に接近を許してしまうだろう。
それならば、賭けるしかない。全てのスラスターを切り、自動姿勢制御システムをオフにした。慣性と重力に引かれて落下が始まる直前に、肩部中央のスラスターを噴射して、機体を前方に傾ける。姿勢制御が取れない旨の警告音がけたたましく鳴る中、機体が上下逆さになった瞬間、前進に用いる全てのスラスターを噴射した。慣性に逆らう動きが、私の身体を座席へと、そこへ座るヨハンへと押し付ける。瞼を開き、指を動かすので精一杯なくらいの、極めて強い負荷だった。この急反転に反応できるパイロットは、そうはいない。だからこそ賭ける価値がある。
接近する敵機に加速した。軽量機に慣れたパイロットでも目が追い付かないほどの相対速度で、狙いすました一発を放つ。即座に命中を確認することは私でもできなかったが、擦れ違った後方で、何処のだか分からないパーツが宙を舞うのが見えた。もうずっと後方にある敵機をサブカメラで追うと、遅れて小さな爆発が、立て続けに起こっている。爆煙が消えた後に見えたのは、両腕が肩から綺麗さっぱり無くなった機体の姿だった。
あと一機。
『――やるようだ。だが、お前はもう天使ではない。潔く地に落ちろ!』
わざわざ通信を送ってくるとは、真面目な女だ。
機体を水平に戻し、警告音を消した。
「生憎と時間がない。落ちるのはそちらだ!」
何度か命中させて分かったが、この機体のライフルは極めて弾速が速く、そして高威力だ。とてもじゃないが、天使の装甲では耐えられない。掠めただけでも、その衝撃が致命傷になる。一発でけりを付けられる。冷静に狙って、引き金を引いた。
最後の一機は、これまでの天使の機体とは明らかに挙動が違った。パイロットとしての技量を見せつけるような、そして自分には他の天使とは比較にならないほどの価値があるのだと、誇示するかのような動きだった。上下左右に揺さ振りをかけながら、緩急を付けて接近してくる。一発目は右へ動く敵機の左へ逸れた。これはと思い放った二発目は、敵機の下をすり抜けていった。仕留め損なった。三発目のリロードが完了する頃には、敵機は私の右上方から斬りかかり始めていた。
青白く輝くレーザーの刃が、振り下ろされる。
咄嗟にスラスターを吹かしたが、躱せない。斬りつけられた前面装甲が赤熱し、溶断される様をカメラアイが捉えた。コックピットの機器類がやられたらお終いだ。お願いだ、お願いだから、もう少し耐えて――。
必死に後方へ逃れた。少なくとも私は生きていて、幸運なことに機体も正常に機能しているようだった。それでも無事とは言い難い。感じたことのある風が、コックピットへと吹き込んできた。あの日、前面装甲を切り裂かれ撃墜されたときの風と同じ、何かが焼ける臭いがする。汚染された空気に反応して、フィルターがごぽごぽと鳴った。
装甲に穴が空いた状態でもう一撃は、耐えられない。敵機のブレードの冷却が済む前に、撃ち落とせ。でなければコックピットの中で、ヨハンと焼け死ぬ羽目になる。
当てろ。当てるんだ。決して外すな。敵は一撃で倒せるのだから。運が悪ければ機関銃を乱射されただけで装甲が剥がれ落ち死ぬかもしれないが、私は可能性に賭けたのだ。ヨハンを救えるという可能性に。今さら死ぬ確率が少しばかり高まったからといって、退くわけにはいかない。
狙った。撃った。敵機はそれを掻い潜り、私に接近した。その度にフラッシュグレネードを使い、距離を取る。それを何度も繰り返しているうちに、敵機の癖が分かるようになった。それを考慮に入れて、狙い、撃った。はずだった。弾が出ない。代わりにかちり、と聞いたことのない音がした。弾切れだった。
好機だと思われたのだろう。揺さ振りをかけない分、敵機はこれまでよりずっと速く私に迫った。まだブレードは使えないはずだ。しかし機関銃の接射にも、もうこの機体は耐えられない。頼みのライフルは弾切れ。有効打となり得るのは杭打機しかない。
後退のためにスラスターを噴射した。杭打機を当てられる確率を一パーセントでも高められるよう機体は水平を保ち、間合いを測り、敵機を正面に捉えることだけに意識を集中させた。
その時、コックピット内の何かが、コンソールのボタンに触れた。私の身体でも、コックピット内に零れ落ちたネイスの破片でもなかった。ヨハンの機械義手だった。
機械義手は自律した思考を持たない。高級品の事情は知らないが、少なくともヨハンの腕はそうではない。急激な後方へのスラスター噴射、そしてコックピットへ流れ込む気流、それが彼の腕を浮かし、コンソールにたまたま当たっただけ。そう解釈するのが真面だろう。それでも、ヨハンの意思がそうさせたのだと思いたくなるほどに、彼の指先は的確にあるボタンを押していた。
「おい、腕部の武装がライフルとブレードなのは分かったが、この背部の武装は何だ?」
「ああ、それはな。フラッシュグレネードだ。ボタンで機体の真上に射出、勝手に起爆する。貴重品だぞ」
街の探索は順調とは言い難かった。拾った物資は、既に使い物にならなくなっていることが殆どだったが、僅かばかりでも糧を得るために毎日探索を継続していた。ヨハンに機体の武装について尋ねたのは、そうした日々の中のことだった。
「というか、左腕についてるのはブレードじゃない。杭打機だ」
「杭打機?」
「ああ。掘削用のを修理してつけてる。まあ、無いよりかはマシだろ。それだけじゃないぜ。他には――」
次の瞬間、機体の肩部からワイヤーが発射された。私の操作ではない。ヨハンの操作だ。
ワイヤーアンカー。この街では工具を拾うことが多いため、それを改修した装備が手に入りやすいのだとヨハンは言っていた。私が彼から説明を受けたのが、もうずっと前のことのように思えた。
アンカーの先端が敵機の薄い装甲に突き刺さったのが、遠目でも見えた。ワイヤーが撓む。未だボタンに触れたままのヨハンの腕に手を重ね、巻き取るボタンを、急いで押した。ドラムが回転し撓んだワイヤーがぴんと張った瞬間、敵機が体勢を崩したのが分かった。今しかない。
左腕を振り上げ、杭打機を構えた。ワイヤーが敵機を引き寄せる。後はそれに合わせて、当てるだけだ。機体が杭打機を振り始めたところで、敵機もまたブレードを振り被っているのが見えた。
いくら何でも早すぎる。まだ冷却は済んでいないはずだ。その証拠に薄っすらと赤熱している。だというのに敵機は躊躇う素振りもなく、ブレードからレーザーを吐き出させ始めた。
腕を振り抜いたのは、同時だった。レーザーの熱でワイヤーが切られ、巻き取り用のドラムにばちんと大きな衝突音が鳴った。レーザーと火花がモニターの殆どを占めたかと思うと、一瞬の後には装甲の傷が広がり、熱風がコックピットへ吹き込んできた。自分の皮膚が焼ける臭いがした。装甲を含めコックピットハッチまでもが殆どなくなった有様だが、私も機体も、生きている。その証拠に、振り抜いた杭打機が敵機のコックピット上部を打ち砕いているのが、はっきりと見えた。粉砕した敵機の装甲が重力に従って落ちると、その中にいたもう一人の"私"と目が合った。敗北の苦汁、絶望、怒りと憎しみ、羨望――鈍い宝石のような瞳の光に、醜悪で、剥き出しの感情の色が浮かんでいた。
私を睨む"私"の目から、涙の雫が風に乗って飛んだ。雫の一つが、半ば溶けたブレードの刀身に触れ、僅かな白煙を残して蒸発した瞬間、刀身が内側から爆ぜた。
敵機の推力が、徐々に落ちてゆく。少しずつ高度を下げる"私"が、泣きながらずっと私を睨みつけている。
「……お前が――――――」
"私"の唇が動いた。辛うじて聞き取れたのはそれだけで、最後のほうはよく聞き取れなかった。"私"の機体のスラスターがいよいよ動かなくなると、"私"は私の視界から消えた。この高度から墜落すれば、まず助からないだろう。それでも"私"が可能性というものを引き寄せられるよう、もしそうならなければせめて苦痛の無い最期を、心の内で祈った。
