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映画『赤と白とロイヤルブルー』感想

配信前からSNSで話題になっていた今作。
その感想を述べます。ネタバレ含みます。


赤と白とロイヤルブルー

Prime Video UK @primevideoukより引用

概要

原作は同じタイトルの小説。私は映画のみ視聴のため、原作との差分は把握していません。
映画は現在Amazon Prime Videoでのみ視聴可能。

予告編とあらすじ

ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー小説を原作とする「赤と白とロイヤルブルー」の主人公は、アメリカ大統領の息子アレックスとイギリスのヘンリー王子。2人の長期にわたる確執は両国間に亀裂を生じさせかねない事態となり、表向きの和解を余儀なくされる。すると凍りついていた関係は解け始め、心の奥に秘めた思いに火をつけることになる。

Amazon Prime Video『赤と白とロイヤルブルー』のあらすじ引用

展開が早い

ダラダラしたところがなく、見所がずっと続く感じ。

今作、アマプラでは2時間1分とされているが、エンドロールの時間を除く本編は1時間50分程度。2時間を切る。

おそらく原作から端折ったところもあるのだろう、という早さだ。
だがアレックスとヘンリーの心の機微と、それによる行動の変化に注目を集めるうえで、ある程度多すぎる要素を削ったのだろうと思うと、それはそれで良いと思う。

もっと見せて!と思ってしまうようなくらいがリピーターを生むのにも良いんだろうな。

主人公アレックスとヘンリー

アレックスはアメリカ大統領の息子。
大統領は母親で、再選を目指す選挙が近い。その息子として母親の役に立つために、故郷で保守的な傾向のあるテキサス州の戦略を提案したりと活動している。

彼はもともとは労働者階級の一般人だったが、母親が大統領になったことで生活が変わった。
ただ成金ボンボンではなく、政治に興味があり、皆の生活を幸せにするために努力を惜しまない。
大学で法学を学び、テキサスの戦略を提案し、認められ、自らテキサスで活動して回って、支持者獲得の実績を積んだ。

彼は自由の国アメリカで、苦悩しながらも自力で道を切り開く。
若い男性らしくクラブで踊りあかすこともあるが、彼は信頼できる、彼の背中を押してくれる仲間がたくさんいる。そういう人望がある。そして自分で決断できる男だ。

自信がないとき/あるとき、それをちゃんと口にして人に伝えることができる。良いと思う事悪いと思う事を主張できる。

ヘンリーはイギリス王室の第二王子。
幼い頃に自身がゲイである自覚が芽生えたが、伝統を守る王室では受け入れられないだろうということを理解している。
理想の王子を演じて、なりたい自分を封じ込めている。

公人としての素晴らしく抜かりのない振る舞いができるが、自分のやりたいことをやる、という点には非常に及び腰。
国が、王室が求める像に合っているかどうかが足かせとなっている。

二人の相互作用

変化が激しかったのはヘンリーだと思った。
ヘンリーは理想の王子という縛りの中で生きていたが、アレックスと出会って、少しずつ自分が望む行動をとるようになる。

例えば勝手にアレックスの連絡先を調べてメッセージを送ってみたり(本当にMI6の力を使ったのかなぁ)、
年越しパーティで、女性とキスするアレックスへの気持ちが抑えきれなくなって、人の目のないところで落ち着こうとしたのにアレックスが来てしまって、いきなりアレックスにキスをしたり、
サプライズでアメリカにやってきたり、
自分から夜のお誘いをしたり。

それでも王室の伝統、理想の王子像の縛りは彼の心を強く縛り付けていて、アレックスが将来に向けて踏み込もうとしたときには思わず逃げてしまう。

それでもアレックスの諦めないアプローチで、ヘンリーも遂に王室と対峙。
あの王室のドアを開けて国民の前に二人で出ていく姿は、ヘンリーが壁を打ち破って世界が開けた瞬間だったと思う。

ヘンリーと比べるとアレックスは行動的に見えるけれど、大きな不安を抱えながら生きていて、選挙戦ではヘンリーに支えられていたように見えた。

最後の選挙のシーンは、アレックスの心理状態を表す演出というか、カメラワークが巧みだ。
アレックスが合流してから結果が出るまでカメラの切り替えがほとんどない、いわゆる長回しだ。
(エレンが原稿を考えているところで少し切り替わるくらいか)

カメラはアレックスを追うように動き回る。
というか、アレックスが落ち着かない素振りで動き回っている。
彼の不安さ、落ち着かなさ、結果が出るまでのもどかしさが、このカメラワークによるアレックスの動きを追いかける形でより強く感じられた。

彼らを支える女性陣

アレックスは、彼を理解し支え、時には叱咤しつつも味方として心強い人が多い。
母親エレンは、政治を志す青年アレックスに対しては、大統領として厳しく接するが、彼が息子として恋を打ち明けた際には、母親として包み込んだ。
ピザを取り二人で食べながら、彼の思いを制することなく聞いた。
あとアドバイスのうち2つ目が特定の場面においてものすごく実用的だった

ノーラ。アレックスのよき友達。統計に詳しく、選挙活動にも関わる。
アレックスがヘンリーへの思いに戸惑っているときに、真っ先に相談した相手だ。

ザハラ。大統領の補佐官。アレックスに手を焼き、ブチギレながら対応に追われる。王子に対しても容赦がない。
秘密を守るのが上手い。
口は悪目だし、彼らのせいでキレ気味状態のときが多いけれど、アレックスのために動いてくれる。

ヘンリーの周辺には彼個人を支える味方が少ない。唯一と言っていいのは妹ビアトリス
伝統の保守に奔走する王室の中で、唯一肉親の中で見方をしてくれる人。

マイノリティの自由と権利

今作は性的マイノリティを扱っていることは明白だ。
アレックスはバイ、ヘンリーはゲイ。他のキャラクターにも、異性愛ではない性指向・恋愛指向をもつ者がいる。

いわゆるLGBTQ+、性的マイノリティと呼ばれる人たちだ。
当たり前だが、彼らは社会に実在している。大学生として、友達として、飲み仲間として、政治家として、会社員として、ただの通りすがった名も知らぬ人として。

現実において、会社員をしている人は同僚の性指向を把握しているだろうか。取引先の性指向を把握しているだろうか。
性指向によってこれまでの仕事の成果への評価が揺れ動くだろうか。

小売業をしている人は、毎日買いに来るお客さんの性指向を把握しているだろうか。性指向によって買ってほしい/ほしくないなどと思うだろうか。

おそらくほとんどの人は、周りの性指向を一々確認しない。
そして性指向によって仕事の出来不出来が変わったりもしない。

そういう意味で、社会の中で相手の性指向がどうであれ、自分に対して害悪になることはないはずだ。
(たとえば異性愛者の男性が同性愛者を騙って女性に近づき襲う、みたいなのが問題なのであって、多くの真っ当な倫理観を持つ人の性指向は何であれ、害悪にはならないという意味)

だから、自分の性指向を他人に明かすか明かさないか、
明かすにしても誰に明かすのか、
いつ明かすのか。
それは自由で、当人が決めて良いことのはずだ。だって明かさなくても良いことなのだから。

だから政治記者ミゲルのやったことは、本当に許されない事だと思う。
どうやってデータを入手したのかはわからないが、アレックスとヘンリーの関係を無断で世間にバラした。
いわゆるアウティングというものだ。

公人であってもプライベートはあるわけで、性指向は最もプライベートな話のひとつだと思う。
何故なら公人の仕事・公務が、性指向で左右されることはないはずだからだ。先ほど話した仕事の質と同じ話だ。

どうか今後現実でも、人のプライベートに勝手にずかずか入って荒らして、それを他人に勝手に広めるなんてことは起こらないでほしい。

「赤」と「白」と「ロイヤルブルー」

タイトルに使われている色は、アレックスにもヘンリーにも意味がある色だ。

まずわかりやすいのは国旗。
アメリカの星条旗とイギリスのユニオンジャックには、どちらも赤・白・青が使われている。

左図:アメリカ国旗である星条旗
出典:U.S. Department of State, Public domain, via Wikimedia Commons
右図:イギリス国旗であるユニオンジャック
出典:Original: Acts of Union 1800 Vector: Zscout370, Public domain, via Wikimedia Commons

アメリカの国旗の場合の各色の意味はこれだ。
 赤:たくましさ、勇気
 白:純粋、純潔
 青:戒心、忍耐、正義

イギリスの国旗の場合は、イングランド国旗とスコットランド国旗、アイルランド国旗が合わさってできているため、それぞれの色の意味が明確に定まっているわけではなさそう。

ただし、イギリスでは青つまり「ロイヤルブルー」は特別な色だ。
ロイヤルとあるとおり、王室の色。イギリス王室の公式の色として定められている。
ヘンリーにとっては身近な色だろう。

そして同じく、アレックスにとっても青は特別な色だ。
アメリカの二大政党は民主党と共和党。母親は民主党で、民主党は慣例的に青色で表される。
映画の最後の大統領選挙でも、テキサス州が青色になるかどうかが焦点になっていた。

ちなみにテキサス州はかなり共和党支持傾向が強い。
テキサス州では1984年以降、直近の2020年の大統領選まで一貫して共和党が勝利している。いわゆる「赤い州」だ。

図:2008年から2020年までの大統領選挙における州ごとの投票傾向
赤が共和党、青が民主党、紫が偏りなし
出典:Angr, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

そのため、映画のようにテキサス州で民主党が勝利するというのはかなり異色の結果と言える。

原作との違い

映画を観た後、原作も読んでみた。

読んでみてわかったが、やはり映画と原作の小説とでいくつか違いがあった。

映画のほうが登場人物が少ない

アレックスの周りで言うと、姉ジューン、母親エレンの再婚相手レオ、尊敬する政治家ラファエル・ルナ、敵対する政党である共和党のジェフリー・リチャーズ。シークレットサービスはエイミーだけで、カッシアスのほうは映画には出てこない。

エレンは映画では離婚歴がないことになっている。
共和党との対立関係はそのままだが、共和党の政治家で目立つ登場人物はいない。

アレックスの政治面での師は母親エレンだけで、ラファエルは存在しないことになっている。

原作ではアレックスと、姉ジューンと親友ノーラが三人組として世間に認知されているようだが、映画ではジューンの役割もノーラが担っている。

登場人物の設定が違う

原作ではビアトリスはヘンリーの姉で、過去に薬物使用歴があるせいでパウダープリンセスというあだ名をつけられている。
映画では妹に変更されているし、薬物の話も出てこない。

また原作ではアレックスとヘンリーの身長差がハッキリ設定されている。
アレックスが自称175cm、ヘンリーはそれより10cmほど大きいことになっている。
だが映画ではむしろアレックスの方が背が高く見える。
(ヘンリーはそれに対してシークレットブーツを履いているのかと揶揄する)
体格がさほど変わらないように見える。

また、原作ではアレックスが21歳、ヘンリーは23歳。
映画では年齢が明言されていない。ただ選挙活動の感じからして、アレックスはもう少し年上にも見えるが、大学生であることからして、この辺りの設定は明言してないだけで大幅には変えていないかも。

アウティング加害者が違う

映画でアレックスとヘンリーのことを勝手に世間にバラしたのはミゲルだ。
(匿名でのリークだったようで明言されていないが、ミゲルがその後爆速で記事をあげており、ニュース番組ではミゲルを追及している)
しかし原作にミゲルは存在しない。

原作での黒幕は共和党のジェフリー・リチャーズ。
エレンに対抗する大統領候補だ。

映画には無いシーン

例えば映画ではアレックスとヘンリーがいきなりパリにいるシーンがある。
ここは何故パリに来ることになったのか、理由が一切描かれない。

原作を読むと、二人がパリ訪問タイミングをどうにか合わせている描写がある。
このあたりは映像化にあたり冗長になるのを防ぐためのカットだったのだろう。

個人的には、序盤アレックスがヘンリーと仲が良いフリをしなければならないとき、夜中にヘンリーが客室のアイスを取りに来るシーンは映像化してほしかった……。

(2023/08/19追記)と思ったら、Youtubeにそのシーンがアップされた。

ヘンリーがパジャマではなくてかっちりした格好のままだったり、ちょっと原作とは違うけれど。
あとここだとアレックスの方がヘンリーに対して「耐えられない」って言ってて、アレックスが傷付いたときとの対比にしようとしたのかな。

より無力な若者感

映画では、アレックスは自発的にテキサス州の選挙政略を提案し、その内容を認められ、テキサスに飛んで自分の足で地域をまわって活動し票を集める。
彼が悩みながらも充実し、政治家として、選挙活動家として実績を積んでいく、いわば成長し自信をつけていく姿が描かれる。

対して原作では、母親にカミングアウトした際、リスクヘッジを重視して選挙活動から外される。
それ以降本当に選挙活動ができなくなってしまった。

これによって、正直私はアレックスの印象は原作と映画で結構違って感じた。
アレックスは何もできない無力な若者、という側面がより強く感じられた。映画では有言実行する姿があるからこそ、その言動に強さがあり、ヘンリーの心が動かされるという点で説得力があったが、原作ではその強さが欠け、夢と理想を語る若者になってしまっているように感じてしまった。

ヘンリーが家族へカミングアウトする際も、突然強くあろうと思い至った母親キャサリンの口添えの威力にだいぶ助けられていたように思う。

このあたりの、アレックスとヘンリーという二人の主人公が、自分で道を、未来を選び掴み取るという成長という点においては、映画の方がわかりやすく、そして輝かしく見せることができていたと思った。

まとめ

アメリカの政党を知らなくても、2大政党の争いであることは色で表されるためわかりやすい。
アメリカとイギリスの文化の違いを知っていたらより面白いけれど、知らなくても知るきっかけとしては面白いかも。
しっかりベッドシーンや下品なジョークがあるため、そこは苦手な人もいるかもしれない。各自でご判断を。

2時間があっという間に終わる。
LGBTQ+だからどう、という点もあるけれど、人の恋愛事情に勝手に首突っ込んでくんなという人間全般に対するごもっともな話と、立場をすべてかなぐり捨てるような無茶をせず、常識と私情の狭間で揺れ動きながらも、道を見つけて歩みを進める登場人物を応援したくなる話だった。

―――

2023/08/13 「原作との違い」追加

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