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地方の理美容サロン事業者にも開かれている『接点を作る道!』

はじめに「美容」と「観光」が交差する時代

新シリーズを始めます。テーマは理美容業界のインバウンドビジネスです。

このシリーズは、理美容サロンコンサルタント・江崎江美氏が私のX記事の「二重価格の納得感を作る5つの設計条件」を引用リポスト下さったことがきっかけです。「インバウンドのお客様を獲得したい理美容業界の皆さんも、知っておくべき!」とのお言葉に感謝し、全3話で纏めました。

江崎氏は、理美容機器メーカー在籍14年間で3,500店舗以上の売上データを分析してきた、業界最前線のコンサルタントです。その業界の専門家から「知っておくべき」と言われる構造データこそ、現在の理美容業界の現場で必要とされる『リアルな解答』である。そう実感をしたことが、本シリーズ執筆の契機となりました。

私は観光事業を営みながら、日本のインバウンドビジネス全体の構造分析を続けてきました。分析を通して感じるのは、理美容業界とインバウンド市場の関係が、現在大きく変わろうとしているいるという事実です。

訪日外国人観光客が4,268万人※2025年実績と過去最多を更新し、観光地は活況を呈しています。しかし、外国人観光客の理美容サロン利用の大半は、ホテル併設のスパや、SNSで認知された一部専門店に集中しています。街の理美容サロンとの接点は、これまで存在をしてこなかったが現状の正確な姿です。

しかし最近、その構造が静かに変わり始めています。SNSと口コミの力で、典型的な街の理美容サロンであっても、訪日外国人観光客の予約を獲得する店舗が現れているのです。

業態・価格帯・立地に関係なく、新しい接点を作り出している理美容サロン事業者が存在している。
本シリーズがお伝えしたいのは、「新しい接点の作り方」です。

日本の理美容業界には、2030年までに市場規模445億円に拡大をする巨大なインバウンド需要が存在している。現在、この需要の多くは宿泊施設併設の美容サロンに集中をしているが、街の理美容サロンにも、積極的に接点を作りに行けば、新しい収益モデルが成立する余地がある。

本シリーズ全3回で、データと事例から、理美容業界のインバウンドビジネスを構造的に読み解きます。


理美容サロン事業者が知らない6つの事実

まず、最新調査から見えてきた数字を箇条書きで提示をします。これらが、シリーズ全体の出発点になる事実です。

リクルート「ホットペッパービューティーアカデミー」
  • 欧米豪の訪日外国人観光客の42.6%が、日本滞在中に美容サロンを利用
    ※潜在関心層を含めると72.8%

  • 訪日外国人観光客5回以上のリピーターは、54.5%が美容サロンを利用
    ※初訪日外国人観光客層の31.6%の約1.7倍です。

  • 訪日外国人観光客の美容関連平均支出総額は2万630円
    ※66.5%が1万円以上を支出

  • 美容サロンの市場規模は2024年197億円→2030年予測は445億円の2.3倍へ成長!

  • 外国人観光客の来店客の年齢層は、30〜50代女性が71.5%で突出!

  • 都市圏中心部の年間平均来店客数3.97人 / 地方都市中心地0.56人
    ※分母となる美容サロン数が非常に多い為平均値は小さく出ていますが、集客に成功している美容サロンに過集中している実態を示しています。

出典は、リクルート「ホットペッパービューティーアカデミー」が、2025年8月〜11月に欧米・北米・豪州からの訪日外国人旅行者1,535人を対象に実施した大規模実態調査と、2026年2月発表の最新市場予測です。

この数字を見て、何を感じられますか?


ここで、知人の理美容事業者から率直なご意見を頂きました。

「数字は確かに知らなかったが、訪日外国人観光客の理美容サロン利用は、宿泊施設併設のホテルスパや旅館の付帯施設のサロンに集中しているのではないかは?」

この指摘は、極めて正確です。
訪日外国人観光客の美容サロン利用先を見ると、「エステティックサロン・ホテルスパ」が18.7%、「マッサージ・リラクゼーション施設」が26.7%
これらの多くは宿泊施設併設、高級施設です。一方、ヘアサロン(17.3%)も都心の特定店舗に集中しており、街の理美容サロンの前を訪日外国人観光客が日常的に通っているわけではありません。

つまり、「街の理美容サロンは取り零している」のではなく、そもそも訪日外国人観光客との接点が構造的に少ない!これは現場の正確な認識です。


訪日外国人観光客の理美容市場の「3層構造」

訪日外国人観光客の理美容サロン市場は、実際3つの層に分かれています。

第1層:宿泊施設併設の高級スパ・サロン※市場の最大層
ホテル併設のスパ、温泉旅館の付帯施設美容サロン、シティホテルのビューティーサロン等、訪日外国人観光客は宿泊先で美容サービスを完結する場合が多く、訪日需要の大部分が集中しています。利用客の単価も高く、ホテル宿泊費とのバンドル販売で「特別な体験」として消費されます。

第2層:SNSで認知された一部の専門店
マスメディア・ネット記事で取り上げられる事例の多くがこの層です。銀座・表参道・京都伏見稲荷等の特定立地で、SNSで認知された一部の専門店が、訪日外国人観光客の指名予約を集めています。市場の一部ながら、最も注目されている層です。

第3層:街の理美容サロン
地域密着型ヘアサロン、街の理容室、個人経営の美容室、日本の理美容業界の大多数を占める層です。訪日外国人観光客との接点は構造的に少ない。

ここで重要なのは、「第3層の街の理美容店が、現状で訪日需要を取り零しているわけではない」ということです。『そもそも訪日外国人観光客がそこに来る経路が存在しない。』これが事実です。

では、街の理美容サロンにとってインバウンドは無関係なのか?


『接点がない』を『接点を作る』へ!

3,500店舗以上のデータ分析を経験してきた江崎江美氏が、私のXポストを「インバウンドのお客様を獲得したい理美容業界の皆さんも、知っておくべき」と引用リポストをして頂いたのは、第1層・第2層の話だけを伝える為ではないと私は受け止めています。

業界の専門家として現場を知り尽くしている方が、業界の皆様に向けて発信されたのは、「街の理美容サロンにとっても、インバウンドは新しい収益モデルになり得る」という可能性を伝えたかったからだと考えます。

実際、現在進行形で接点を作りに行った街の理美容サロンが、訪日外国人観光客のリピーターを獲得し始めている事例があります。シリーズ第3回(有料記事)で詳述する地域密着型サロンですが、SNS発信と外国人観光客への対応設計で、欧州からの訪日外国人観光客が来日2日目に直行する店舗ですが、宿泊施設併設の高級サロンではありません。表参道のラグジュアリー店でもありません。典型的な街の理容室です。それでも、接点を作りに行く設計を整えれば、訪日外国人観光客のリピーターを獲得できます。

「外国人観光客は、宿泊施設併設のサロンだけの話」という業界の現状認識を踏まえた上で、「街の理美容サロンにも、接点を作る道がある」という新しい選択肢を提示するが、本シリーズの目的です。

「うちは街の床屋だから関係ない」と感じる事業者の方々の感覚は、これまでの構造を考えれば極めて正当な認識です。本シリーズは、その正当な認識を否定するものではなく、「もし、新しい接点を作りたいと考える事業者がおられるならば、こんな道がある!」という選択肢を、データと成功事例と共に提供したいと存じます。

選ぶか選ばないかは、各事業者の経営判断です。訪日インバウンドビジネスに取り組まない経営判断も、それ自体が正当な選択です。本シリーズは、「インバウンドをやるべき!」と説くものではなく、「もし興味関心があるならば、こんな構造になっている」という情報共有する場として一読をして頂ければと思います。


「観光客はリピーターにならない」は本当か?

ここで、業界の現場感覚に正面から向き合います。

マネーポストWEBの記事「『日本の技術はすごい!』訪日外国人を魅了する日本の美容室」では、業界経営者の率直な懸念が紹介されています。

渋谷区で席数10名ほどの美容室を15年経営する店長Aさんの発言です。

「美容室って、リピーターで成立をする業界なんですよね。その点、外国人観光客で溢れかえるようになったら、『いつものお店』じゃなくなったことを察知して、今までのお客さんが離れてしまうかもしれない。リピーターの方の足が遠ざかることになるのは絶対に避けたい!」

マネーポストWEB

さらに、別の懸念も挙げられています。

「翻訳アプリを使えば、意思の疎通はなんとかなる。どんな髪型にしたいかも、ある程度モデルの写真を示すことでイメージは掴めます。保証できないのは仕上がりというか…。外国人の場合、髪質や毛量等が日本人とはかなり異なります。」

この2つの懸念点である「外国人観光客はリピーターにならない」と「日本人とは髪質が違うので満足な対応ができるか不安」は、理美容業界経営者の発言として極めて正当な感覚だと受け止めています。

実際、理美容室業界の数字は、リピーターで成立しています。

  • 美容室の新規顧客の90日リピート率:約30%

  • 美容室の既存顧客の90日リピート率:約70%

  • 新規顧客の獲得コストは、既存顧客の5倍!

ヶ月毎に通ってくれるリピーターで売上の大半を組み立てるのが、理美容サロン経営の標準モデルです。外国人観光客が「1回限り」で来店、自国に帰ってしまうならば、確かに従来モデルでは「リピーター価値」を生まないように見えます。しかし、データを丁寧に読み解くと、この懸念事項は半分は正しく、半分は間違っている。

正しい部分: 訪日外国人観光客は、自国に帰ってしまえば物理的に直ぐには来られない。日本人顧客の「3ヶ月毎のリピート」モデルには乗らない。

間違っている部分: 訪日外国人観光客には、「日本人顧客とは異なる新しいリピート構造」が存在する。そして「単価アップによる利益構造の改善」が想像以上に大きい。


訪日外国人観光客特有の3つのリピート経路

リピート経路①:訪日外国人観光客のリピーター層を取り込む

第1の経路は、訪日外国人観光客のリピーターそのものの取り込みです。
 訪日2回以上のリピーター層:47.4%が美容サロン利用
 訪日5回以上のヘビーリピーター層:54.5%が美容サロン利用
訪日5回以上のヘビーリピーターは、日本に年に1〜2回訪れる固定客です。「日本に来る度に、あの店に行く」というルーティンを持っています。これは、日本人客の「3ヶ月毎のリピート」とは異なりますが、「年に1〜2回の確実なリピート」という、新しいリピーター・カテゴリーです。

しかも、政府の第5次観光立国推進基本計画は2030年訪日リピーター数を4,000万人(訪日全体6,000万人の3分の2)と新たな目標に設定しました。「リピーター化」は国家方針として後押しされる流れにあります。

5年後、訪日の度に自店を訪れる外国人顧客が10人、20人と蓄積をしていけば、それは無視できない安定収益源になります。


リピート経路②:訪日滞在中の複数回利用!

第2の経路は、訪日1回の中で複数回利用してもらうことです。

10日〜2週間の長期滞在をする欧米豪客にとって、訪日中に1回の美容サロン利用だけで終わるとは限りません。観光初日滞在中盤・出国前、1回の旅で2〜3回利用して頂く来店設計は、日本人客では絶対に成立しない訪日外国人観光客特有の収益モデルです。


リピート経路③:物販によるホームケア継続!

第3の経路は、物販によるホームケア継続です。

日本の高品質なシャンプー、トリートメント、スタイリング剤、ヘアアイロン等は、訪日外国人観光客にとって「お土産以上の価値」を持つ体験済みの商品です。施術後に「あなたの髪質にはこの製品が合います」と推奨をすることで、自国に持ち帰って使い続ける可能性は極めて高いです。

さらに、越境EC・海外発送に対応すれば、自国でも継続購入が可能となり、これは店舗との関係を「物販」を通じて維持し続ける継続収益モデルです。

リクルート調査でも、訪日外国人観光客の美容関連支出には、「コスメ等の物品購入」が含まれており、平均支出総額2万630円の内、物販比率は無視をできない規模を占めています。

訪日外国人観光客のリピートは「来店の回数」だけで測るものではなく、「来店+物販継続購入」の合計で評価をして頂きたいです。


既存日本人リピーター客が離れる懸念への対策

マネーポストWEB記事の店長Aさんが特に懸念していたのが、「店が観光客で溢れかえると既存リピーター顧客が離れる」という点です。店舗の『空気感』を大切にする日本の理美容サロンにとって、非常に重要な論点です。

しかし、これも設計次第で完全に解決できます。

対策①:時間帯による棲み分け
既存日本人顧客の予約が少ない平日昼間(10時〜15時など)にインバウンド枠を集中させる。土日や夜間など既存客の主力時間帯には、インバウンド枠を設けない、または最小限に抑える。

これにより、「いつもの空気」を保ちながら、新規収益源を追加できる設計が可能になります。

対策②:予約プラットフォームの活用
訪日外国人観光客向け予約サイト「WellBe」は、正にこの戦略を体現をしたサービスです。WellBeの基本コンセプトは「平日の空き時間をインバウンドの高単価予約で埋める」ことです。土日祝日メインの既存日本人顧客、平日のインバウンド客を構造的に分離する設計です。

WellBeは2025年6月時点で加盟店約150店舗、初回登録費用5万5,000円。9言語対応、21カ国の通貨換算、AI自動翻訳、三者間通話通訳機能を実装。

対策③:席数の一部をインバウンド専用に
10席ある店舗ならば、2〜3席をインバウンド対応に最適化し、残りは既存顧客向けに維持する。これにより「既存顧客が外国人客で溢れかえるお店」と感じる事態を回避できます。

業界の懸念は正当ですが、「店舗の空気感を守りながら、インバウンド需要を取り込む」設計は、既に先行事業者が確立しておられます


インバウンド客単価アップの3つのレバー

「リピート化」と並んで、もうひとつ重要な論点が「単価アップ」です。

日本人顧客の典型的なカット単価は3,500円前後。
厚生労働省「生活衛生関係営業経営実態調査」によれば、美容室の平均カット単価3,387円。これに対して、訪日外国人観光客の平均支出は2万630円で約6倍の差があります。

この高単価を引き出すには、3つのレバーがあります。

レバー①:外国人観光客向けプレミアムメニューの設計

訪日外国人観光客は、自国では体験できない「日本ならではのメニュー」を求めています。マネーポストWEB記事でも、カナダ出身のDさんが「日本の美容師さんにバズカットをしてもらいに来た」と発言しています。

「ベリーショートよりも短い髪型で、短いからこそ少しでも間違えたら台無しになる。ヘアカットの技術がいるからこそ、SNSで色々調べて、丁寧だと話題の日本で切ってもらうことにしました」

マネーポストWEB

これは、「日本の高度な技術」をブランド化して、価格に転嫁できることを示しています。
外国人観光客向けプレミアムカット
カウンセリングを丁寧に行い、髪質別のアプローチを説明
クリエイティブカラー
ユニコーンカラー、バイカラー等

マレーシア出身のCさんのコメント

「ユニコーンカラーやバイカラーなど単色だけではない、繊細な色合いで綺麗なカラーリングをしてくれる」

マネーポストWEB

このようなクリエイティブカラーは、もちろん海外でも提供をされていますが、「日本の技術」というブランドが付加価値を生みます。

レバー②:トリートメント・ヘッドスパの追加

訪日外国人観光客のヘアサロン利用メニューの内、トリートメント・ヘッドスパは40.6%を占めています。これは既存顧客と比較して、極めて高い選択率です。客単価は大幅に跳ね上がります。
日本式ヘッドスパフルコース 旅の疲れをリセットする90分コース
訪日外国人観光客に対しては、「日本ならではの体験コンテンツ」として、提案をすることが単価アップの鍵となりそうです。

レバー③:物販によるアップセル

施術後の物販は、訪日外国人観光客に対して特に効果的で、日本のヘアケア製品は世界的に高い評価を受けており、お土産以上の価値を見出します。
シャンプー・トリートメント・スタイリング剤に加えて、ヘアアイロン、ヘアブラシ、ヘアパック等、訪日外国人観光客が自国で継続使用できる商品の販売が、収益を大きく押し上げます。


訪日外国人観光客1人@3万円超の収益モデル!

3つのレバーを組み合わせると、訪日外国人観光客1人あたりの客単価は、現実的に成立します。

「リピートしない」という懸念は、「1人あたりX,XXX円×3ヶ月毎」の従来モデルを前提にしています。しかし、「1人あたり3X,XXX円×訪日の都度」のモデルに転換すれば、年に1〜2回のリピートでも、日本人顧客の年間収益以上を生む計算になります。

理美容業界が直面する選択は、「リピートしない訪日外国人観光客を避けるのか?」「単価アップとリピート経路の多様化で、新しい収益モデルを作るのか?」の経営判断に掛かっています。


なぜ訪日欧米豪客の42.6%が、理美容サロンをリピートするのか?

なぜ訪日欧米豪客は、自国にも理美容サロンが無数にあるにもかかわらず、日本の理美容サロンを「旅の目的」として選ぶのか?

日本の美容サロンが、ただのサービスではなく、「コト消費」のコンテンツとして機能しているからです。

リクルートの調査によれば、訪日欧米豪客が日本の理美容サロンを評価する3つの魅力が明確になっています。

評価された魅力評価の中で最大が『清潔感があり、衛生管理がしっかりしている』61.9%、『接客・サービスが丁寧』54.4%、『技術力が高い』52.9%

ここで驚く数字は、「清潔感・衛生管理61.9%」が「技術力52.9%」を9%も上回っているという事実です。

日本の理美容業界の代名詞ともいえる「丁寧な接客」も、「高度な技術力」も、清潔感には敵わない。これは私の常識を覆すデータでした。

理由は極めてシンプル!
美容サービスは利用者の身体・肌・髪に直接触れる「コンタクト・インテンシブ」なサービスだからです。
見知らぬ異国の地で、身体を預けることに対する不安は、本来非常に高い。

その不安を払拭してくれるのが、世界トップレベルの衛生環境、器具の消毒の徹底、空間の清潔さです。これらが「信頼」のアンカーとして機能をし、高単価なサービスを受ける際の決定的な安心感に直結している。

ホットペッパービューティーアカデミーの研究員・田中公子氏も、「他国には容易に模倣できない強力な付加価値」と指摘しています。

日本の理容師・美容師にとって、清潔さは「当たり前」です。タオルを洗濯すること、ハサミを消毒すること、床を掃除する等は、特別なスキルではなく、日々のルーチンワークに過ぎません。

しかし、世界基準で見ると、この「当たり前」が、極めて稀有な競争優位になっている。

これは最新の機器を導入したり、技術研修を受けたりしなくても、今日からでも強化できる差別化要素だということです。


なぜリピーターほど、理美容サロンを利用するのか?

訪日リピート率と理美容サロン利用率には、明確な相関関係が存在します。

初訪日層の31.6%でも十分高い数字ですが、訪日5回以上のヘビーリピーターでは過半数を超える54.5%が利用しています。

このメカニズムは、観光行動の進化として説明できます。

訪日1回目の旅行者は、東京タワー・スカイツリー・浅草・京都の有名社寺といった「定番の観光名所」を巡るのに精一杯です。観光名所を点で回り、写真を撮り、お土産を買う!所謂、「モノ消費」中心の旅となります。

しかし、2回目・3回目と訪日旅行を重ねる毎に、定番の観光名所は一巡してしまう。すると、「日本でしかできない、よりパーソナルで身体的な体験」への欲求が自然と高まります。

その答えのひとつが、理美容サロンの利用です。「日本の高度な技術と接客を自分の身体で直接体験する。」これは、観光名所を眺めるだけでは得られない、深い満足感を生む。

訪日5回以上のリピーターの54.5%が美容サロンを利用するのは、旅行の日程に「理美容サロン体験」を組み込むことがルーティン化をしている証左だと捉えています。

訪日リピーターをターゲットにすれば、理美容サロンは、「特別な体験」として価値が認識されるということです。初回の訪日観光客を大量に呼び込むのではなく、深い体験を求められている訪日リピーター層に応える設計が、高単価ビジネスに繋がります。

2030年に向けて、訪日リピーター中心の観光モデル型への転換が国家方針として明示された中で、理美容サロンは「訪日リピーター体験需要を取り込む牽引役」といえます。


なぜ平均支出は、2万630円なのか?

訪日外国人観光客が、理美容サロンに支払う金額の実態です。

リクルート調査によれば、訪日客が日本滞在中の美容関連に支出した金額(コスメ等の物品購入を含む)は次の通りです。

平均支出総額:2万630円
・1万円以上を支出した層:66.5%
滞在期間中の総支額ですが、それでも訪日外国人観光客客が美容関連に2万円超を投じる準備があるという事実は重要です。

実際に利用されているサロンメニューを見ると、その背景がわかります。
美容サロンのジャンル別利用動向
マッサージ・リラクゼーション施設:26.7%
・エステティックサロン・ホテルスパ:18.7%
・ヘアサロン:17.3%
・理容室・ネイル・アイビューティーサロン等:その他
ヘアサロンの利用メニュー
カット:86.5% ・カラー:23.3%
・トリートメント&ヘッドスパ:40.6%

注目点は、ヘアサロン利用者の40.6%が「トリートメント・ヘッドスパ」を選んでいることです。日本人客にとってヘッドスパは「オプションメニュー」の位置づけですが、訪日外国人観光客にとってはカット86.5%に次ぐ
第2のメインメニュー
として認識をされています。

なぜなのか?長時間のフライト、連日の過密な観光スケジュールによる頭部の筋肉疲労、精神的疲労に対して、頭部を深くほぐすヘッドスパは『旅路の疲れをリセットする特効薬』として機能するからではないでしょうか?

世界的インフレの中で、円安状態の日本での旅行費用が実質的に大幅に安く感じる訪日外国人観光客にとって、ヘッドスパは『破格のラグジュアリーな体験』として映ります。これが平均支出2万630円という高単価を支える構造です。

逆に言えば、ヘッドスパメニューを持つ・あるいは追加できる店舗は、訪日外国人観光客の需要を捉えやすいということです。


2030年までに2.3倍の成長!

市場全体のスケール感を確認します。

リクルート「ホットペッパービューティーアカデミー」の2026年2月発表によれば、訪日外国人観光客の理美容サロン市場規模は次のように予測されています。

2024年市場規模:197億円➡2030年予測:445億円※成長率:約2.3倍

なぜここまで急成長するのか。理由は3つあります。

第一に、訪日外国人観光客の絶対数の増加!
政府目標の2030年訪日6,000万人が達成されれば、母数そのものが現在の約1.4倍になります。

第二に、美容サロン利用率の上昇!
リピーター比率が上がるほど美容サロン利用率は高まる傾向にあり、政府方針の「訪日リピーター4,000万人」達成時には、利用率の構造的な押し上げが起きます。

第三に、インバウンド客単価の上昇!
世界的インフレで、訪日外国人観光客の購買力上昇により、ヘッドスパ・スパ・エステといった高単価メニューへのシフトが進みます。

「6,000万人 × 利用率上昇 × 客単価上昇」は、3つが掛け算で効く為、市場は2.3倍規模へと急拡大を予測されています。

理美容業界が直面する「大きな成長機会」といっても過言ではありません。少子高齢化で国内市場が縮小傾向にある中で、外部需要として年率約15%で成長する市場を取り込めるかどうかは、これからの人口減少時代を生き抜く為の必須条件と言えるのではないでしょうか?


30〜50代女性71.5%:核心ターゲットの輪郭

需要側の最後の論点は、ターゲット顧客のプロファイルです。

リクルート調査によれば、訪日外国人観光客の理美容サロン来店客の特性は次の通りです。

年代別構成:30〜50代女性が、71.5%で突出
出身国別構成:中国:53.6%、米国:41.2%、韓国:36.5%、台湾:24.5%

注目したい点は、30〜50代女性が来店客の7割を超えているという事実。

この層の特性を考えてみて下さい!
経済的に自立し、自分の為に投資する余裕があり、品質に対する目利きが鋭く、SNSでの情報発信力も持つ!
これは、観光業界全体で「最も価値の高い顧客層」のひとつです。

しかも、彼女たちは「日本のオシャレ」「日本らしい美しさ」に強い憧れを持っています。日本人女性の整えられた髪、上品なメイク、上質な肌、街を歩いているだけで、その魅力を視覚的に体感。「自分も体験したい」という衝動が来店動機になっています。

理美容サロン事業者にとっての示唆は明確です。
30代〜50代の海外女性に「響く」サービス・空間・情報発信を整えれば、訪日外国人観光客需要を取り込めます。


都市部に集中する課題と地方の機会

見落としてはいけないデータがあります。都市部と地方の集客格差です。
リクルート調査の中で示されたデータです。
・都市圏中心地のサロン年間平均来店客数:3.97人
地方サロンの年間平均来店客数:0.56人
その差は、約7倍です。

この格差は何を意味するのか?訪日外国人観光客の理美容サロンの利用は、東京・大阪・京都・福岡・札幌などの主要都市に集中しています。
地方の理美容サロンは、例えインバウンド需要が拡大していても、その恩恵を受け難い構造にあります。

「地方の理美容サロンは取り残される」という単純な話しではありません。
地方には、都市部にはない独自の機会があります。

地方の理美容サロンにとっては、「東京と同じことをやる」のではなく、「東京にできない、地方独自の体験を組み立てる」発想が必要となります。


街の理美容サロンにも開かれている『接点を作る道!』

ここまで、訪日外国人観光客の理美容サロン利用に関するデータを積み上げてきました。ここで改めて整理します。

訪日外国人観光客による美容市場の主戦場は、宿泊施設併設のスパや一部の都市型専門店です。街の理美容サロンが「店の前を訪日外国人観光客に素通りされている」わけではなく、そもそも訪日外国人観光客との接点が構造的に少ないが、現状の正確な姿です。

街の理美容サロンの経営者の方が「うちには関係ない」と感じるのは、ごく自然な感覚です。これまでの構造を考えれば、その認識は正当です。

しかし、最近になって、その構造を超えて訪日外国人観光客との接点を作りに行った街の理美容店が、新しい収益源を獲得し始めています。

東京・新宿の理容室「ZANGIRI(ザンギリ)」は、創業48年、延べ70万人が利用してきた典型的な街の床屋です。メンズレギュラーカットのフルコース料金は6,490円——街の理容室として標準的な価格帯です。

2026年3月に特集された記事によれば、ドイツからの訪日外国人観光客がSNSで知り、来日2日目に直行して指名予約。フルコースを利用。「こんな体験、したことがない」と高評価のクチコミが拡散している。

ZANGIRIが興味深いのは、「街の床屋」というアイデンティティを保ったまま、訪日外国人観光客に「日本独自の体験」を提供している点です。
高級設備や英語ペラペラのスタッフはありません。あるのは創業48年の地域密着サロンと、日本の理容師資格でしか提供できないシェービング・耳掃除という独自技術、そして清潔感と丁寧な接客、これだけです。

宿泊施設併設の高級スパとも、表参道のラグジュアリー店とも違う、「街の床屋ならではの体験」を訪日外国人観光客に提供できる店舗として、新しい接点を作りに行った結果が、ZANGIRIの現在です。

これは、街の理美容サロンの皆様にとってひとつの選択肢を示すものです。「訪日外国人観光客との接点を作りに行きたい」と考える事業者にとっては、ZANGIRIの設計は重要な参考事例になります。一方、「既存の顧客との関係を大切にしたい」と考える理美容サロン事業者にとっては、無理に取り組む必要はありません。どちらも、経営判断として完全に正当です。

シリーズ第3回(有料)では、インバウンドビジネスで稼いでいる事例を、各3,000文字程度で徹底分析します。庶民向け価格帯から高級店まで、業態も価格も異なる事例から「もし接点を作りに行くならば、こんな道がある」という具体的な再現可能なポイントを引き出していきます。


理美容サロン事業者の3つの選択肢!

ここまでの分析を踏まえて、理美容サロン事業者が経営判断を考える上での視点を3つに整理します。これは「やるべき行動」ではなく、選択肢として情報を知っておく視点」です。

①「インバウンドビジネスに取り組むかどうか」は、経営判断として完全に自由!

宿泊施設併設サロンや都市型専門店への集中という現在の構造を考えれば、街の理美容サロンがインバウンドに取り組まない経営判断も、極めて正当な選択です。既存顧客を大切にし、地域の信頼を積み重ねる経営は、それ自体が立派なビジネスモデルです。

本シリーズは、インバウンドビジネスをやるべきと説得するものではなく、「もし、興味・関心があるならば、こんな構造になっている」という情報を共有する為です。やらない選択も、やる選択も、原則どちらも尊重をされる判断です。

②「清潔感・衛生管理」は、既にある強みとして発信できる

「インバウンドを取りに行く」と決めた場合、最も再現性が高いのが清潔感・衛生管理の発信です。

訪日外国人観光客が日本の理美容サロンを選ぶ最大の理由は、清潔感・衛生管理61.9%であり、技術力52.9%を9%上回っています。日本の理美容サロンが日々当たり前に行っているタオルの洗浄、ハサミ・ブラシの消毒、床と空間の清掃、スタッフの身だしなみ等は、世界基準で見れば極めて稀有な競争優位です。

機器の更新や技術研修は不要です。既に行っている衛生管理を、訪日外国人観光客向けに可視化・発信するだけで、経路が開きます。

③「リピーターの定義」を、訪日外国人観光客向けに拡張する

前半で示した通り、訪日外国人観光客のリピートは「3ヶ月毎の再来店」ではなく、「訪日の度の再来店+訪日観光中の複数回利用+越境ECでの物販継続」という3つの経路で成立します。

「観光客はリピートしない」という業界の懸念は、既存顧客のリピート定義を当てはめた場合の感覚です。訪日外国人観光客向けには、新しいリピート構造として再定義することが、新しい収益モデルの鍵になります。


結論、選択肢として、お伝えしたいこと

冒頭の結論を、最後にもう一度お伝えします。

日本の理美容業界には、2030年までに市場規模445億円に拡大をする巨大なインバウンド需要が存在している。現在、この需要の多くは宿泊施設併設の美容サロンに集中をしているが、街の理美容サロンにも、積極的に接点を作りに行けば、新しい収益モデルが成立する余地がある。

訪日外国人観光客の42.6%が理美容サロンを利用し、潜在関心層は72.8%!訪日リピーター層では54.5%が利用。理美容市場は2030年迄に2.3倍の445億円規模に拡大!30〜50代女性が来店客の71.5%を占め、平均支出2万630円。データが示すのは、理美容業界に成長機会が訪れているという事実です。

但し、訪日外国人観光客美容市場の主戦場は、宿泊施設併設型美容サロンや一部の都市型専門店であり、街の理美容店との接点は構造的に限定されています。「インバウンドに取り組まない」経営判断は、それ自体が完全に正当な選択肢です。

一方で、「接点を作りに行った街の理美容店」は、新しい訪日リピーター層と単価10倍規模の収益機会を獲得しています。重要なのは、これは「やるべき行動」ではなく、「やりたいと考える事業者にとっての選択肢」です。

民間事業者には営業の自由があります。インバウンド需要を取りに行くか?どうかは、各事業者の経営判断です。やる選択も、やらない選択も、どちらも正当です。

本シリーズが提示したいのは、「もしインバウンドビジネスに興味・関心があるならば、訪日理美容市場とビジネス機会はこういう構造になっている」という情報提供です。判断材料としてご活用いただければ嬉しく思います。


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参考資料

【公的統計・調査レポート】

【メディア報道・分析記事】

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