【第137話】S企画|至高の法塔 ― 繰上げの代償、到達の虚無
⦅同期の懇願、代償の砂⦆
「なぁ、サトシ。
……いや、采善本部長。
なんとか特例で通せないか!」
S企画本社、技術統括本部長室。
品質管理部長の佐藤謙一が、
一枚の障害年金の請求書類を手に、
サトシに食い下がっている。
対象は、かつて二人の同期であり、
体を壊して数年前にS企画を去った男だ。
👓佐藤
彼は退職後、生活が苦しくて
『老齢基礎年金』を60歳から繰り上げて
受給していたんだ。
だが最近、
昔の病気が急に悪化して、
ほとんど寝たきりになってしまった。
「障害基礎年金」の方が額が高い。
今からでも障害の請求に
切り替えられないか。
同期のよしみだ、
お前のその法律の知識で、
抜け道を探してやってくれ!
サトシはデスク上の砂時計を
無言で見つめている。
落ちていく砂。
それは、
取り戻せない時間と、
一度手放した権利の象徴のようだ。
👔サトシ
……佐藤。
君は「法」を、
情で曲がるゴムか何かと
勘違いしている。
「繰り上げる」という行為が、
どれほどの代償(ペナルティ)を伴う契約か、
彼も君も理解していない。
👓佐藤
代償だと?
早くもらった分、
年金が減らされるだけだろう!
👔サトシ
……場所を変えるぞ。
君のその「安易な同情」を、
法の冷徹な断頭台で処刑(オペ)してやる。
***
会員制バー「桃源郷」。
ルミが差し出した冷たいおしぼりで、
佐藤は苛立たしげに額を拭った。
モニターには、
国民年金法の「繰上げ受給」と「事後重症」に関する
絶望的な条文が
表示されている。
👠ルミ
あら、佐藤さん。
「早く欲しいから前借りする」。
借金と同じで、
手を出した時は楽になるけど、
その分、
何か大事なものを質草に入れているのよ。
👓佐藤
質草だと……?
なぁ、サトシ。
このカルテの「ウ」を見てくれ。
「20歳以降の病気が悪化した場合……
障害基礎年金を請求することができる」
とある!
これなら彼も救われるはずだ!
⦅カルテNo.137:社会保険一般・国民年金法(繰上げと事後重症)⦆
〔問 7〕 国民年金法に関する次のアからオの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記AからEまでのうちどれか。
ア 65歳に達するまでの間は、遺族厚生年金を受給している者が老齢基礎年金を繰り上げて受給することを選択した場合、遺族厚生年金の支給は停止される。
イ 繰り上げた老齢基礎年金を受給している者が、20歳に達する日より前に初診日がある傷病(障害認定日に政令で定める障害の状態に該当しないものとする。)が悪化したことにより、繰り上げた老齢基礎年金の受給開始後、65歳に達する日より前に障害等級に該当する程度の障害の状態になった場合であっても、障害基礎年金を請求することはできない。
ウ 繰り上げた老齢基礎年金を受給している者が、20歳に達した日より後に初診日がある傷病(障害認定日に政令で定める障害の状態に該当しないものとする。)が悪化したことにより、繰り上げた老齢基礎年金の受給開始後、65歳に達する日より前に障害等級に該当する程度の障害の状態になった場合には、障害基礎年金を請求することができる。
エ 昭和27年4月2日以後生まれの者が、70歳に達した日より後に老齢基礎年金を請求し、かつ請求時点における繰下げ受給を選択しない時は、請求の5年前に繰下げの申出があったものとみなして算定された老齢基礎年金を支給する。
オ 老齢基礎年金の受給権を有する者が65歳以後の繰下げ待機期間中に死亡した時に支給される未支給年金は、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹以外は請求できない。
A (アとイ) B (アとウ) C (イとエ)
D (ウとオ) E (エとオ)
👔サトシ
佐藤。
君が縋(すが)りついたその「ウ」。
それが、
この問題における「誤り(本問の正解)」だ。
👓佐藤
な、何!?
請求できないのか!?
👔サトシ
そうだ。
後から病気が悪化した時の請求(事後重症)は、
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S企画:至高の法塔 ― 頂点への執刀記録
📅R8.4.10時点 最新法令準拠 👔技術士(総監)の称号を背負い、頂点を目指す孤高の男・サトシ。 👠その野望を影で支え、怜悧な才気で夜…
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