【夜の静寂🌙、昼の気配】(1)隣席のひそやかな響き。
二年ぶりに訪れた事務所に、
見たことのない女性がいた。
彼女は派遣の事務員らしいが、
その立ち姿には
どこか夜職の気配が漂っていた。
落ち着いた所作、
目線の運び、
そして妙に場慣れした空気。
昼の光の下にいるはずなのに、
どこか夜の香りがする──
そんな印象だった。
私はあいさつをやめておいた。
無闇に距離を縮めてはいけない。
しばらくこの事務所に通うことになるのだから、
余計な関係はつくらない方がいい。
自分の本分は、
ここから委託された仕事を淡々とこなすこと。
ただ、それだけだ。
そう決めていたはずだったのに、
ある日予約していた座席の隣に、
彼女が静かに腰を下ろした。
彼女は外線電話の対応を担当している。
呼び出し音が鳴ると反応が速く、
取次も無駄がなく的確だ。
だが──
声が耳に残る。
囁くように落ち着いたトーンで、
相手の名前を確認し、
内線へつなぐ。
その声の余韻が、
ほんのわずかに私の耳の奥に触れてくる。
昼間の事務所には似つかわしくない、
かすかな温度を帯びた響きだった。
職場の喧騒の中で、
なぜか彼女の声だけが静かにまとわりつく。
気にしないようにしているのに、
気づけば意識がそちらへ向かってしまう。
──距離は、縮めないほうがいい。
そう思うたびに、
彼女の声はさらにひそやかに、
近く聞こえるのだった。
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