銭ゲバ御曹司は今日も正午にランチを食す
こんにちは。蒼星 そらねです。34歳無職独身。
マッチングアプリで出会った男性が、まさかの某有名財閥御曹司。婚約、寿退社するも、彼の異常とも言える狂気的な人格に恐怖を覚え、婚約破棄を決意。
見事、国立大卒34歳無職独身女が出来上がった、嘘のような、本当の話。
事実は小説よりも奇なり、なんて言う人もあるようですが、誰も知らない事実だって、この世の中にあるのです。
太宰治「惜別」の一節である。
某有名財閥御曹司の、この世の中にあった誰も知らない事実を目の当たりにしてしまった、この私。俄には信じ難いかもしれないが、このnoteを通じて、この世の中に発表していく。
今回は、少し早いがブレイクを挟み、御曹司の懐事情を、お届けする。衝撃的な告白シーンからの彼の豹変ぶりに、貴方は混乱せずにいられるだろうか。貴方の良心が正常なら、きっと腑に落ちない結果に終わるであろう…。では、本編をどうぞ。
ひょんなことから某有名財閥御曹司と交際を始めた私。御曹司と付き合えたのだから、嘸かし豪華で優雅な生活を送っているのだろう、と貴方は羨むかも知れない。
だが、そんな貴方を裏切る驚きのエピソードを幾つかご紹介しよう。普段はミシュランの星付きレストランを渡り歩き、豪勢なパーティを派手に施す羽振の良い富豪である。
だが、そのプライベートにおけるお財布事情は余りにもお粗末なものである。

彼から告白を受けた時、私は衝撃を受けたのを憶えている。それは幸せな衝撃である。
「此れから先、そらねさんがお財布を出すことはないよ。僕に任せてください。此れが、僕に出来る唯一無二の愛情表現ですから。」
私は、最初、戸惑った。御曹司の懐事情を理解していないのである。
「でも、ずっと出していただくのは申し訳ないですから、私も幾らかお出ししますよ。」
彼は静かに目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る。
「いいや、いいんだ。そらねさんは一銭も出さなくていい。寧ろ、君がお金を出すのは、僕に対する”冒涜”だよ。」
彼の眼は、澱みなく真っ直ぐに私の瞳を捉えていた。年老いた優しい象のような包容力のある静かな眼差しに、私は偏に安心感を憶え、次第に目頭が熱くなった。そして次の刹那、私は脳がフワフワとした感覚に陥るや否や、惹き込まれるように首を縦に振っていた。
「其れで、いいんだ。お金の心配は、何も要らないよ。此れからは、僕に身を委ねておくれ。」
私は、天にも昇った心持で、火照った顔を両手で覆った。彼がゆっくり柔らかく抱き締めてくれるのを身体で感じながら、私の意識は、快いショックを受け、ぼんやりと遠のいていくのであった…。

そんな脳裏に刻み込まれる出来事から2週間経った頃である。彼が本性を垣間見せたのは。
通常、この手の物語では、悪役が本性を見せるのは数ヶ月後が相場であろう。
だが彼は、2週間という驚異的な記録を叩き出し、世に醜態を晒す事となる。
その醜態とは、みみっちい程の計算高さと、強欲な散財癖である。
まず、彼は週3でミシュランの星付きレストランへ通う。1回の会計は10万を優に超える。1ヶ月の食事代は、300万程であると、嬉々として私に告げてきた。
そして、週に2回程は絢爛豪華なパーティーを催す。或る時は一流ホテルの大宴会場で、或る時は高層タワマンのワンフロアを貸切り、友人知人美人麗人集め、湯水の如く贅沢の極みを尽くす。
これらの資金の出所は、財閥が牛耳る会社の経費である。
ということは、彼は一銭も自腹を切っていないことを、今此処に確認したい。
彼はビジネスに関係無く、プライベートや私利私欲に任せ、経費を使い倒すのである。
財閥御曹司故の特権であるが、身の程を弁えない人間に与えるのは愚の骨頂であろう。
身の程を弁えない、と申し上げたのは、彼が籍だけ役員として会社に身を置いている幽霊社員だからである。
俗に云う、プー太郎である。
「今日は幾ら使っても良いよ!全部、僕の奢りだから!」
これは、彼の口癖だと、或るパーティーの参加者から聞いたことがある。
彼は、申し訳無いが全てに於いて何事も劣っている。容姿も、才能も、地頭の良さも、全てである。
そんなコンプレックスを払拭するかの様に、金と権力を誇示することで自我を取り繕ってきたのであろう。其の容姿からは想像も出来ない程の麗人達が彼に媚び諂い、其の才能からは予想だにしない程の文化人達も彼に迎合していた。
彼は其れで、とても満悦していた。彼は、そんな自分自身に酔い痴れているかの様であった。
だが、其れは本質的にはとても愚かなことだと、其の場に居た誰もが感じていたであろう。
滑稽なことに、彼だけが、其の紛れもない事実に気付いていない様であった。

そんな強欲の限りを尽くす彼だが、他方として、みみっちくも計算高いお財布事情がある。
まず、彼は”経費で落ちるなら幾らでも使う”一方で、自腹を切ることを極端に嫌う。
領収書の出ない出費の時は、絶対に、財布を出さない。そう、ご自分の分まで、私に払わせるのである。
800円の親子丼、600円の電車代、200円のバス代・・・。そんな少額ですら、ケチるのである。
別に、良い。そんな少額、私が払っても、別に、良い。払いたくない、と言っているのではない。
ただ、領収書の出るものについては贅の限りを尽くし、
「ここは、”僕が”払いますからね。」
と、恰も身銭を切っているかの如く、恩着せがましく言ってくる人間が、将又、領収書の出ない費用と見るや否や、頑として財布を出さない。ご自分の分まで人に払わせる。少額ですら。
其の徹底ぶりに異様な悍ましさを感じてならない。
普段、確かに(会社の経費で)奢って貰っているので、代わりに出すのは、構わない。
だが、異様な悍ましさと称した、彼の其の骨の髄まで染み入る妖しくも陰惨な計算高さが、私の脳裏にチラつくのである。
そして、私が彼の分まで出した時の彼の態度。
「普段、”僕が”出していますからね。」
ミシュランのフルコースが詰まった立派な腹を突き出しつつ、踏ん反り返る。
恰も身銭を切っているかの如く言い、然も当然の様に人に払わせるのである。感謝の意も無い。太々しいの極みである。
当然、良い気はしない。
ただ、其れだけなら、まだ、良い。ギリギリ、良い。
だが、私が彼に傷付けられ、泣いていた、或る日のこと。

別荘の応接室で、1人、泣いていた。
朝から、彼に罵倒され、傷付けられたのだ。私は1人、何時間も冷えた応接室に放って置かれた。
冬凪に渡り鳥が鳴いている、或る霜月の頃である。
正午を廻った。私が滴り落ちる涙を拭った時、突然、応接室のドアが開いた。彼が、ニコニコと、立っていた。
漸と謝りに来てくれた…。私は、そう思った。
だが、違った。
「そらねさん、お昼ご飯を食べに行こう。」
泣いている私を余所に、いそいそと玄関の外に出て行って了った。私は止まらない涙をもう一度拭い、急いで上着を着て、外に出る。
彼は、もう背中も見えない程、米粒の様に小さくなっていた。寒風が吹き付ける中、ボタンも閉まり切っていない上着をはためかせながら、私は、走った。
着いたのは、領収書の出ない、古びた定食屋であった。
彼は、朝、私を罵倒したことを忘れて了っているのだろうか、ニコニコと注文をする。私は、黙っていた。
暫くして、漸と私の様子に気が付いた。
「そらねさん、何処か調子悪いの?ずっと黙ってて。」
やっぱり忘れている様だ。私は俯いて、首を横に振る。
「良かった。調子悪くないなら、普通にしてね。お昼の時間だし、いっぱい食べよう。」
彼は、ニコニコと何時ものオムライスを食べ始めた。
流石ミシュランに通い詰めるほど食に煩い美食家、時間にも拘りがあるのであろう、正午になったら食を嗜むのである。
私は、涙と嗚咽で、味なんかよく分からなかった。
当然、食欲も無く、親子丼を残して了った。
「君は、ミシュランだけが料理だと思っているのかな?もういいよ、お化粧室に、行ってきなさい。」
朝の罵倒に始まり、今度は嫌味ときた。彼の人間性に嫌気が差し、私はお化粧室へ逃げ込む。
個室に座って止め処なく溢れる涙を拭い、鼻を噛む。一息吐いて呼吸を整え、真っ赤になった鼻を押さえながら、外へ出た。
彼はもう、店の外に居た。店員さんに軽く会釈し、私も急いで店の外へ出る。腰を屈め、遠慮がちに彼に尋ねた。
「お会計は…?」
彼は、不敵なまでにニコニコと私へ返す。
「ああ、君が遅いから、払っておいたよ。」
此処は、領収書の出ない店である。
私は、彼が朝の罵倒を憶えていて、ほんの謝罪の気持ちで、親子丼代800円を、”身銭を切って”奢ってくれたのだ、と思った。
"君が遅いから"というのは、彼なりの照れ隠しだろう、と軽く捉えたのである。
感極まり、身震いがした。
「ありがとうございます…。ご馳走様でした…!」
私は精一杯の謝礼の気持ちで、深々と頭を下げた。彼は満悦した様子で、ニコニコと歩き出した。
あの、死ぬほど自腹を切ることを嫌う彼が、私への罵倒に対する謝罪の意を表し、私の分の親子丼代800円を”身銭を切って”払ってくれたのである。
彼にも、人間の血が通っているのを感じ、私は別の意味で込み上げてくる熱いものを感じた。
帰り道、私は告白の場面の、脳裏に刻み込まれた彼の言葉を思い出していた。
やっぱりあれは嘘じゃなかったんだ…。
高高800円だが、私には800万円でも奢って頂いたかの様な心持で、2週間程前の彼の澱みない眼を思い出していた。
行きは果てしなく遠く感じた別荘と定食屋迄の途を、今は羽でも生えたかの様な軽やかな足取りで、歩幅の広い彼の横に並んで歩く。
そして、別荘に着いた。私は未だ、フワフワとした脳の感覚を愉しみつつ、応接室に荷物を置いて、リビングへ向かおうとした。
それを見た彼は、私を制し、こう言ったのである。
それは衝撃の言葉であった。
「いや、荷物持ってきて。てか、財布。さっきの会計貰ってないから。君の親子丼と僕のオムライスで1870円ね。」
一瞬、訳が分からなかった。混乱した頭で、彼に尋ねる。
「領収書は…?」
彼はまた不敵な笑みを浮かべ、平然と言う。
「出ないから、君に請求してるんじゃん。ああ、金額は、合ってるよ。僕は記憶力が抜群に良いんだ。」
フワフワとした脳がサーッと明瞭になり、現実をまざまざと見せ付けられ、私は顔面蒼白となった。やはり、彼に人間の血は通ってはいなかったのだ。
私は財布から持ち合わせの一万円札を取り出し、彼に怖ず怖ずと差し出す。
「利子までくれるなんて、君はまるで人間の血が通った聖人のようだね。」
差し出し切っていない私の手から一万円札をふんだくり、さっさとポケットに仕舞う。
「いやあ、今日のオムライス、何時にも増して最高に美味しかったな!」
彼はニコニコと、私を置いてリビングへ行って了った。
私は此の時、又、脳裏に刻み込まれた告白の場面を走馬灯の如く想起したのである。
私は彼を”冒涜”したのではなかろうか…?此の期に及んでそんな心配をしつつも、800万円は綺麗に雲散霧消した。
私は滴り落ちる涙を拭うこともせず、まるで私の心が空っぽになって了ったかの様に、空っぽになった財布を握り締め、その場に崩れ落ちたのである…。

彼の、金への執着は、此れに留まらない。
得をする為なら手段を厭わず、不正をも嬉々として犯すのである。
其の一つに、彼は他人の支払った領収書を集める。
私の払ったタクシー代、友人が払った旅館代、その場に居た誰彼構わず、他人の支払った領収書を回収する。
「此れは、経費として計上させていただきますからね。」
歴とした脱税である。
回収された人は皆、勿論彼には何も言わない。だが、確実に何とも言い難い微妙な空気は流れる。
だが其れは、残念ながら彼には伝わらず、彼は満足気に領収書を眺め、金の卵を産む鵞鳥でも仕留めたかの様に、其れを大事そうに財布に仕舞い、惝して撫でるのである。
そして更に、驚嘆して了った事実がある。
なんと、彼は精神で障害年金を受給していたのだ。
それも、2級である。
其の話を彼から聞いた時、私は少し違和感を憶えながらも、彼を心配して、尋ねた。
「何処か、お加減悪いのですか?」
すると、彼は飄々として、こう答えた。
「ああ、僕が障害者な訳ないよ。気持ち悪い。ただ、そんな国の制度があるって小耳に挟んだものだからね、此れは使う手はないと思って。使用人の医者に指示して、適当に書かせたよ。何なら、2級が欲しいと思って、其れも酷くね。」
私は愕然として、耳を疑った。
そんなことを悪怯れも無く言う人間が、この世に居るのか。
精神の不支給増加が紛糾されている最中、本当に苦しんでいる人たちを”冒涜”している。
抑、彼はそんなにも不正を犯してまで金が欲しいのだろうか。理解に苦しむ。過去、金に困った経験でもあるのか、否、彼は生まれながらにして財閥御曹司である。何が彼を此処まで銭ゲバにさせるのか。
否、そんなことはどうでも良いことである。問題は、やはり彼の人間性にある。
為す行動、発する言葉、全てに狂気的で歪な悍ましさを感じる。底知れぬ邪悪さを彷彿とさせる、凶悪且つ魔性の極致とでも謂おうか。
人間の血が通っていないだけではない、血も涙も無いとは、正に彼のことを云うのであろう。
言わずもがな、月の食費が300万のプー太郎が障害年金2級とは、国民を愚弄しておろう。
結局、会社の経費にしても、国の財源にしても、人の金を使うのが好きなのである。
彼の中では、”他人の金で贅沢すること”が、自身の承認欲求を満たす手段なのかもしれない。
貴方が今、一生懸命働いて納めた税金で、将又、某有名財閥に落とした貴方のお給料で、彼は今日も、ニコニコと欲に塗れた笑顔を浮かべ、正午になると共に、ミシュランのフルコースに舌鼓を打っていることであろう・・・。

このnoteでは、某有名財閥御曹司である彼との、私の未熟さ故に幕を切ってしまった、通常では経験することの出来ない異常で狂気的な非日常体験を、順を追って暴露していく。
此処にて御曹司の衝撃の実態を明るみに出し、私の中で消化しきれない現実を、供養していくつもりである。
みなさま、合掌願います。
続
※ここまで御一読頂き、有難う御座いました。感謝の意を表して、貴方を応援する、そらね図書室へと誘います。名作の世界へのタイムトリップをお愉しみください。それでは、次回作でまたお会いしましょう!

貴方を応援する
― そらね図書室 ―
重要なのは、どんな才能を持っているかではなく、どんな選択をするかだ
―J.K.ローリング 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
どんな状況にあっても、自分の選択が未来を切り拓く力になる。才能が無いなんて、諦めるな。選択次第でいくらでも輝かしい未来は待っている。さあ、自分を信じて前へ突き進もう!
