移ろいゆく星に
星のような人だった。
控えめだけど存在感があって、目が離せない。
学校のマドンナってほど高嶺の花でもないし、派手な容姿をしていたわけでもない。
どこが好きなのかと聞かれると一言では答えられなくて、だから、本人にその想いを伝える時にもかなり苦労した記憶がある。
「拓海のこと、一番仲の良い男友達だと思ってるよ」
当時の言葉の限りを尽くして気持ちを伝えたが、彼女からの答えはあっけなく俺の恋心を砕いた。
いや正確に言うならば、砕いてもおかしくないほどの破壊力だっただろうか。
男友達、と言う本当にそう思っているのか、はたまた断るための言い訳なのか分からない言葉で括られてしまった俺の気持ちは、なかなか鎮まってはくれなかった。
諦めが悪い、と友達にも笑われた。
自分でもそんなことは分かっている。彼女に特定の相手がいたならば、諦めきれていたのかもしれない。
星のような彼女はその存在感とは反対に、男性関係の噂を全く聞かなかった。
恋愛よりも学業に励んでいる印象で、もちろん大学生としてはそれが望ましい姿だろうが、俺からするとそれがもどかしかった。
告白をした後も彼女は変わらず、友達として接してくれている。
もともと、俺を含め何人かで遊ぶことが多かったから、別に気まずくはない。
好きだ、と言われた相手を意識するなんて言うが、彼女はそれに当てはまらないようで、あの告白をしたことが夢だったのではないかと疑うくらい、自然に過ごしていた。
持て余した気持ちはどこへも逃がせず、恋なのか憧れなのか分からないほどに燻りはじめた頃、彼女が結婚すると聞いた。
彼女の一目惚れというやつらしく、別の大学の大学院生だと言う。
寝耳に水とはまさにこのことだ。
悲しい、悔しい、苦しいという気持ちとともに、どこかで安心している自分もいた。
やっとこの気持ちを手放せる、そんな風に思っていた。
大学卒業後の初夏。
梅雨になる前に開かれた結婚式は、真っ青な晴天で風も心地よく吹いている。
卒業してそこまで時間が経っていないため、懐かしい面々という感じはしない。
着慣れないスーツに体を固められているせいか、いつも以上に力が入っているのが分かる。
もちろん、スーツだけが理由ではない。
今日は自分の気持ちに区切りをつける日でもあった。
厳かな音楽の後、教会の後ろの扉が開く音がする。
みんなの視線につられるようにそちらを見て、思わず息を呑んだ。
真っ白なドレスは、この会場の中で光を放っているかのように輝いている。
きれいにセットされた髪と、ドレスに見劣りしない品と美しさをたたえたその顔は、俺の知っている彼女ではないようにすら思えた。
星などではなかった。
ゆったりとドレスを引きずりながら一つ足を踏み出すたびに、空気が変わっていく。
あれだけ力が入っていた体はいつの間にかゆるんでいて、夢でも見ているかのような心地でその歩みを見ていた。
彼女が彼の元に辿り着いた時、そして、初めて見た照れたような表情が目に入った時、心の熱がスウっと落ち着いていくのを感じた。
終わりは思っていたよりも穏やかで、痛みはあまりなかった。
強豪校と戦って完敗した時のような清々しささえあって、彼女の幸せを心から願えたことにひどく安心した。
フラワーシャワーなるものをするらしく、ぞろぞろと移動する。
渡されたカゴの中には色とりどりの花びらが詰まっていて、これが舞うのはさぞかし綺麗なんだろうなと思った。
人より背が高いこともあり、あまり前の方に行くと邪魔になってしまうだろうと端へとよけた。
階段から降りてくる新郎新婦に、鮮やかな花びらが祝福とともに降り注いでくる。
階段下の広間で二人が降りてくるのを待っていると、背背中にドンと何かがぶつかった。
「し、失礼しました!」
振り返れば、スーツ姿の女性が焦ったようにこちらを見ていた。
会場のスタッフさんと思わしき彼女は、首からカメラを下げており、こちらを見ているように見えて、奥の新郎新婦にチラチラと目線をやっている。
ぺこりと頭を下げた彼女は、束ねた長い茶髪を揺らして足早にその場を離れた。
年齢的にも、場に慣れていない感じからしてもメインのカメラマンではなく、アシスタントさんなのかもしれない。
邪魔にならないように移動したつもりだったが、もしかしたら人の通路になっているのだろうか。
もう少し広い場所に移ったほうがいいかと考えて、足を動かすと何かに当たる。
ホテルのスタッフなどが胸につけているような名札が、一つ落ちていた。
拾い上げると、シルバー色のそれには黒色で名前が書かれている。
"星野 流夏"
直感で、さっきぶつかった人だと思った。
名札を手に、彼女を探す。
いつの間にかかなり離れたところに移動していたようで、すぐには行けそうにない。
名札のせいで忘れていたが、フラワーシャワーの最中だった。
気づけば、二人はもうすぐ階段を降りきるところで、慌ててカゴの中の花を掴む。
数十センチ先を歩く彼女はやっぱり美しい。けれど、そこにそれ以上の感情はなかった。
それよりも、数メートル先のカメラの彼女が気になって仕方がない。
彼女の隣で優しく微笑みながら手を引く彼とともに、どうか末長く幸せであることを祈って花びらを降らせた。
フラワーシャワー後の写真撮影が終わり、披露宴会場へと移動になる。
スタッフさんの案内に従って動く波に逆らって、名札の落とし主であろう人の元へと向かう。
もう一度名札を見ては、なんだか流れ星みたいな名前の人だな、なんて思って目を細めた。
片想い文芸部第五回に参加させていただきました。
結婚式の雰囲気が好きです。
衣装も会場も非日常感に包まれているのに、そこにあるのは幸せと穏やかさとで。
その夫婦それぞれの色が出るので、それを見ることができるというのも結婚式が好きな理由の一つかもしれません。
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