ボリウッドダンスが教えてくれたことーーー照れと筋肉痛と、少しの成長。
0.プロローグ|「それ絶対いじってますよね!?」から始まった
会社の同僚が、社内SNSの短い動画の中で、別人のように踊っていた。
普段オフィスで見る真面目な顔とはまるで違う、解放されたような、生き生きとした表情でリズムに身を委ねている。ボリウッドダンスを踊っていたのだ。
その笑顔が非常に印象的で、なんとなく心に残ったままだった。
定期的にこの感想を本人に伝えていたのだが、その都度「それ絶対いじってますよね!?」と言われ……。本当にそうじゃなくって!と伝えるのだが、中々信じてもらえずにいた。それを証明するため、7月に体験レッスンの扉を叩いてみた。
1. 最初の一歩|足がつった日からのスタート
ダンスにはずっと興味があったが、全くの未経験だった。
そもそもどんな服装で行けばいいのかさえわからない。
家にあった適当なTシャツとパンツ、屋内で履けそうなバッシュを鞄に詰め込み、その日は同僚と一緒に恵比寿のダンススタジオに向かった。
緊張していたせいか、どんな流れで始まったのか記憶は曖昧だ。
ただひとつ覚えているのは、最初のストレッチで足をつったこと。
——やばい。このあと55分どうすればいいんだ。
でもそこは気合いで立ち上がった。
その月の曲はヒップホップ。映画で観たことのあったボリウッドのイメージとはまるで違って、めちゃくちゃクールでかっこいい。
先生の振り付けも印象的だった。
まずはリズムを取る「ダウン」という動きから始まる。
音に合わせて膝を曲げ、体を下げる。簡単そうに見えるのに、自分でやると全くできない。次の「アップ」も同様で、動きがぎこちない。
でも先生のフォローもあり、「できないけど、頑張ればいけそうかも」と思えた。
できたら嬉しい。——つまり楽しかったのだ。

ノリでその月、毎週火曜日のレッスンに通ってみることにした。
ありがたいことに、毎週のようにレッスン前には同僚がオフィス近くのスタジオで自主練に付き合ってくれた。
5年ほど同じ職場にいたけれど、正直それほど親しくはなかった。
でも、一緒に何かに取り組むと、相手の人間性も自分の人間性も見えてくる。
今思えば、その時間が最初は一番ありがたかったのかもしれない。
そんなある日、「イベントに出てみない?」と誘われた。つまり——人前で踊らないか、ということだ。
正直、最初は迷った。参加費は23,000円。
高いのか安いのかも判断がつかないし、踊れる保証もない。初めてのスタジオで足をつった自分が、ステージに立てるのか?
でも少し考えた。「悩みと迷いは違う」と。
悩みは、答えのない堂々巡り。
迷いは、選択肢の間で立ち止まっているだけ。だから、決めてしまえば一歩が始まる。
「迷ったら決断する。しかも、Go!」
以前、西村琢さん(弊社会長)に言われた言葉を思い出した。
その言葉を信じて、締切ギリギリに申し込みボタンを押した。
2. プロセス|照れとリズムと仲間たち
8月も引き続き、毎週のレッスンには通っていた。
今度の曲は、ヒップホップとは少し違う「ガールズヒップホップ」。
いわゆる“お尻フリフリ”的な動きもあって、最初はかなり照れくさかった。
相当ぎこちなかったのだろう。
「踊り、楽しいですか?」と他の参加者から言われたり、同僚が他の人に「なぜ来ているのかわからない」と話していたりもした。
それでも、身体を通じてリズムを表現する楽しさに、気づけば引き込まれていた気がする。
そしてこの頃から、毎週顔を合わせる他の参加者とも、少しずつ言葉を交わすようになっていった。
皆さん、それぞれの仕事で活躍されている方ばかり。
そんな人たちが平日の夜に時間をつくって、笑いながら踊って、楽しそうに話している。その空間に身を置いているだけで、自分もどこか満たされた気持ちになれた。
家族や学生時代の友人、職場の人間関係とも違う、ちょうどいい温度のつながり。
そして8月の後半からは、ステージに向けたリハーサルが始まった。
毎週のレッスンとは別日に行われ、初めて「チームとして踊る」体験だった。
最初の印象は——“大人の運動会みたい”。
フォーメーション、立ち位置、全体の呼吸。
個人練習とはまるで違う、共同作業のような空気がそこにはあった。
最初は、もちろん振り付けを覚えるところから大変だった。
でもそれ以上に難しかったのが「照れずに踊る」ことだった。
振りは覚えているのに、心がまだついてこない。
パートの中でペアダンスのような動きがあったのだが、照れすぎて本当にダサかったと思う。
そのとき頭をよぎったのは、Netflixのオーディション番組『timelesz project』(通称、タイプロ)で菊池風磨さんが候補生に語った言葉「殻破れよ!」という言葉。
彼のあの一言が、なぜか妙に身に沁みた。
「殻破れよ」——まさに今の自分に必要なメッセージだった。
9月も、例によって例のごとく、リハーサルとは別に、毎週の通常レッスンには通っていた。
そこで行われていたのが、イベントのオープニング曲の練習だった。
そしてありがたいことに、チームのダンスだけでなく、そのオープニングにも参加させてもらえることになった。
最初のアンケートでは「出る」と答えていなかったのに、途中からフォーメーションに入れていただいた。本当に感謝しています。
3.本番当日|代々木公園のステージで踊る
当日団体のパフォーマンスは、約13分間。
決して短くはない1カ月の練習期間に対して、本番そのものは——始まってしまえば、あっという間に終わってしまった。
心臓がバクバクするような緊張はなかった。
でも、口がめちゃくちゃ乾いていたのは覚えている。
心は落ち着いていたつもりだったけど、体の方が正直にビビっていたんだと思う。
ステージが始まってからは、とにかく楽しかった。
(とはいえ、最初のパートは顔がガチガチにこわばっていたけれど)
きっと表情の硬さから、途中でほぐれていく瞬間まで、全部にその1カ月が詰まっていると思う。



当日は本当にあっという間に終わってしまった。
達成感とともに、抜け殻のような感覚が翌日にどっと押し寄せた。
チームのみんなと一緒に作り上げた1カ月間。
リハーサル以外でも一緒に自主練したり、仲良くなったり。
ひとつの目標に向かって頑張った時間が終わったと思うと、どこか寂しかった。
青春だったんだなあ、と痛感した。

4. 振り返る|踊るように働けたら
あらためて振り返ると、この約2カ月のダンス体験は「ゼロからの成長曲線」を肌で感じる時間だった。
最初は何もできず、身体も思うように動かない。
でも続けているうちに、少しずつ“できなかったこと”が“できる”に変わっていく。
この変化をグラフにしたら、まさに「Sカーブ」そのものだと思う。
途中から自分でも「急に踊れるようになったかも」と感じたし、(お世辞かもしれないけれど)周囲からもそう言ってもらえた。
それが小さなモチベーションになって、また次の練習への活力になった。
仕事で言うところの、あまり好きな言葉ではないけどPDCAが自然に回っていたのかもしれない。
また、チームとして一つのステージを目指す中で、改めてフィードバックとチームワークの大切さを実感した。
参加者のモチベーションは人それぞれだけれど、先生は常にポジティブな声掛けと観察で全員を引っ張ってくれた。
頑張りを見てくれて、認めてくれる人がいることの大切さ。
それが人を動かすんだと思った。
この体験は、仕事にも直結する学びだった。
たとえば新しいプロジェクトに挑戦するときの初動。
最初は形にならなくても、仲間と目的を共有して、少しずつ「できること」が増えていく。
それを積み重ねた先に、思いがけない達成感があるはずだ。
5.サードプレイスの価値|うまくできなくてもOKな場所
家や職場とは違って、ここでは「うまくできなくてもOK」だった。
できない自分を責める必要もないし、ミスしても笑い合える。
そんな空気が流れていた。
スタジオは、心に少し余白をつくってくれる場所だった。
頑張りすぎなくていい“逃げ場”であり、
一歩踏み出すための“挑戦の場”でもあった。
そこに集まる人たちは、仕事や肩書きを越えて、「踊る」という体験を一緒に共有する仲間だった。
同じリズムに乗って、同じ空気を吸って、同じ達成感を分かち合える。
ただそれだけのことが、思っていた以上に心を満たしてくれた。
6. 結び|踊ってみて、少しだけ変われた
まずは、きっかけをくれた同僚に感謝したい。7〜8月は毎週、自主練にも一緒に付き合ってくれた。
そして、団体の先生方やチームの皆さんにも感謝。本当にいい人たちばかりだった。
「体験」を仕事をしている自分にとっても、
この2カ月は“体験”そのものの価値を改めて考えるきっかけになった。
自分の人生に、新しい世界が広がる瞬間が確かにあった。
申し込んだ当初は、「消費しているのか、むしろ消費されているのか……」とまで思った。けれども、今振り返ると、この金額は“経験への投資”だった。
代々木公園のステージで踊り切った達成感。
仲間と笑い合えた時間。
家や職場では得られないサードプレイス。
それをすべて合わせると、むしろ安すぎたと思えるくらいだ。
次に踊るステージはまだ決まっていない。
でも、また一歩外に出たくなる気がしている。
当日の動画はこちら!
Photo by Katsuya Yoshida
Video by BOLLYQUE
筆者:ソウ・エクスペリエンス田鍋
