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「今来ない人」にも開かれた本屋/劇場になるために【SPAC SLOPE Talks】note版

はじめに

SPAC SLOPE Talks番外編の後編。静岡市の「HiBARI BOOKS & COFFEE」(以下、ひばりブックス)にて、代表の太田原由明さんをゲストにお迎えし、「SPAC秋のシーズン2025-2026」アーティスティック・ディレクターを務める石神夏希とのトークをお届けしています。

前編では、常に「今」を反映する新刊書店の棚づくりへの太田原さんのこだわりや、インターネットが普及した現代に本屋さんがある意味などをお話ししました。
前回の記事はこちらからお読みいただけます。

後編では、劇場にも焦点を当てアーティスティック・ディレクターの仕事や「今来ていない人」にも劇場や書店を開いていくことをお話ししました。
この記事では、その一部を抜粋してお届けいたします。

全編はこちらからお聞きいただけます!
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ゲスト:太田原由明(おおたはら よしあき)
HiBARI BOOKS & COFFEE ひばりブックス代表。大手書店に勤務後、2019年に静岡市でひばりブックスを開店。厳選された本とカフェスペース、ギャラリースペースを併設した本屋を営む。今年で6年目。

ゲスト:石神夏希(いしがみ なつき)
劇作家・演出家。1999年よりペピン結構設計を中心に活動。国内外で都市やコミュニティのオルタナティブなふるまいを上演する演劇やアートプロジェクトを手がける。「SPAC秋のシーズン2025-2026」アーティスティック・ディレクター。

聞き手:村上瑛真(むらかみ えま) 
SPAC静岡県舞台芸術センター制作部



「今」を映し出す書店になるために

太田原  僕が新刊書店にこだわる理由は、新刊書店は時代の空気を反映しているからです。本の歴史はとても長いですが、その中でも「今」を反映している場所が新刊書店だと思います。

石神  たしかに。私も今どんな感じだろうと本屋さんに行くことがあります。自分の視点を変えたり新しい空気に触れたりする気持ちで、セレクトされた本屋さんにふと行きます。そのような本屋さんをつくるために、どんなことをしていますか?

太田原  お客さんが必要とする本をきちんと入れる。それがまず基本です。毎日新刊の情報を見て、お客さんからお問い合わせがあった著者や出版社、ジャンル、売れたことのある著者などが引っかかってきます。自分の好みやセレクト能力は大したことではないんです。お客様の好みをできるだけ忠実に反映させています。


良い本は全てが美しく作られている

石神  ご自身のフィーリングはあまり関係がないということでしょうか?

太田原  フィーリングはあります笑。良い本っていうのは、著者はもちろん編集者やデザイナー、出版社も全員が全力をかけて、全てが美しく作られているんですよ。装丁だけじゃなくて、紙の質感、文字の組み方、余白の取り方。全部が調和している。それを手に取った時に、「あ、これは間違いなく売れる」っていう感覚があります。

僕は今の自分の感覚を信じて書籍を選んでいます。お客さんにも僕のアドバイスではなくて、ご自身の感覚を信じて選んでくださいとお伝えしています。もちろん売れる本、定番の本も入れますけど、自分が「これは」と思ったものも信じて入れる。その積み重ねが、店の個性になっていく。


「かもしれない」を重ねてチームを作る

村上  「SPAC秋のシーズン2025-2026」のアーティスティック・ディレクターとして、上演する作品や演出家を選ぶときはどのようなことを考えているのでしょうか?

石神  私は、アーティスティック・ディレクターとしてプログラミングすることについてはまだ新人です。しかし、これまでもアーティストとして自分が作品をつくるだけではなくて、いろいろな人が一緒にリサーチをしたり作品を作ったりする「場をつくる」こともしてきました。作品を選んだりチームを作ったりする時は、「かもしれない」を重ねていくんです。

この演出家さんとこの作品が出会ったら面白いかもしれない。この俳優さんとこの役が出会ったら何か起きるかもしれない。そういう「かもしれない」をたくさん重ねて、企画を作っていきます。もちろん、このくらいの人数は出演してほしいなと思ったり、この演出家や俳優はこのくらい人気のある人だなと考えたりもしますが、このチームならうまくいくだろうという感覚を頼りにしています。そして、演劇はお客さんがいて初めて立ち上がるものですので、そこには静岡のお客さんもチームの一員として考えています。
アーティスティック・ディレクターの仕事は、チームを作ることかもしれません。

太田原  そのような場を作っていく際には、あまり介入されないのですか?

石神  私はどちらかというとコントロールしないです。もう少し介入したほうがいいのかな、と思うことはありますけれど、なるべく介入したくないと思っています。最高の結果は、人が能動的に動くことで生み出されると思うんです。演出家や俳優が自分で発見して、自分で選択して、自分で動く。その時に一番良いものが生まれる。だから、アーティスティック・ディレクターとしては、その「能動性」をどう引き出すかが大事だと思っています。


今来ていない人にも開いていたい

太田原  大都市よりも静岡の方が、初めて演劇を観る人も多いと思うんですね。静岡のお客さんは東京とは違う雰囲気だと思います。

石神  SPACはこれまでも難しいことをしてきたと思います。静岡のお客さんも大切ですし、演劇の専門家や演劇ファンのお客さんも大切です。どちらのお客さんも大切にすることは、経営的にも作品の質を高めていく上でも、とても難しいことです。私自身もとても悩んでいますが、悩むことが面白いことだと思います。

SPACは、今劇場に来ているお客さんももちろん大切にしますし、劇場に来ていない人のことも想像しながら作品を作ったり、劇場を開いておいたりしているんだと思います。この「開いておく」ことを、多くの文化施設で維持することが難しくなっている状況だと思います。ただ、劇場も演劇も今劇場に来ていない人にも届くことを追い求めることが重要だと思います。

太田原  僕も長くお子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまでいらっしゃる本屋さんに勤めていました。ひばりブックスも本好きだけではなく、多くの方が訪れてくれるお店にしたいと思っています。常に開いていて、特別な場所ではなくて日常に地続きな場所になれたらいいなと思います。

石神  ふらっと入ってきていただける場所になりたいですね。


きょうを生きるあなたとわたしのために

太田原  演劇は昔の作品でも新しい解釈を加えて、何度も上演しますよね。

石神  さきほど、太田原さんが新刊書店は「今」を映しているとおっしゃいましたが、劇場も同じですし、同じでありたいと思っています。今ここを生きている人が、今生きている人の前で上演するので、後世に作品を残していくというよりも「今」を切り取っているんですね。だから、同じ戯曲だったとしても演出の意図の有無に関わらず変わっていくんです。演劇は、お客さんの反応からも影響を大きく受けます。その点では、最も「今」を早く映し出すメディアともいえるかもしれません。

「SPAC秋のシーズン2025-2026」では、〈きょうを生きるあなたとわたしのための演劇〉というメッセージを掲げて、古典3作品を上演します。SPACでは、一般のお客さんだけではなく静岡県内の中高生も多くご来場いただきます*。初めて劇場に出会う方たちに、長い歴史を持った立派な作品だから古典を上演するのではなく、今日を生きているあなたや私たちにとって必要だと思うから上演しているんだ、ということをお伝えしたいと思っています。

私の演出した『弱法師』は、3年前に初めて上演し今シーズンでは再演になります。しかし、3年前と今ではセリフの聞こえ方が変わってくるんです。それは、私や社会、世界が変わっているからだと思います。例えば、『弱法師』の中に出てくる戦争の描写が3年前よりも今回の方がより恐ろしく聞こえます。戦争はこれまでも起きていますが、戦争という現実がより私たちの身に迫ってきているという感覚が変わっているんです。

※中高生鑑賞事業公演を実施。参考ページ:https://spac.or.jp/project/school


誰かの必要な場所の価値を認め合ったり選択できたりするように

太田原  今日お話してみて、劇場と本屋は似ている部分が多いと思いました。やっぱり日常の中に溶け込んで、必要とされる存在になりたいなと思います。

石神  以前、太田原さんが「本屋さんや劇場へ行く価値をどうしたら伝えられるんだろう」ってお話してくださったんです。「私の必要としてる本はこれだ!」と感じることを来たことがない人に伝えることは、運営とは異なる工夫が必要だと思います。これは劇場に置き換えても同じです。ただ、全員が劇場や本屋さんに行く必要はないと思っています。他の人にとっては、好きなレストランやカフェ、公園かもしれません。互いに必要な場所の価値を認めあえるようになったり、救われる場所の選択肢があることが大切だと思います。


HiBARI BOOKS & COFFEE
静岡県静岡市葵区鷹匠にある、厳選された本とカフェスペース、ギャラリースペースを併設した本屋。

公式HP:https://hibari-books.com/
アクセス:〒420-0839 静岡県静岡市葵区鷹匠3-5-15 第一ふじのビル1F
オンラインストア:https://hibaribooks.stores.jp/


SPAC秋のシーズン2025-2026 #1『弱法師』

作:三島由紀夫(『近代能楽集』より)
演出:石神夏希
出演:大内米治、大道無門優也、中西星羅、布施安寿香、八木光太郎、山本実幸

◎沼津公演
会場:沼津市民文化センター 大ホール
日程:2026年1月31日(土)13:30開演

◎浜松公演
会場:浜松市浜北文化センター 大ホール
日程:2026年2月7日(土)13:30開演

詳細:https://spac.or.jp/25_autumn/yoroboshi_2025


SPAC秋のシーズン2025-2026
詳細:https://spac.or.jp/25_autumn/


※この記事は、SPAC SLOPE Talks番外編-2の内容を元に構成しました。


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