たどり着いた場所で ─ SPAC新作『うなぎの回遊 Eel Migration』のWIP ④
こんにちは。張藝逸です。東京藝術大学の博士課程で越境する演劇を研究しながら、SPAC(静岡県舞台芸術センター)でインターンとして活動しています。SPAC新作パフォーマンス『うなぎの回遊 Eel Migration』の創作過程を記録するシリーズ、最終回をお届けします。第1回は作品に関わる「人たち」を、第2回は「音楽」の創作を、第3回は「うなぎ」のリサーチを取り上げました。今回は、いよいよ目前に迫ったワーク・イン・プログレス公演(WIP)についてお伝えします。
WIPという形
「ワーク・イン・プログレス公演(WIP)」とは、制作途中の作品を観客の前で上演するものです。完成品ではありません。
『うなぎの回遊 Eel Migration』の創作は、2024年6月のリサーチ開始から約2年にわたります。WIPは、その長い道のりの中で、作品が初めて観客と出会う場です。(プロジェクトとしての初めての出会いは昨年のGWに行ったオープン・スタジオ)何が起きるかは、作り手にもまだわかっていません。観客の前に立つことで初めて見えてくるものがある。WIPは、そのための場です。どうなるのか、私たちも楽しみにしています。ぜひ一緒に立ち会ってください。

WIPでの経験は、2026年4月〜5月の「SHIZUOKAせかい演劇祭2026」での本公演に向けて、作品を次の形へと導いていきます。2月28日と3月1日に会場で起きることは、その日だけのものです。
科学館という場所
WIPの会場は、浜松科学館 みらい~らです。今回のWIPは、この科学館との共催で実現しました。
1月、出演者たちが初めてこの場所に足を踏み入れました。最初にしたのは、音の確認です。SPACの俳優とスタッフたちは、休憩時間も使って空間の反響を確かめていました。声がどう届くか、楽器がどう響くか。そして、この空間のどこに観客がいて、どこで演じるのか。劇場なら経験で予測できることも、科学館のホールでは一から考え直す必要があります。
この日、出演者たちは科学館のサイエンスショーにも出演しました。みらい~らのステージでは「SPAC×うえちゃんのコラボサイエンスショー」が実施されており、楽しみながら科学の原理を学べるプログラムになっています。科学館を訪れた親子連れの前で、出演者たちがパフォーマンスを披露しました。

みらい~らは2019年に常設展を全面更新し、コミュニケーションを重視する学びの場へと生まれ変わりました。大規模なサイエンスショーや体験型ワークショップ、全編ライブ解説のプラネタリウムが人気を集めています。私も常設展を見て回りましたが、展示の豊かさに驚きました。WIPの前後に、ぜひ立ち寄ってみてください。
会場が科学館であることには、もうひとつの意味があります。第3回で書いたように、この作品はうなぎの生態に関するフィールドリサーチから生まれました。科学が演劇に変わる過程を歩んできたこの作品が、科学館で上演されること。それは偶然以上のものだと感じています。
ここで待っています
4回にわたってこのシリーズを書きながら、私自身もこの作品と一緒に旅をしてきました。
第1回では、SPAC俳優とブラジルにルーツを持つ県民出演者たちが出会い、チェックインやブラジルフェスティバル、アミーゴ・セクレートを通じて関係を築いていく過程を記録しました。第2回では、楽譜を使わない棚川寛子の音楽のもとで、異なる言語や文化的背景を持つ出演者たちが互いの音を聴き合いながら、一つのアンサンブルをつくっていく姿を。第3回では、うなぎの生態調査や養殖場訪問といったリサーチが稽古場に持ち込まれ、作品の中で別のかたちをとり始める瞬間を。そして今回は、WIPという形と、科学館という場所について書きました。振り返ると、どの回も何かが「完成」する場面ではなく、何かが「始まる」場面を書いていたのだと思います。
WIPは、その「始まり」が観客と出会うときです。SPAC俳優の赤松直美、貴島豪、森山冬子、吉見亮。ブラジルにルーツを持つ県民出演者の相川アンジェラ、アイラ・ウェンディ、ペレイラ・ハセヤマ・クレイデ、矢野陽規。音楽の棚川寛子。そして石神夏希をはじめとする創作チームが、浜松科学館で待っています。

うなぎは、たどり着いた場所で生き始めます。この作品も、皆さんがたどり着いてくれた場所から、始まります。
公演情報
『うなぎの回遊 Eel Migration』ワーク・イン・プログレス公演
日程:2026年2月28日(土)、3月1日(日)各日13:30開演
(終演後、アーティストトークあり)
会場:浜松科学館 みらい~ら ホール
上演時間:60分以内(予定)
上演言語:日本語(一部ポルトガル語)
静岡初演
「SHIZUOKAせかい演劇祭2026」にて初演いたします。
日程:2026年4月25日(土)、26日(日)、29日(水・祝)各日18:30開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間:90分(予定)
上演言語/字幕:
日本語上演(一部ブラジルポルトガル語)/日本語・英語・ブラジルポルトガル語字幕
*関連企画
フェスティバルcafe&bar ― Festa Brazil(ブラジル・ナイト)
4月25日(土)、26日(日)15:00~22:00
4月29日(水・祝)12:00~22:00
会場:せかいの劇場ミニミュージアム「てあとろん」
