ISS後継の最有力候補「Starlab」——国際連携で宇宙ビジネスの新時代を拓く
2030年頃に予定されている国際宇宙ステーション(ISS)の退役まで、残り約5年。その後継として最も注目を集めているのが、商業宇宙ステーション「Starlab(スターラブ)」です。
2025年11月、大手防衛企業Leidosが組み立てと試験を担当することが発表され、同月には資産運用大手Janus Henderson Groupからの戦略投資も決定。開発は着実に進んでいます。
今回は、宇宙ビジネスの新たな舞台となるStarlabについて詳しく解説していきます。
Starlabとは何か——ISSを継ぐ次世代宇宙ステーション
Starlabは、米国主導のグローバルジョイントベンチャー「Starlab Space LLC」が開発している商業宇宙ステーションです。2021年に創業し、本社はテキサス州ヒューストンに置いています。
中核パートナーとして、米国のVoyager Technologies、欧州の航空宇宙大手Airbus、日本の三菱商事、カナダのMDA Space、データ分析のPalantir Technologies、ベルギーのSpace Applications Servicesが参画。戦略的パートナーには、Northrop Grumman、ホテルチェーンのHilton、宇宙旅行会社Journey、オハイオ州立大学が名を連ねています。
この国際的な連携体制こそが、Starlabの最大の強みです。米国、欧州、日本、カナダといった宇宙開発の主要プレイヤーが一堂に会することで、技術力と資金力、そしてグローバルな顧客基盤を確保しています。
設計の特徴——単一打ち上げで完成するコンパクト設計
Starlabの設計は、従来の宇宙ステーションとは一線を画しています。
ISSは27年かけて、16カ国が協力して組み立てられた巨大構造物です。一方、Starlabは「サービスモジュール」と「居住・実験モジュール」の2モジュール構成で、SpaceXのStarshipによる単一打ち上げで軌道投入が可能です。
居住モジュールの直径は約8メートルと大型で、内部容積は約450立方メートル。ISSの約半分ですが、年間400件以上の実験を実施できる能力を持ち、これはISSとほぼ同等です。4名の宇宙飛行士が常駐でき、60kWの電力供給能力とMDA製のロボットアームも装備します。
AI統合という革新——デジタルツインが宇宙ステーションを変える
Starlabのもう一つの特徴が、AI技術の全面的な統合です。
Palantir Technologiesとの連携により、ステーション全体のデジタルツイン(仮想モデル)を構築。センサーや機器のデータをAIが分析し、メンテナンスの必要性を予測したり、空気品質、水供給、エネルギー消費などのリソース配分を最適化したりします。
緊急事態が発生した場合には、AI搭載システムが状況を素早く評価し、リアルタイムで対応策を提案。乗組員と地上管制間のコミュニケーションも調整します。
宇宙ステーションの運用において、こうした予測保全と自動化は運用コストの削減と安全性向上に直結します。地上で培われたAI技術が宇宙インフラに応用される好例といえるでしょう。
開発の現状——2028年打ち上げに向けて着々と
2025年の開発進捗は目覚ましいものがあります。
7月には、NASAが5つの重要なマイルストーン達成を発表。予備設計レビューと安全審査が完了し、NASAジョンソン宇宙センターの施設内にフルスケールの高精度モックアップの建設も開始されました。
9月にはVivace Corporationが主要構造の製造を担当することが決定。アルミニウムベースの構造体は、打ち上げ用として開発された単一宇宙構造物としては最大級のものになります。
Starlab Space CEOのMarshall Smith氏によれば、12月からクリティカル設計レビューを開始予定で、一部のハードウェアはすでに製造段階に入っているとのこと。ペイロードスペースの55%がすでに予約済みという事実は、市場からの高い期待を示しています。
投資家からの評価——「ISS後継の最有力候補」
11月20日、ロンドンに本社を置く資産運用大手Janus Henderson Groupが、Starlabへの戦略投資を発表しました。
Janus HendersonでSmall Cap Growth担当ポートフォリオマネージャーを務めるJonathan Coleman氏は、Starlabについて「ISS後継を競う候補の中で、最も優れた設計、最も低いコスト構造、最も説得力のあるビジネスモデルを持つ」と評価しています。
この投資は、商業宇宙経済が新たな成熟段階に入ったことを示すシグナルとして業界内で注目されています。
競合状況——4つの候補が覇を競う
ISS後継を目指すのはStarlabだけではありません。
Axiom Spaceは2027年以降にモジュールを順次打ち上げる計画で、Vastは2026年に世界初の商業宇宙ステーション「Haven-1」の打ち上げを予定。Jeff Bezos率いるBlue OriginはSierra Space、Boeingらと共に「Orbital Reef」プロジェクトを推進しています。
しかし、Starlabは公開企業を中心とした連合の時価総額が約9,000億ドル、年間売上高も2,500億ドル規模に達し、財務基盤の盤石さで他を圧倒しています。
宇宙ビジネスへの示唆——新たな市場の創出
Starlabが目指すのは、単なるISSの置き換えではありません。
主要な用途として期待されているのは、バイオ医薬品の研究開発、がん治療薬の開発、先端材料の製造など、微小重力環境でしか実現できない分野です。地上では不可能な結晶成長や細胞培養が可能になり、製薬会社や素材メーカーにとって新たな研究開発基盤となります。
Hiltonが内装デザインを担当するというのも象徴的です。宇宙での「快適な暮らし」を追求することで、長期滞在型の研究プログラムや、将来的には宇宙での商業活動の拡大にもつながるでしょう。
NASAは2028年にStarlabなど商業ステーションの運用を開始し、2030年のISS退役と2年間の重複期間を設ける計画です。「宇宙研究の空白期間を作らない」という強い意志が、開発を後押ししています。
宇宙ビジネスに関心を持つ方々にとって、Starlabは今後数年間で最も注目すべきプロジェクトの一つです。国際連携、AI統合、商業化という三つのキーワードを体現するこの次世代宇宙ステーションの動向に、引き続き注目していきましょう。
参考記事
〇Starlab selects Leidos to oversee assembly and testing for new space station(2025年11月)
〇Starlab, Developer of Commercial Space Stations, Secures Strategic Investment from Janus Henderson(2025年11月20日)
〇Janus Henderson invests in Starlab Space(2025年11月21日)
〇NASA Sees Key Progress on Starlab Commercial Space Station(2025年7月16日)
〇Starlab Selects Vivace to Manufacture Primary Structure for Commercial Space Station(2025年9月24日)
〇Starlab | Next generation space station | Space | Airbus
〇Starlab (space station) - Wikipedia
〇The world's first commercial space station is getting closer to launch | CNN(2025年9月25日)

