日本発「BULL」が挑む宇宙デブリ問題—栃木のスタートアップが世界と組む理由
加速する宇宙デブリ問題、今こそ対策が必要な理由
人工衛星の打ち上げラッシュが続く現代、宇宙空間には約1億個以上ものスペースデブリ(宇宙ゴミ)が漂っていると言われています。特に近年のスターリンクをはじめとする大量の衛星コンステレーションの展開により、この問題はさらに深刻化しています。
衛星同士の衝突や、運用を終えたロケットの残骸が軌道上に残り続けることで、新たなデブリが次々と生まれる「ケスラーシンドローム」と呼ばれる連鎖反応のリスクも指摘されています。このままでは、宇宙空間の持続的な利用が困難になる可能性すらあるのです。
そんな中、栃木県宇都宮市に本社を置く株式会社BULLが、独自の宇宙デブリ対策装置「HORN」で世界から注目を集めています。
栃木発のスタートアップが世界を動かす
株式会社BULLは2022年11月に設立された宇宙スタートアップです。「地球内外の惑星間の行き来を『当たり前』に」というビジョンを掲げ、宇宙デブリの発生を防止する装置の開発に取り組んでいます。
BULLが開発する「HORN」は、PMD(Post Mission Disposal:ミッション終了後の処分)装置と呼ばれるもので、人工衛星やロケットに搭載し、運用終了後に樹脂製の薄い幕を展開させる仕組みです。この幕が大気抵抗を受けることで宇宙機を減速させ、軌道を離脱して大気圏に再突入させることができます。
この技術の革新的な点は、「自律的に」デブリ化を防止できることです。地上からの制御が不要で、確実にデブリの発生を防ぐことができます。
欧州のロケット大手との相次ぐ提携
BULLの技術力は、欧州の宇宙産業界から高く評価されています。2024年10月には、欧州のアリアンスペース社と、Ariane 6ロケットへの「HORN」搭載に向けた覚書(MOU)を締結しました。
さらに2025年1月には、イタリアのロケット製造大手Avio社とも、小型ロケット「Vega-C」への搭載に向けたMOUを締結しています。Avio社は欧州宇宙機関(ESA)の「ゼロデブリ憲章」に署名しており、宇宙の持続可能性への取り組みを強化しています。
これらの提携により、BULLの装置は2027年以降、欧州の主要ロケットでの飛行実証が予定されています。日本の若いスタートアップが、わずか数年で欧州の宇宙産業トップランナーと対等に協業できているという事実は、技術力の高さを物語っています。
日本国内でも着実に実績を積む
もちろん、国内でも順調に開発を進めています。BULLは2023年9月に文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)に採択され、フェーズ1として交付額上限14.7億円の事業として開発を進めています。
2024年6月には、JAXAとJ-SPARCの枠組みを活用し、スペースデブリ拡散防止装置のイプシロンSロケットへの搭載に向けた共創活動を開始しました。
さらに2024年10月には、Space BDが提供するH3ロケット相乗り打ち上げサービスを利用した実証用装置の打ち上げも決定しています。2025年度には実際に軌道上で技術検証が行われる予定で、HORNを搭載した衛星が実際に大気圏に再突入するかどうかが確認されます。
ビジネスモデルの可能性
興味深いのは、BULLが単なる装置メーカーにとどまらない事業構想を持っていることです。日本経済新聞の取材に対し、BULLのCEO宇藤恭士氏は、HORNを活用したデータ事業も想定していると語っています。
具体的には、装置に各種センサーを搭載し、大気圏再突入時のデータを収集・販売するビジネスモデルです。これまで取得が困難だった再突入時のデータは、航空宇宙分野だけでなく、材料科学など様々な分野での活用が期待できます。
また、装置に保険を付けて販売することも視野に入れており、2年後の収益化を目指しているとのことです。デブリ対策という社会的な課題解決と、持続可能なビジネスモデルの両立を図る戦略は、宇宙スタートアップとして理想的な姿と言えるでしょう。
宇宙の持続可能性を支える日本の技術
国際的な宇宙デブリ規制は年々厳しくなっています。欧州宇宙機関のゼロデブリ憲章や、各国の宇宙活動法により、ロケットや衛星の運用終了後25年以内の軌道離脱が義務付けられつつあります。
こうした規制強化の流れの中で、BULLのような技術を持つ企業の存在意義はますます高まっていくでしょう。欧州の大手企業が日本のスタートアップと組むのは、規制対応だけでなく、技術的な優位性を認めているからに他なりません。
栃木県宇都宮市という、一見すると宇宙産業とは縁遠いように思える地方都市から、世界の宇宙産業を変える可能性を秘めた企業が生まれていることは、日本の宇宙ビジネスの新しい可能性を示しています。
産学官連携を活かしながら、グローバルな視点で事業を展開するBULLの挑戦は、これからの日本の宇宙産業のあり方を考える上でも大いに参考になるはずです。
今後、2025年度のH3ロケットでの実証、2027年の欧州ロケットでの飛行実証と、具体的なマイルストーンが続きます。宇宙デブリという人類共通の課題に、日本の技術がどう貢献していくのか。BULLの動きから目が離せません。
参考記事
〇株式会社BULL、アリアンスペース社と宇宙デブリ低減に向けた協力を加速(2025年1月公開)
〇株式会社BULL、アリアンスペース社との間で、宇宙デブリ化防止装置「HORN」の Ariane 6 ロケットに対する実現可能性について検討を開始(2024年10月4日)
〇株式会社BULLと欧州を代表するロケット製造業者であり打上げサービスプロバイダーである株式会社Avioは、小型ロケット「Vega-C」に対する宇宙デブリ化防止装置「HORN」の搭載に向けたMoUを締結(2025年1月16日)
〇樹脂の幕が受ける大気抵抗で衛星を減速・落下、保険付き販売も視野に入れるBULL(2025年2月25日)
〇Space BDが提供するH3ロケット相乗り打上げサービスを利用し、BULLのスペースデブリ低減に向けた実証用装置の打上げが決定(2024年10月21日)
〇BULLとJAXA、スペースデブリ拡散防止装置のイプシロンSロケットへの搭載に向けた共創活動を開始(2024年6月20日)
〇株式会社BULL|JA2024 - 2024国際航空宇宙展(2024年)
