さよなら、パク・ドンフン。イ・ソンギュンが僕たちに残した「静かなる嗚咽」と傑作たち
「この人は俳優ではなく、声優なのか?」
彼に初めて出会った時、なんとなくそんな印象を受けた。
しかし、そこから先は彼の声が頭から離れず、どうしてもあの
"아무것도 아니에요."
(何事も無い。)
が、今もなお、頭から離れないのだ。
今回は、直近観た映画の記事を投稿したことをきっかけに、亡きイ・ソンギュン氏が出演した作品について自分が観てきたものを踏まえて書いてみたいと思う。
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1. マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜
僕が、イ・ソンギュン氏と初めて出会った作品は、傑作『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』だ。
この時の彼の配役は、なんとも情けない中間管理職パク・ドンフンであった。
虫一匹も殺せないドンフンが、様々な事件に巻き込まれてゆく。収賄疑惑、妻の不倫、ハニートラップなど、普通では考えられないトラブルが彼を襲う。その時の、ソンギュン氏の演技たるや絶妙としか言いようがない。気弱ながらも皆の前では強くあろうとして、中間管理職としての役割を清く正しく全うしようとする。まるで、彼の素が出ているのではないかと思えるような雰囲気でもあった。もちろん演技なのだろうが、そう思わせることが一流の証である。
そして、最終話で見せるあの嗚咽。なんだろう、あんなサイレントな雰囲気の中、言葉を使わずに今までの苦労の荷下ろしを表情とそぶりだけで見せられる人がいただろうか。そういった深い印象があった。
2. コーヒープリンス1号店
次に観たのが、時代を遡って『コーヒープリンス1号店』である。
これもまた、彼にしかできない役どころなのではないかと言えるぐらい絶妙だ。
キャラとしては軽いはずである。放送音楽家という立場で、かつ元恋人もいてなんとなくチャラチャラしている。しかし、あの低音ボイスである。どこから出てくるのかあの声はと思いながら、ドラマを観ているとこれまた複雑な展開に進んでゆく。主人公のウンチャンに思いを馳せはじめるところなどは、正直想像できなかった。
僕が『マイ・ディア・ミスター』を観た後だからかもしれないが、「そこに手を出す?」という気持ちで観ていた。
とはいえ、だいぶ古い作品ではあるので彼のキャリアとしては主な役どころではないのかもしれない。しかし、コン・ユに勝るとも劣らない存在感は、あの作品でも十分だったと思う。
3. パラサイト 半地下の家族
そして、彼が亡くなる前に観た最後の作品が、世界的ヒット作『パラサイト 半地下の家族』だ。
観たのは2023年の11月だったので、すでにソンギュン氏の事件が明るみになっていた後に観始めた。作品自体は2019年であったので、事件の影響はないものの、彼のことを心配しながら観たのを覚えている。
ここでの彼はどちらかと言うと主役サイドではなく、主役側に踊らされる金持ちを演じている。しかし、相変わらずの低音ボイスを駆使して演じているのだが、通常より何というか息を吹きかけるようなボソッといった雰囲気で演じるのだ。こう、なんというか、仕事以外の出来事についてはあまり深く考えておらず「まぁ、そんな感じじゃない?」というような適当なスタンスで主役側にどんどん食われていき、結果的にはからずも最後は死に至ってしまうわけだが、微妙な使い分けの妙を感じた瞬間であった。
その後、2023年12月に彼は人生に幕を自ら下すわけであるが、正直なところとても残念であった。
彼の作品をもっと見続けたかったのに、という思いでいっぱいであったが、仕方がない。そういった思いで、彼の作品を見続けることになった。
4. スリープ
悲しい思いから数ヶ月経った頃であろうか。そこから、『スリープ』を観た。
この作品は、不眠症なのか霊が交霊したのかわからない役割を演じたわけだが、ここでの彼はなんだか冴えない、ぼーっとしたそんな印象だった。自殺後に観たので、何か心ここにあらずなのでは?と思ってはみたものの、そうではない。純粋に役どころでそうなっているだけなのだ。作品的に不気味な内容であったのだが、彼の演技により更にミステリアスな雰囲気をかもしたのではないだろうか。
5. 最後まで行く
最新作スリープから時代はまた遡り、家で『最後まで行く』を鑑賞した。
日本版も公開されるほどの作品であるが、残念ながら日本版の焼き直しは大抵つまらないので見ていない。
ここでのソンギュン氏は声の特徴よりも、作中でのアクションの激しさや演技だったのではないだろうか。また、作品の設定も非常に背筋が凍るような内容であり、ハラハラしながら観たのを覚えている。確かに日本で焼き直されるほどの作品ではあった。
ラストシーンでの大金を見つめる彼の何とも言えない表情も忘れ難いシーンではある。
6. プロジェクト・サイレンス
先日の『大統領暗殺裁判 16日間の真実』の前に観たのが『プロジェクト・サイレンス』である。
ここでは、あまり演技として突出したものは無かったように思える。配役としてもそこまで面白くはない。むしろ『トラウマコード』のチュ・ジフンの方が火を噴く演出などをしており、目立っていたのではないだろうか。この頃になると、様々な問題で少し弱っていたのだろうかなどと憶測ばかり浮かぶ。僕がこの作品で覚えてたのはやはり、
「뭐하는거야,진짜! 」
(何してるんだ、本当に!)
という低音ボイスである。
最後に
このように、様々な作品でイ・ソンギュン氏のエンターテイメントを拝見してきた。
誰が聴いても彼だと分かる低音ボイス
どこか憎めないニヤけた表情
深い洞察から醸す演技力
そう言った魅力が彼には備わっており、唯一無二の存在であったのではないだろうか。
改めて思うが、残念でならない。彼の冥福を心から祈りたい。
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