名優たちの熱演に救われた迷走サスペンス:『運の悪い日』レビュー
「運の悪い日(운수 오진 날)」というタイトルを見て、僕は最初ハングルの意味を完全には掴みきれなかった。
というのも、「오지다」のニュアンスが分からなかったからだ。
調べてみると、これは「오달지다」の略語で「ヤバい」「ハンパない」といった意味らしい。
오지다 形容詞 [본딧말]오달지다
めちゃ,物凄く,マジヤバイ
つまり、「운수 오진 날」は直訳すれば「運のヤバい日」「ぶっ飛んだ一日」といった感じか。
日本語のタイトルを先に見ていた僕は、「なるほど、登場人物にとって最悪な一日が描かれるのだな」と思っていたが、韓国語のニュアンスを踏まえると、もう少し尖った、違った感触になったかもしれない。
そんな作品『運の悪い日』のレビューを書いてみようと思う。
🎬作品概要
タイトル: 運の悪い日(운수 오진 날)
主要キャスト:
イ・ソンミン(오택/オ・テク)
ユ・ヨンソク(금혁수/クム・ヒョクス)
イ・ジョンウン(황순규/ファン・スンギュ)
とある平凡なタクシー運転手オ・テクが、
ある日長距離の対価として高額な運賃を了承した客を乗せると、
その客は連続殺人犯だった──というサイコスリラー作品。
ジャンルとしてはホラー寄りのサスペンスと考えてよいが、ドラマと原作では内容に乖離がある。
⌛️作品レビュー
🎭 残念な設定
率直に言って、この作品はもったいない出来だった。最大の要因は、原作からの設定改変の大きさにあると思う。
そのせいで、登場人物たちの性格や行動に一貫性がなく、視聴者として感情移入しにくくなってしまっている。
主役のオ・テク(イ・ソンミン)は本来「平凡で善良な人間」であるはずなのに、時折悪に染まりかける描写が入る。
一方のクム・ヒョクス(ユ・ヨンソク)は冷酷なサイコパスのはずが、人間味ある言動や優しさ(?)を時折見せる。
その結果、「あれ?テクが悪人でもおかしくないんじゃ?」と思ってしまうような、キャラのブレが頻発。
ストーリーの終盤も、バッドエンドか勧善懲悪か曖昧なまま終了し、印象が薄い。
🔪 前半の緊張感
ただ、良い点がなかったわけではない。
冒頭のタクシー乗車シーンから漂う不穏な空気感は絶妙で、「この客、何かあるな」と自然に思わせる演出は秀逸だった。
さらに、連続殺人鬼の犯行シーンも序盤は緊張感があり、ホラー的恐怖をきちんと演出できていたと思う。
小道具やセットの作り込みも前半は丁寧で、ドラマ全体のリアリティを支えていた。
しかし、物語が進むにつれ、演出の雑さや辻褄の合わない展開が目立ち始める。
せっかく積み上げた空気感が徐々に崩れていくのは、かなり惜しい。
🔥演者の熱演
この作品を作品たらしめていたのは、間違いなく俳優陣の熱演だ。
イ・ソンミンは「ミセン」以来、非常に好きな俳優だ。
今回もいつもと変わらぬ全身を使った演技と、目の演技で感情を語る職人技を見せてくれた。
彼の恐怖・怒り・決意の入り混じる目の動きには、何度も引き込まれた。
そして、ふと思ったのだが彼のあの、よだれを垂らす演技はどうやっているのか未だに不思議である。
ユ・ヨンソクの演技はこれまで観たことがなかったが、今回のサイコパス役では見事な不気味さと説得力を放っていた。
後半に若干失速はあるものの、それでも印象に残る怪演だった。
イ・ジョンウンは、「パラサイト」での怪演は有名だがそのほかの作品でも役割に応じた秀逸な演技を見せてくれる。今回の作品でも、役作りに非常に専念したことは感じたが、肝心のシナリオが腰折れてしまい残念な結果になったことは否めない。
📝 作品まとめ
『運の悪い日』は、俳優・演出・前半の構成という素材は一流だった。
だが、脚本・キャラ設計・結末構成という“調理法”に失敗した印象は拭えない。
ストーリーに一貫性と説得力があれば、少なくとも「良作スリラー」として認識されたはずだ。
それでも、
「俳優の演技を堪能したい」
「緊張感のある前半だけでも味わいたい」
という人には、観る価値はあるかもしれない。
ただし──
終盤は期待しすぎない方が、“運がいい”かもしれない。
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