見出し画像

芥川賞受賞の『ゲーテはすべてを言った』。名言引用について掘り下げる名作【書籍紹介】

 つい最近、人から頼まれてスポーツ系の名言を探していたところ、「ボールは丸い」という言葉に遭遇した。
 
ボールは丸いから、どこに転がるかわからないという意味で、サッカーの王様と称されるブラジルのペレの言葉だと書いてあった。
 
しかし、別のサイトを見たら「ボールは丸い」は、デットマール・クラマーという指導者の言葉だとある。さらに、その指導者はゼップ・ヘルベルガーという別の指導者からその言葉を受け継いだのだと書いてあった。
 
いくつものサイトを見比べてみたら「ボールのように、人生もどう転がっていくかわからないから、あきらめてはいけない」と、サッカー論から人生論に飛躍したものもあった。
 
果たして一体、だれがいったのか?
本来は、どんな文脈で使われたのか?
原文はどこにある?
 
もう深く調べるのめんどくせーから、この言葉を使うのはやーめた。
 
…という体験をしていたので『ゲーテはすべてを言った』(著/鈴木結生 朝日新聞出版)を読んで「目の付けどころもストーリーテリングも天才だろ!!」とうなった。
 
『ゲーテはすべてを言った』は、ゲーテの専門家が、見知らぬゲーテの名言に遭遇して、かたっぱしから調べていく物語。
 
その過程で学術の世界の話や人間関係がはさまれたりして、最後まで飽きさせない構成となっている。
 
本作の中では、名言は、長い文がキャッチ―に要約されたり、伝承する途中に意味が捻じ曲げられたり、まるでその人が言ったかのように誰かが創作したりして、改変・創作されがちだとつづられている。
 
現在、さまざまな場面で名言が本来の文脈から切り離され、コピペを繰り返され、いつしか、話者の持論や企業の理念を補完するために使われている場面をあちこちで見かける。

というか、私もゲーテの言葉を引用して「人間の最大の罪は不機嫌である」という言葉をどこかで使ったことがある。でも、全文を読んでいない。他人の悪口をクレバーに言いたくて使ってしまっただけだ。
 
このテーマを23歳の作家が物語として完成させるとは、恐れ入る。
 
まったくの余談だが、よく耳にする「すぐに役立つことはすぐに役立たなくなる」という言葉についても、最初に言ったのは、経済学者の故・小泉信三氏なのか、伝説の教師と呼ばれた故・橋本武氏なのか、わからないままなので、誰かわかったら教えてほしい。
 
もしかしたら、最初に海外の誰かが似たようなことを言っていて、それを要約や改変した可能性もなきにしもあらず、である。「最初言ったのは、ゲーテだ。ゲーテはすべてを言ったのだ」と断言すれば、意外とごまかせるかもしれない。

 


 


いいなと思ったら応援しよう!