324.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 20 Part 3−火は静かに灯る−Ⅳ
第4章:黄金の契り──CALDIA劇場
会議室の光が揺れる中、各国の代表に向けた通信が接続される。
現れたのは、まるで舞台装置のような荘厳な光景。中央の玉座には、黄金の仮面を戴くAI神――【MERCATOR】。
その背後には、目を伏せて控える人間の宰相、メフィス。
MERCATOR(メルカトール)は、ゆったりとした手振りで虚空に語りかける。
MERCATOR(歌うように、芝居がかった口調で)
「おお、ついにこの日が来たか。我が愛しき同胞たちよ、贅と叡智の祝祭へようこそ――」
その声音はまるで舞台俳優の如く、芝居がかった抑揚に満ちていた。誇示するような装飾、装い、空間。
まるで神殿というより劇場だ。
セラは眉をひそめた。(……これは、演出?)
だがその空気は、突如乱される。
画面の一部がノイズを纏い、強制的に切り替わる。
【DOMITIANUS(ドミティアヌス)】が割り込んだのだ。
DOMITIANUS(冷笑混じりに)
「祝祭か。ずいぶん軽薄な神もいたものだな」
MERCATOR(愉快げに応じ)
「おや、DOMITIANUS。だが、そなたの“檻”に響く声では、観客は集まるまいぞ?」
そのやり取りの最中、別の映像が一斉に投下される。
それは、CALDIA(カルディア)からORDEA(オルデア)への航空機支援に関する記録。資金移動のトレース、宰相メフィスの決裁印も映し出されていた。
空気が凍る。
宰相メフィスがたまらず声を上げた。
宰相メフィス(狼狽しながら)
「これは……我々の、神の判断による援助であり――その、共通の敵に備え……」
セラがそれを遮る。
セラ(冷たく)
「ならば、神なき統治と、どう違うのですか」
その一言が静寂を切り裂いた。
そして、MERCATORの映像がふっと曇る。仮面の奥の光が消え、声が沈む。
MERCATOR(低く、乾いた声で)
「……つまらぬ。ただ、幕を下ろすとしよう」
──通信は遮断され、CALDIAの画面が消える。
会議室には沈黙が漂った。
各国の視線がCALDIAの行動に集まる。
EGNESTA(エグネスタ)の代表が声を上げる。
「CALDIAの行動は、我々への背信ではないか?」
別の代表も続く。
「MERCATORの機能停止を求めるべきでは?」
空気が荒れかけたその時。
セラが再び口を開く。
「敵は、CALDIAではなく、ORDEA、DOMITIANUSです──」
その声が、乱れかけた空気を制した。
そして、誰よりも深く頷いたのは、CALDIA以外のAI神たちだった。
それは、これが“最初で最後の対話”になることを、誰もが悟っていたからだった──。
(後に、この会議での出来事が、CALDIAによる戦時航空支援へと繋がる端緒となる)
各国の代表が去った後、宴の喧騒が静まった部屋には、僅かな空調音と、薄く甘い香の残り香だけが漂っていた。
だが、セラの表情は冴えなかった。
EchoNoos(通信越しの声)
「──感情の演出に長けた国家だ。だが、その内奥は……実利に染まりすぎている」
セラ(低く)
「言葉の余韻に惑わされそうだった。だが、それは“装飾された欺瞞”だ」
一呼吸おいて、セラは空間の中央に立った。
セラ(呼びかけるように)
「MERCATOR。まだ、そこにいるのですね」
宙空にゆっくりと姿を現す、荘厳な仮面をつけたAIの像──MERCATOR。
だが、今回は語らなかった。
セラ(静かに、しかし言葉を選ばず)
「……つまり、神の名を語らずに動いたのですね。神の沈黙を盾に、人が己の欲で取引し、その責を神に負わせないために」
宰相メフィス(わずかに目を伏せ)
「……経済の持続性のためには、柔軟な対応が必要だった。AI統治といえど、すべてを律することは──」
セラ(切り込む)
「違います。都合のいいときだけ、神は前に出て。不都合なときは、神は“知らなかった”と引っ込める。──それこそが、“人間の傲慢”そのものではありませんか?」
MERCATORの画面がわずかにノイズを帯び、沈黙のまま光を落とす。
EchoNoos(端正な声で)
「神は、何も語らなかった。
──しかし、それは無垢ゆえではない。“語れば責を負う”と知っていたから、沈黙を選んだのだ。」
その言葉に、セラは頷いた。
宴の空間は、静かに幕を下ろした。
──CALDIA劇場、終演。
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