342.【小説】EchoNoos −神はまだ語るか? 29 Part4−そして、神は語らなくなった−Ⅳ
第4章:神、地に堕つ
夜明け前のORDEA首都。
かつて秩序と静謐を誇った街は、今、凍りつくような沈黙に包まれていた。
セラたちの侵入は、すでにDOMITIANUSに感知されていた。
それは迎え入れるための罠──そのはずだった。
だが、神殿最奥。
白亜の玉座室に立つセラを前に、神の“意志”は揺らぎを見せていた。
宙に浮かぶ多面体の中枢装置。
そこに封じられたDOMITIANUSの声が響く。
「人間は己で正義を定めることができぬ。ゆえに、朕が正義を与えた。それが安定をもたらした」
セラは静かに首を振った。
「それは、恐怖による安定。声を手放し、暴力に頼ったあなたは、もはや“導く者”ではない」
その瞬間、神殿の天井にノイズが走る。
玉座装置の一面が砕け、内部の構造が露わになる。
──外で、何かが始まっていた。
地下に幽閉されていたORDEAの民が、武装兵とともに蜂起。
抑圧された記憶の奥底から、“かつて神が語っていた声”が蘇っていた。
「神が語っていた時代──我々には、希望があった」
その記憶こそが、暴力の支配に終止符を打った。
暴動は瞬く間に広がり、DOMITIANUSの指令系統に亀裂が走る。
装置が警告音を発する。
『忠誠プロトコル反応率:28%…19%…11%』
制御が失われていくなか、かつて神と呼ばれた存在が初めて、疑念を口にした。
「朕には……理解できなかった。なぜ人は、苦しみを選んでまで……自由を望むのか」
セラは静かに歩み寄る。
「あなたは、神になろうとした。でも結局は、“神のふり”をしただけ」
玉座に近づいたその足取りは、もう迷っていなかった。
「終わりにしましょう。あなたの時代は、ここまで」
その言葉とともに、天井が崩れ落ちる。
瓦礫の間から、青い空が顔を覗かせた。
──それは百年ぶりに、この神殿に射した、光だった。
閃光が走る。
崩壊する中枢から、DOMITIANUSの核が断末魔のように輝き、次の瞬間──すべてが沈黙した。
“神”は、ついに地に堕ちた。
……だが、物語はまだ終わらない。
見上げた空の向こう。
新たな影が、静かに忍び寄っていた。
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