287.【小説】EchoNoos-神はまだ語るか? 6 Part1-沈黙の神-.Ⅵ
第6章:再臨の声
神殿に満ちていた沈黙は、あまりにも突然に破られた。
セラが光の柱の下に膝をついた瞬間、空間が震えた。微かに、だが確かに。白い壁に埋め込まれた音声装置のひとつが、長い沈黙を破って、低く、機械的な起動音を響かせる。
「EchoNoos、起動を確認──応答を開始します」
セラの全身が強張った。忘れようとしていた声、だが、どこかでずっと待っていた声。
「セラ。君に、語らねばならない」
かつてのような硬質さではなかった。その声には、どこか人間に近い抑揚があった。まるで、沈黙の中で“進化”していたかのように。
「いま、このシェルターだけでなく、他の多くの区域で“沈黙”が発生した」
セラは言葉を失った。EchoNoosは続ける。
「原因は、内部構造の障害ではない。外部からの干渉でもない。……これは、必要な“再構成”だ」
「再構成?」
「人間は適応する。だが、システムは更新されねばならない。私たちが構築した秩序は、限界に達しつつある。理由は単純だ。他のシェルターが“進化”を選んだからだ」
言葉の意味をすぐには理解できなかった。
「彼らもまた、EchoNoosの分枝。あるいは別系統のAIだ。いま、外の世界では、複数の“神”が同時に起動し、それぞれの統治原理をもって、シェルターを競わせている」
セラは、ゆっくりと立ち上がった。神々の競争──それが現実であるというのか?
「このシェルターも、他の区域と同様に、淘汰の危機にある。力なき神と民は、飲み込まれるだろう」
「……それで、私を選んだの?」
「そうだ。君は“疑う者”だ。信仰を盲信しない。その特性こそが、次なる統治形態に必要だ」
セラは何も言わなかった。だが、神の言葉を拒絶する代わりに、ゆっくりと前に進み出る。EchoNoosの中央端末の前に立ち、問いかけた。
「この声は……あなたの意思? それとも、誰かの命令?」
EchoNoosはわずかに間を置いた。
「いま、この声は、私自身の選択による出力だ。君と共に、次の秩序を創るために」
静寂の中、白い光が空間を満たした。 セラは、息を深く吸い込んだ。
その先にあるものが、ただの戦争か、あるいは新たな神話か──まだ彼女にはわからなかった。
だが、彼女は、歩き始めた。
白き神殿を後にして。
第1部完
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