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244.【小説】Bar 3rd Friday ∣Chapter11:Kir Royal

Chapter11:Kir Royal

Kir Royal

『キール・ロワイヤル』

シャンパンとカシスが奏でる、祝福の一杯。 乾杯の瞬間に立ちのぼる泡は、過去と未来を包み込むささやかな魔法。

再会の夜には、この一杯がよく似合う。

金曜日の夜、Bar 3rd Friday

看板の灯は、三年前と変わらず静かに揺れていた。

沢渡誠は、いつものようにカウンターを磨いていた。 棚のグラスも、照明も、何も変わっていない──そう見えて、すべては少しずつ変わってきた。

扉が開く音。

「よ、久しぶり」

斎藤だった。出張のたびに顔を見せていたが、今日はどこか違う空気をまとっている。

第3金曜日で3人揃うのって、ほんと久しぶりじゃないか」

「そうだな。あの頃から、色々あったしな」

沢渡が穏やかに笑う。

「有村さんは?」

「今日はお休み。子どもが熱出してさ」

沢渡がグラスを拭きながら答える。

「……ああ、紗季さん(旧姓・有村)、そうか」

「……そうか。いいパパしてんじゃん」

斎藤は笑いながらグラスを受け取った。


少しして、神原が現れた。

「よお。なんだよ、二人だけで乾杯すんのかと思ったぞ」

彼は以前のような軽さを残しつつも、どこか芯の通った落ち着きを帯びていた。

「聞いたぞ、事業もうまくいってるって?」

「まあ、ぼちぼち。春日とも結婚するよ、ようやくな」

「……それは驚いた」

「おまえら二人に比べたら、うちはだいぶ時間かかったけどな」

神原は席につきながら、グラスの縁を軽く指でなぞった。

「で、斎藤は?」

「東京に戻ることになった。来月から」

「戻ってくるんだな。そりゃ嬉しい」

三人の間に、柔らかな空気が流れた。

変わったこと、変わらなかったこと。 どちらも、どこか心地よかった。


そのとき、扉が開く。

「おう……今日はいい夜だな」

元マスターが現れた。

「カクテル、今日は僕がつくるよ」

沢渡が言いかけたが、マスターは手で制した。

「……最後くらい、俺にやらせてくれ」

カウンターの向こう、年季の入った手が、ボトルを取り出していく。

シャンパン。 カシス。 グラスに泡が立ち上がる。

「KIR ROYAL──門出に、再会に、一番ふさわしいやつだ」

三人にグラスが手渡される。

「じゃあ、これからも──」 斎藤が言った。

「毎月、第3金曜日に、また集まろう」

「そうだな。今度は、俺たちのBar 3rd Fridayの第2章ってことで」

三人が笑った。

そして──乾杯。

東京タワーの灯が煌めいた。


再会の夜に咲いた、ロワイヤルの泡。 それは、変わらぬ灯の中で生まれた、新しい物語のはじまりだった。

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