298:エッセイ:「声に惹かれた夜──六月の仮面パーティー」
もう二十五年ほど前だろうか。ちょうど今ごろ、梅雨時の六月だったと思う。ふと、不思議な夜を思い出すことがある。
大学生の頃──細かなことはもう曖昧だが、確か梅雨時の六月のことだった。高校時代の友人から、あるパーティーに誘われた。彼は関学のダンス系のサークルにいたはずで、そのつながりだった気がする。
金曜の夜、九時ごろだったろうか。少しお洒落をして、神戸の西側の街に向かった。
会場は駅からほど近いビルの二階。普段はバーかイタリアン・バルのような店だったと思う。
入口で会費を払い、受付で薄手のベネツィア風の仮面を渡された。その仮面は、パーティーが終わるまで絶対に外さないこと、そしてお互いをあだ名で呼び合うこと──それがルールだった。
中に入ると、二十代の男女が二十人ほど。
室内は間接照明がほんのり灯るだけで薄暗く、対面の相手の輪郭がわかる程度。今回は「仮面パーティー」の名目通り、皆が顔を隠していた。

不思議なものだ。視覚が制限されると、聴覚が研ぎ澄まされてくる。話し声、声色、話す内容──誰もが自然と耳を澄ませていた。話し方から相手の姿を想像する、その感覚が面白かった。
会も半ばに差しかかったころ、ひときわ親しみの湧く声色の女性と出会った。
その声、特に笑い声の響き方に、なぜだか胸の奥がくすぐられるような懐かしさを覚えた。
話してみると、驚くほど気が合った。年齢も近く、地元も同じ。まるで昔からの知り合いのように自然だった。ただ、どうにも耳に覚えのある声ではあった。
会の後半には、ふたりでまた改めて会う約束までしていた。
友人も羨ましそうにしていたほどだった。
やがてお開き。
照明がつき、皆が仮面を外す。私も外し、彼女も外した。
五年以上ぶりだったろうか。見違えるほど綺麗になった中学時代の同級生が、そこにいた。
もし、違う形で今日出会っていたら──そんなことを思わずにはいられなかった。
もちろん、昔を知っているというのは時に足枷にもなる。嬉しいような、嬉しくないような、不思議な感覚のまま、互いに「アッ」と声を漏らし、その夜のことは忘れよう、と自然に笑い合った。
ふと、今もこの季節になると思い出す。
あの夜、耳に残った声の温度を、今でも覚えている。
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