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【ASEAN・インド】伝統小売は消滅しない ─ デジタル武装で変わる分散型流通の未来

アジア新興国市場で強固な販売チャネルを構築するためのプロセスや、ディストリビューターの管理育成の重要性について、これまでの記事で詳しく解説してきました。今回は少し視点を変えて、「未来の市場」についてお話しします。

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よく日本企業の皆様から、「いずれ伝統小売は淘汰され、近代小売だけが生き残るのではないか。そうであれば、今わざわざ労力をかけて伝統小売を攻略せずとも、小売の主流が近代小売になるまで待てば良いのではないか」という質問をいただきます。

日本の小売流通の近代化を見てきた私たちは、かつて日本も伝統小売だらけだったものが急激に近代化し、伝統小売が淘汰された世界を目の当たりにしています。そのため、ASEAN市場もきっとそうなるだろうと考えるのは非常に自然なことです。

しかし、私の答えは明確に「ノー」です。

理由は大きく2つあります。1つ目は、伝統小売が近代小売に取って代わられるまでには、少なくとも数十年の時間が必要になるからです。そして2つ目は、伝統小売は単に淘汰されるのではなく、テクノロジーによる「デジタル武装」によって、より強固な小売へと生まれ変わるからです。 今回は、この伝統小売の未来について、詳しく解説していきます。

伝統小売が近代小売に取って代わられるには「数十年」を要する

まず1つ目の理由である「時間の問題」について考えてみましょう。少し市場を俯瞰してみると、小売というものは、小売単体で近代化することはできないという事実が見えてきます。

小売が近代化するためには、その前提として他の社会インフラが近代化していなければなりません。例えば、道路や公共交通機関、水道、電気、ガス、そして通信システムなどです。これらのインフラが近代化し、大量の商品を早く配送し、それらをシステムで管理・決済することが可能となって、初めて小売も近代化できるのです。

日本の急激な小売の近代化の背景にあったのは、世界でも例を見ない高度経済成長に支えられたインフラの近代化でした。日本全国に高速道路が行き渡り、地方の津々浦々に至るまでアスファルトの道路が整備され、渋滞は極限まで解消されました。また、米国から輸入されたコンビニエンスストアという業態が、日本人の生活スタイルと見事に合致したことも大きく貢献しました。

一方で、現在のASEANはどうでしょうか。

特に成長著しいVIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)の都市では、朝から晩まで毎日渋滞が続き、地方に行けば道路の整備がまだまだ不十分な箇所が多々あります。雨が降れば道路は水で溢れ、水が引くまで通れない交差点も少なくありません。冷凍冷蔵物流(コールドチェーン)も、日本に比べたらまだまだ成長過程にあります。 各国の都市計画などを見ても、日本の高度経済成長期と比べると、その速度や規模は緩やかで、範囲も都市部に限定されています。

つまり、小売の近代化にとって最も重要なインフラの整備には、少なくとも数十年の時間を要するということになります。日本のように、急激に伝統小売が近代小売に取って代わられるようなことはないのです。

まだまだ市場の7割から8割を伝統小売が占めるVIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)において、今後数十年にわたり近代小売だけのビジネスをしていたのでは、伝統小売が淘汰される前に、自分達自身が市場から淘汰されることになってしまうでしょう。

コンビニエンスストアよりも「コンビニエント」なデジタル伝統小売

そして2つ目の理由である「デジタル武装」についてです。伝統小売の未来を語る時、絶対に外してはいけないのがデジタライゼーション(デジタル化)の波です。

従来の未来予測では、「時間は要するが、いずれ伝統小売は淘汰され、特にコンビニエンスストア形態の近代小売が伝統小売に取って代わる」というものでした。しかし、昨今のデジタライゼーションの猛烈なスピードを考えると、事態はそう単純ではありません。

問題は、「本当に伝統小売がコンビニエンスストアに変わるのか」ということです。

確かにコンビニエンスストアは綺麗で便利です。しかし、少し想像してみてください。伝統小売の外観が多少綺麗になり、内面が完全にデジタル化されたらどうでしょうか。消費者にとっては、コンビニエンスストアよりも物理的な距離が近く、手軽に買い物ができ、さらにキャッシュレスで決済が可能になります。これはある意味で、コンビニエンスストアよりも「コンビニエント(便利)」な存在です。

伝統小売の店主(オーナー)からしてもメリットは絶大です。今まで電話やチャットで担当営業に注文していた商品が、スマートフォン上のアプリで24時間いつでも注文でき、決済もその場で可能になります。納品に関しても、未熟な担当営業だと数日から1週間程かかっていたものが、翌日か翌々日には確実に行われます。また、今まで感覚値で行っていた注文管理や売れ筋の把握もデータで可視化され、より効率的な経営が可能になります。

そして、ディストリビューターにとっても大きな変革をもたらします。今まで担当営業が個別に受けていた注文が一元管理でき、店舗別の注文状況の把握がデータで確実にできるようになります。何より最大のメリットは、商品の配達と同時に行っていた「現金での代金回収」がなくなることです。現金回収の手間とリスクがなくなるだけで、多くのコストをカットできます。その浮いたコストを小売への割引として還元することも、自分達の利益率向上に充てることも可能になります。

もちろん、メーカーにとっても同様です。常にリアルタイムで、どの地域の、どの小売で、何が、いくつ売れているのかという実売データを把握し、マーケティング戦略にダイレクトに活かすことが可能になるのです。

さらに、行政から見ても、今まで回収が困難だった税金の正確な徴収が可能になりますし、数十万店から数百万店に及ぶ伝統小売の雇用を維持することは地域社会の安定にも繋がります。 このように、消費者、伝統小売、ディストリビューター、メーカー、そして行政の全てにとって、伝統小売のデジタライゼーションは「良いこと尽くし」なのです。

デジタライゼーションがもたらす「分散型」流通の可能性

今までは、伝統小売がコンビニエンスストア化するという議論しかなされてきませんでした。しかし、昨今のデジタルシフトの流れによって、テクノロジーで伝統小売がデジタル武装するという新たな選択肢が現実のものとなっています。事実、VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)では徐々にですが、数万店、数十万店レベルで伝統小売がテクノロジー企業のサービスを利用し、デジタル武装を始めています。

デジタライゼーションした世界においては、コンビニエンスストアのような「中央集権型」のビジネスモデルは、もはや旧態依然としたものになるのかもしれません。

今までは、フランチャイザーという本部が全てを決定し、小売店のオーナーであるフランチャイジーを管理し、オーナーはその厳しい管理の下でビジネスを行ってきました。しかし今後は、小売そのものがデジタル武装することで、巨大な本部を必要としない「分散型」の新しい構造が市場で共存する可能性を考えておく必要があります。

個々の小売店がより自由に、自律的にビジネスができる分散型の小売の方が、ASEANの人々の国民性や商習慣を考えても合っているかもしれません。

特にASEAN市場は、日本と比較して既存の方法やレガシーシステムへのしがらみが少ないため、新しい方法がより合理的だと判断されれば、それを受け入れやすい柔軟な環境にあります。したがって、デジタライゼーションによって、より合理的な方法へと一気に変化していきやすいのです。

まとめ

伝統小売攻略のノウハウは未来の資産になる いずれの未来が訪れるにせよ、今、ASEANの伝統小売の攻略に本気で取り組むことは、消費財メーカーにとって決してマイナスにはなりません。むしろ、そこで得られた泥臭いナレッジや戦略的なノウハウは、ASEANのさらに後ろに控えているメコン経済圏や、インド、南米、アフリカといった他の新興国市場の攻略にも、十二分に役立つ強固な資産となるでしょう。

伝統小売は近代小売に取って代わられるのを待つただの衰退産業ではありません。デジタル武装によって究極の利便性を手に入れ、巨大なネットワークとして生まれ変わる可能性を秘めた、未来の巨大市場なのです。だからこそ、今のうちから伝統小売を攻略するための独自の「販売チャネルの型」を構築し、市場の変化に先手を打つことが求められているのです。


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