【第3回】定年後をどう生きる?~60歳以降の働き方を今から選ぶコツ
人生100年時代と言われるようになりました。
かつては、60歳で定年を迎え、その後は年金を受け取りながら余生を
過ごす。そんな人生設計にも、一定の現実味がありました。
しかし、今はその前提が大きく変わっています。
60歳を過ぎても元気に働く人は増えています。
65歳まで働くことも、もはや特別なことではありません。
さらに70歳前後まで、何らかの形で仕事や社会活動に関わる人も、
これからますます増えていくでしょう。
では、私たちは定年後、どのように働けばよいのでしょうか。
今の会社に残るのか。別の会社に移るのか。自分で仕事をつくるのか。
収入よりも、社会とのつながりや生きがいを重視するのか。
ここでまず整理しておきたいのは、定年後の働き方に「唯一の正解」は
ないということです。大切なのは、他人の正解を探すことではなく、
自分にとって何を大切にしたいのかを明確にすることです。
そして、定年後の働き方は、60歳になってから急に考え始めるものでは
ありません。私の経験から言っても、50代のうちから少しずつ考え、
試し、準備しておくことで、人生後半の選択肢は確実に広がっていきます。
60歳以降の働き方には、いくつかの選択肢がある
定年後の働き方には、大きく分けていくつかの選択肢があります。
継続雇用、いわゆる再雇用(公務員は再任用)。再就職。副業。
独立・フリーランス。地域活動や社会貢献活動。
短時間勤務やスポット的な仕事。
もちろん、これらはきれいに分かれるものではありません。
再雇用で働きながら副業の準備をする人もいます。
再就職を経て独立を目指す人もいます。
仕事量を減らしながら、地域活動や学び直しに時間を使う人もいます。
大切なのは、定年後の働き方を「会社に残るか、辞めるか」という二択で
考えないことです。人生後半の働き方は、もっと柔軟に設計できます。
そのためには、まず選択肢を知ることです。選択肢を知らなければ、
選ぶことはできません。
選べないまま流されてしまうと、それは後悔につながります。
継続雇用には、確かな安心感がある
多くの50代にとって、最も現実的で身近な選択肢は、継続雇用、
つまり再雇用ではないでしょうか。
慣れた職場で働ける。人間関係がある程度わかっている。仕事の流れも理解している。新しい環境に一から適応する必要がない。
これは大きな安心材料です。会社側にとっても、長年の経験を持つ人材に
引き続き働いてもらえることには、大きな価値があります。
業務知識、社内の人間関係、取引先との関係、過去の経緯。
これらは、簡単に引き継げるものではありません。
しかし、継続雇用には、決して小さくない戸惑いもあります。
給与が大きく下がる。役職が外れる。自分より若い人が上司になる。
責任や権限が変わる。周囲の見方も変わる。
こうした変化に直面したとき、気持ちがついていかない人も少なく
ありません。
「同じように働いているのに、なぜこんなに処遇が変わるのか」
「これまで責任ある立場でやってきたのに、急に脇に回るのはつらい」
「後輩や部下だった人の下で働くことに、どう向き合えばよいのか」。
こうした思いは、決してわがままではありません。
むしろ、長く責任を背負って働いてきた人ほど、自然に抱く感情です。
だからこそ、再雇用を選ぶ場合には、定年前と同じ働き方を続けようとするのではなく、自分の役割をもう一度定義し直す必要があります。
再雇用で大切なのは、「役割の再定義」である
再雇用で苦しくなる原因の一つは、自分の役割が曖昧になることです。
定年前は、肩書がありました。権限がありました。決裁権がありました。
部下がいました。会議で発言する立場もありました。
ところが、定年後は、それらが大きく変わることがあります。
そのときに、過去の役職意識をそのまま持ち続けると、
本人も周囲も苦しくなります。
一方で、自分を小さく見積もりすぎてもいけません。
「もう定年後だから、余計なことは言わない」
「言われたことだけやっていればいい」
「若い人の邪魔にならないように、静かにしていよう」。
このように引きすぎると、せっかくの経験が職場に活かされません。
再雇用で大切なのは、過去の肩書にしがみつくことでも、
完全に引いてしまうことでもありません。
自分の経験を、今の職場にどう役立てるかを考えることです。
若手がつまずきやすいポイントを事前に伝える。
過去の経緯を整理し、判断材料として提供する。
上司と現場の間に入り、言葉を翻訳する。
急なトラブルのときに、落ち着いて対応する。
自分が前に出るのではなく、次の世代が動きやすい環境を整える。
こうした役割は、定年後だからこそ発揮できる価値です。
再雇用は、単なる延長戦ではなくて、自分の役割を再定義する時間です。
私は、4月から5月に、新しく公務員に採用された人たちの研修を行うことがあります。
その時に、次のような話をします。
「皆さんの周りに再任用で働いている方がいらしたら、ぜひ、いろいろ聞くことをお勧めします。その人たちには、長年働いてきたことによる知識や
経験がたくさんあります。それを聞くだけでも、皆さんにとって、
とても参考になることがあるはずです」と。
再就職は、新しい自分を試す機会になる
一方で、今の会社に残らず、別の会社や団体に再就職する道もあります。
新しい職場になじめるだろうか。
これまでの経験は通用するだろうか。
年下の上司とうまくやれるだろうか。
自分の専門性をどう伝えればよいのか。
こうした不安は当然です。
しかし、再就職には、今までとは違う環境で自分の経験を試せるという
良さもあります。一つの組織の中では当たり前だと思っていた経験が、
別の組織では大きな価値になることがあります。
調整力、説明力、若手育成の経験、トラブル対応、制度や手続への理解、現場を落ち着かせる力、関係者の意見を整理する力。
こうした力は、会社や組織が変わっても活かせます。
ここで重要なのは、前回の記事でもお伝えした「ポータブルスキル」の
考え方です。自分の経験を、肩書や部署名ではなく、持ち運べる力として
言葉にする。これができると、再就職の可能性は広がります。
たとえば、「私は〇〇部にいました」だけでは、相手には価値が伝わり
にくい。しかし、「関係部署との調整を行い、現場の混乱を整理して
きました」とか「制度や手続を、相手にわかる言葉に翻訳して説明して
きました」と伝えれば、相手はその人が何をできるのかを理解しやすく
なります。
再就職を考えるなら、まず必要なのは求人を探すことだけではありません。自分の経験を、相手に伝わる言葉に翻訳することです。
独立・フリーランスは、自由と責任が同時に来る
定年後の選択肢として、独立やフリーランスを考える人もいます。
自分の経験を活かして相談業をする。講師業をする。専門資格を活かす。
業務委託で仕事を受ける。地域の中で小さな事業を始める。
こうした働き方には、大きな自由があります。
自分で仕事を選べる。働く時間を調整できる。自分の得意分野を前面に
出せる。年齢よりも、提供できる価値で勝負できる。
一方で、自由には責任も伴います。
仕事を自分で取らなければなりませんし、収入が安定しないことも
あります。経理や営業も自分で行う必要があります。
専門性だけでなく、発信力や信用づくりも必要になります。
私自身も、38年間公務員として働いた後、60歳で社会保険労務士事務所を
始めました。そのときに痛感したのは、資格があるだけでは仕事にならないということです。
自分が何を提供できるのか。誰のどんな悩みに応えられるのか。なぜ自分に依頼する意味があるのか。
これを言葉にし、発信し、相手に伝える必要があります。
独立・フリーランスは、決して気楽な道ではありません。
しかし、自分の経験を社会的価値に変えるという意味では、
大きな可能性があります。
何のために働くのかを明確にする
定年後の働き方を考えるとき、最も大切なのは、継続雇用か再就職か
独立かという形式ではありません。その前に考えるべきことがあります。
自分は、定年後に何のために働きたいのか。
生活費のために働くのか。社会とのつながりを保ちたいのか。
誰かの役に立ちたいのか。自分の経験を活かしたいのか。
新しいことに挑戦したいのか。働くことで生活リズムを保ちたいのか。
どれが正しいという話ではありません。
生計維持のために働くことは、現実的で重要な理由です。
社会とのつながりを求めることも、大切な理由です。
生きがいや自己実現を求めることも、自然な理由です。
問題なのは、自分の理由を曖昧にしたまま、何となく選んでしまうこと
です。
「みんな再雇用だから、自分も再雇用」「何となく今の会社に残る」「何となく独立する」。これでは、後から違和感が出やすくなります。
定年後の働き方を選ぶためには、自分が何を優先したいのかを明確にする
必要があります。収入、時間、健康、家族、やりがい、社会貢献、自由度、地域とのつながり。すべてを満たす働き方は、なかなかありません。
だからこそ、優先順位が必要になります。
60歳の自分を具体的に描いてみる
ここで、少し考えてみてください。
あなたが60歳になったとき、どんな環境で働いていたいでしょうか。
朝、どんな気持ちで起きていますか。
どこへ向かっていますか。
誰と一緒に働いていますか。
どんな人から感謝されていますか。
どのくらいの時間働いていますか。
どんな表情で仕事を終えていますか。
この問いは、単なる空想ではありません。
数字や条件だけで考えると、どうしても損得勘定に偏ります。
もちろん、収入や勤務条件は大切ですが、それだけでは人生後半の働き方は決めきれません。
疲れ切った表情で、仕方なく働いているのか。自分の経験を活かしながら、誰かの役に立っているのか。若い世代を支えながら、穏やかに働いているのか。新しいことに挑戦し、少し緊張しながらも充実しているのか。
60歳の自分の表情を想像することは、働き方を選ぶための重要な手がかりになります。
50代のうちに準備しておくこと
定年後の働き方は、60歳になってから考え始めると、選択肢が狭くなる
ので、50代のうちに準備できることは、準備しておく方が良いです。
まず、自分の経験を棚卸しすることです。
どんな仕事をしてきたのか。
どんな場面で力を発揮してきたのか。
どんな困難を乗り越えてきたのか。
次に、働き方の希望を整理することです。
フルタイムで働きたいのか、または、週3日くらいがよいのか。
収入を重視するのか、または、自由な時間を重視するのか。
人と関わる仕事がよいのか、または、一人で集中する仕事がよいのか。
さらに、可能な範囲で、小さく試してみることです。
副業の情報を集める。資格や学び直しを始める。地域活動に参加する。
発信を始める。知人に自分の強みを聞いてみる。
セミナーや勉強会に参加する。
いきなり大きく動く必要はありません。
むしろ、50代のうちに小さく試すことが大切です。
小さく試して、自分に合わなければ修正できますし、うまくいけば、
次の一歩につなげられます。
定年後の働き方は、設計と実験の積み重ねです。
今日の締めくくり
定年後の働き方を考えることは、老後の不安を数えることではありません。人生後半をどう生きるかを、自分の言葉で考え直すことです。
今の会社に残ることが正解の人もいます。別の場所に移ることが合う人もいます。独立して小さく仕事をつくる人もいます。収入よりも、家族や地域との時間を大切にする人もいます。
大切なのは、他人の正解をそのまま自分に当てはめないことです。
あなたには、あなたの条件があります。家族の状況、健康状態、経済状況、これまでの経験、価値観、これから大切にしたいこと。それらを踏まえて、自分の道を選んでいく必要があります。
最後に、私のことを少しだけお話しします(1回目の記事で記載したこと
です)。
私は50歳を過ぎた頃から、60歳定年後のことを考え始めました。
そして、
65歳を過ぎても、できるだけ長く働いていたい。
誰かの役に立つことが、自分にとっての生きがいにもなる。
そんなことを、ぼんやりと考えるようになりました。
最初から明確な計画があったわけではありません。
むしろ、最初は輪郭のぼやけたイメージに過ぎませんでした。
それでも、そのイメージを持ったことが、次の一歩につながりました。
あなたが65歳になったとき、どんな環境で、どんな表情で働いていたい
ですか。
まずは、そこを思い描くところから始めてみてはいかがでしょうか。
今回の記事は以上です
私のマガジンとして「人材定着の労務管理」を投稿しているので、
よろしければ、そちらもご覧ください。
