小匙の書室455 ─おいしいごはんが食べられますように─
誰かからの頂き物。誰かとの食事。
そこに、あなたが思う本当の「美味しい」があるだろうか?
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──その職場には、芦川さんという女性がいた。
自分にとって嫌なことや怖いことから回避する彼女に対し、同じ職場で働く押尾は思うところがあった。
そんなあるとき、押尾は職場でそこそこ上手くやっている男・二谷に“とあること”を持ちかけるのだった。
第167回芥川賞受賞作。
ままならない人間関係を、『食事』を介して描いた小説。
それが──、
高瀬隼子 著
おいしいごはんが食べられますように
だ。
お料理小説が好きならばおすすめの一冊だ。
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──タイトルと装画から、温かな小説をイメージした読者は多いだろう。
しかし一度ページを捲って、そこで繰り広げられる人間模様を口にしたら、それは裏切られることになる。
さて、社会人である読者に問いたい。
あなたの職場には、『守られるべき存在』とされる人はいるだろうか?
その人のために仕事量が増えて、かといって『辞めさせる』までにはなれなくて、寛容も拒絶も難しい人が。
この小説にはそんな『守られるべき存在』──芦川という女性が登場する。
主人公は、要領のいい男・二谷としっかり者の女・押尾。
あるとき押尾が二谷に持ちかけた、
芦川に対して“いじわる”してやろう
という企みが本作の主題だ。
全体的に建前でナッペされた本音が不穏な空気を醸成しており、読み進めていくにつれて胃がもたれていくかもしれない。
そのなかで垣間見るのは、
『食事』を介した人の本音
である。
一人と大勢とで、料理の味が変わった。
そんな経験をした読者が、いるのではなかろうか。
それはきっと、
誰かとの食事には配慮あるいは協調が付き物だから
なのかもしれない。
みんなと食べれば美味しい
それって、本当だろうか?
『美味しい=不味い』
があり得るのだと、知っているだろうか?
このように、
正しいことが或いは間違い
間違いであることが正しい
は存在していて、読書中さまざまな価値観で感情を揺さぶられる体験ができる。
だから手に取る読者にとって『共感』や『絶望』を呼ぶ、『配慮』と『協調』の毒をまぶした決して優しくないお料理小説なのだ。
読後、タイトルに込められているのは想像以上の感情で煮詰められた『祈り』だと気付かされるだろう。
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──これは私が文学作品を読んでいるときあるあるなのだが、ついつい、読んでいて押さえておきたいポイントをメモをするのを忘れてしまうのだ。
それだけ没入させられてしまうのである。
本作もその例に漏れず、一度読み始めたら、最後までザワつく世界観から抜け出せなかった。
食事とは、命の営みにおいて欠かせない行為だ。
切っても切れない──が人間関係のメタファーとなり、容赦なく胸を切り裂いてくる。
芥川賞受賞も納得の一篇だ。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
