小匙の書室303 ─籠の中のふたり─
孤独な弁護士。人殺しの罪を背負った男。
互いに友情を育んでいく二人だが、図らずも見つけた母の手紙が残酷な運命の歯車を回していく。
「過去」がどんなものだろうと、人は、誰かと関係を築き上げることができるのだろうか──?
〜はじまりに〜
薬丸岳 著
籠の中のふたり
私は小説に何を求めているだろうか。
と、自身に提起してみるが、頭の中に大層立派な答えが常に用意されているわけではない。
日頃から求める理由は、コロコロと、鉛筆を転がすようにして変わる。
だから、
「面白そうだから」
「いまは怖い気分を味わいたいから」
「泣きたいから」
「装幀が美しかったから」
「短い時間でも楽しみたいから」
……は、すべて私の偽らざる気持ちなのであり、本作を手に取った際には、
「ヒューマンドラマに胸を打たれたい」
と思っていました。
そういえば……心の成長や愛する者たちのそれではなく、『友情』にフォーカスをあてた作品というのはあまり、がっつりと読んできた記憶がない。
つまり、本作は、私のまだ未開拓かもしれない場所に新たな芽を植えてくれるのではないかと期待しているのです。
あらすじを読む限り、社会派の側面があることは間違いない。秋の夜長、じっくりとそれを味わうのも良いのでしょう。
早速、ページを捲っていきました──。
※ちなみに本作は『ときわ書房』さんで購入し、そのときに『直筆原稿』も一緒にいただいております。読み終えた後で眺めたいですね。

〜感想のまとめ〜
◯父を亡くし、恋人からも別れを告げられ、独りになった快彦。そんな彼の元に転がり込んでくる、身元引受人の話──。
快彦の、人の心に触れたことによる起きうる事柄故の逃避には共感を覚えた。彼の心に巣食った過去に根差す“孤独”が、展開を経るにつれてどんな風に変わっていくのだろうか──と、重厚な物語の幕開けを感じ取っていた。
◯なぜ、快彦が身元引受人にならなければならなかったのか。父の遺した言葉に引っ掛かりつつ、亮介の身元引受人となる。
快彦と亮介の関係は従兄弟であるものの、かつてとは違って仲が深いというわけではない。
飄々としている亮介と、人との関わりを避けるきらいがある慶彦。そして新たな同居“犬”のロウ。
この三つの関係は噛み合わないパズルのピースのようなのだ。しかしそこがいい。
◯ふとした瞬間に垣間見える、亮介の人柄。罪を犯した事実は消えないが、その人を見るとき、何が一番大切なのだろうか……という作品の命題を序盤から突き付けられる。
快彦が設けた、半年の生活。それらが終わる頃にはきっと私の中で明確な答えが見つかっているのだろうと、期待が膨らんだ。
亮介と接することで、否応なしに人と関わらなければならなくなる快彦。そこで発生する繋がりを知ることでもまた、口が立つ亮介の人柄について補強されていくのだった。
◯快彦の日常は亮介を起点として、少しずつ明るく温かなものへとなっていく。ひょんなことから人間関係の悩みを解決する羽目になり、だけどその中で、快彦の気持ちに確かな変化が生じることとなるのだ。
そんな、気付けば輪ができあがっていく展開運びは、もろ私好み。
ただ、やはり、亮介が罪を犯していることに変わりはなく、一抹の不安は拭いきれないのだ。
先に挙げた作品の命題に、囚われることになった。
◯やがて、黒インクが真っ白な紙に染みるように、快彦の心を惑わすことになる問題──すなわち、生前の母と父が交わしていた手紙と、快彦らの周囲でちらつく不審な影。
ここから物語は一段とギアを上げ、ヒューマンドラマとしての深度を増し、人の繋がりに迫っていた。
両親はどんな人生を歩んでいたのか?
その疑問に触れることで発生していく人の尊さに温かくなった。
◯次第にフォーカスは亮介へと移っていく。
人望もあり、過去について誰もが寛容的に受け入れようとしてくれているのに、なぜ亮介はすべてを断って逃げるような態度を取るのか。
そもそも、なぜ、彼はあの事件を起こさなければならなかったのか。
快彦が辿り着いた真実には切ない楔があった。
人は罪に対してどう向き合い、振る舞っていくべきなのだろう?
読後、親子、友人、恋人──この世の中に存在するたくさんの繋がりを、これからも大切にしていきたいと思った。
◯罪と、過去。二つの鍵によって鳥籠に閉ざされていた二人が、いざ扉が開くことで聴かせる羽ばたきに、私は胸を打たれた。
感涙とはこういうことか、と評せる涙が込み上げた。
最後まで、私好みな作品だった。
〜おわりに〜
非常に読みやすい文体と相まって、一気読みでした。
とことん『罪』について語った内容となっており、私だったら亮介のような人と出会ったときにどうするだろうか……と考えさせられた。
これは下半期のベスト入りも視野に入れるべき作品だ。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
