【エッセイ】終わらないスワイプの果てに:私がマッチングアプリに疲弊するまで⑤
指先から伝わる温もりは、
ほんの少し熱を帯びていて、
それが私の頬までじんわりと伝播するようだった。彼女の視線も、同じように何かを探るようで、
でも同時に静かな肯定を含んでいるように見えた。それは、言葉よりも雄弁な、確かな共鳴だった。
その日以来、
私たちは意識的にあるいは無意識的に、
互いの距離を測るようになった。
カフェのテーブル越しに、公園のベンチで、
時に触れ合う膝や、
伸びた髪を直すふりをして触れる指先。
そんなささやかな触れ合いが、胸の奥を温かいもので満たしていく。
まるで、春の日の雪解けのように、
凍りついていた感情がゆっくりと溶け出していくようだった。
ある週末、二人で少し遠くの海を見に行くことになった。
鈍行列車に揺られながら、
他愛もない話に花を咲かせる。
車窓を流れる景色のように、
私たちの関係もどこまでも続いていくような、
そんな錯覚に陥った。
海の近くの小さな駅に降り立つと、
潮の香りが私たちを包み込んだ。
波の音に耳を傾けながら砂浜を歩く。
靴を脱ぎ、波打ち際で冷たい水に足をつけると、
彼女が隣で小さく笑った。
その笑顔は、太陽の光を浴びてきらきらと輝いていて、私の目に焼き付いた。
夕暮れ時、茜色に染まる空の下、
私たちは肩を並べて座っていた。
波が寄せては返す音だけが、静かに響く。
ふと、彼女が小さくため息をついた。
不安になった私が「どうしたの?」
と問いかけると、彼女は少しだけ俯いて、
それからゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、切なさとも違う、
何か決意のような光が宿っていた。
「ねぇ、一つだけ、聞きたいことがあるんだけど…」
彼女の声は、
波の音にかき消されそうなほど小さかった。
私の心臓が、ドクン、と大きく鳴った。
この瞬間を、
私はずっと心のどこかで
予感していたのかもしれない。
静かに、彼女の次の言葉を待つ。
その一言が、私たちの未来を、
大きく変えることになるだろうと、
漠然と感じていた。
