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【エッセイ】終わらないスワイプの果てに:私がマッチングアプリに疲弊するまで⑩

電話の向こうから聞こえる彼女の声は、
少しだけ緊張しているように聞こえた。
静かに、私の耳に意識を集中させる。
夜の闇が、部屋を優しく包み込んでいる。

「あのね…」

彼女は一度言葉を区切り、小さく息を吸い込んだ。

「私たち、この夏、一緒に旅行に行かない? それも、少し長めに。ちゃんと計画して、二人で行きたいな」

その言葉を聞いた瞬間、
私の心に、ぱっと光が差したような気がした。
漠然と「旅行に行きたいね」
という話はしていたけれど、
彼女の方から具体的な提案をしてくれたことが、
何よりも嬉しかった。
それは、彼女が私たちの未来に、
具体的な絵を描こうとしている証拠のように思えたからだ。

「うん、行こう! どこに行きたい? 何日くらいがいい?」

私の声は、弾んでいた。
心の底から湧き上がる喜びを抑えきれなかった。
彼女も、私の返事に安心したのか、
電話の向こうでふっと笑った気配がした。

それから数日間、私たちは電話やメッセージで、 旅行の計画を立てるのに夢中になった。
行きたい場所、食べたいもの、やりたいこと。
一つ一つを話し合う時間が、
何よりも楽しく、
私たちの絆をさらに深めていくようだった。
まだ見ぬ景色に思いを馳せ、
二人で笑い合うたびに、
未来への期待が膨らんでいった。
そして、あっという間に夏がやってきた。
私たちは、念入りに計画を立てた旅路へと出発した。

列車に揺られながら、
車窓から流れる景色を眺める。
隣に座る彼女の横顔は、陽光に照らされて、
どこまでも穏やかで、幸せそうに見えた。
目的地は、海の見える所だった。
透き通るような青い海と、
どこまでも続く白い砂浜。
喧騒から離れた場所で、
私たちはただ、時間の流れに身を任せた。
波打ち際を散歩したり、
カフェで海を眺めながら語り合ったり。
夕焼けに染まる空の下、
二人で水平線をじっと見つめていると、
言葉はいらなかった。
ただ、隣に彼女がいるという、
それだけのことが、
私にとって何よりも尊いものだった。

宿に戻り、露天風呂に浸かると、
満点の星空が私たちを包み込んだ。
きらめく星々を見上げながら、
私は彼女にそっと問いかけた。

「ねぇ、一つだけ、聞いてもいいかな?」

今度は、私が彼女に問いかける番だった。
少しだけ照れて、彼女は

「なに?」

と応える。
湯気で少し赤くなった彼女の頬を見つめながら、
私はこれまで心の中に温めてきた言葉を、
ゆっくりと紡ぎ出した。
その言葉は、まるで夜空の星のように、
静かに、けれど確かに、
私たちの未来を照らしていくはずだった。

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