高校教員をしていた頃の日記 | クマさんの三者懇談
これは、高校教員をしていた頃の日記。
ある男子生徒の三者懇談。
男子生徒にとっては、母親と私に挟まれ、学校での自分と家庭での自分を暴露されまくる、地獄の時間であろう。
丸坊主。大柄で筋肉質。いかにも野球部らしい容姿の彼が、膝の上に手を置き、ちまっと座っている。
彼は、お勉強が苦手だ。目の前に置かれている通知表も、褒めると逆にお世辞だと丸わかりの点数が並んでいる。
母親が「勉強をしろ」と彼に喝を入れる。彼は、おろおろ、しどろもどろな返事しかできない。
大きなクマさんが、眉をハの字にして、ちっちゃくなっている。
その姿が面白くてならない。
しかし、ここで決して笑ってはいけない。担任として、生徒を勉強に向かわせることのできる、またとない機会を逃すわけにはいかない。
これからどう勉強に向かうか。何を工夫するか。考えさせる。
母親がこう言う。
彼女にずっとひっついて回っているからいけないのだ、と。
クマさんは、「それだけは勘弁してくれ」という顔をしている。
このクマさん、彼女が大好きで、友達の前でも、担任の前でも、隙あらば彼女と話している。母親もそれを知っていてのことだろう。もしかしたら、家でも電話をしているのかもしれない。
部活動の顧問からも、最近部活に身が入っていない様子だと評価を受けたばかりのクマさん。
あんまり責めすぎると、クマさんの二本の眉が平行になってしまいそうである。
ここは、責めすぎず、かつクマさんがやる気になる言葉を——
「女子は、何かに一生懸命になっている男の人が好きですよ」
これは、正論ではないだろうか。
母親も大きく頷き、
「お母さんも、そういう男の人が好きでした」
と、クマさんの左の横顔に穴が空きそうなくらい、クマさんを凝視しながら言う。
「はい、私もそうです」
このやりとりに、意味はまったくない。
好きな子と過ごす時間に茶々を入れられ、苦手なものに向き合わされそうになっている彼は、なんとかわいそうなのだろう。
しかし彼は、くりくりの目をさらにくりくりさせて、
「たしかに……」
と呟いた。
クマさんの心に、響いたらしい。
それでいいのか、クマさん。
3学期、クマさんの成績がどうなっているのか。
その動向を、見守っていきたい。
※特定防止のため、一部表現に脚色を加えています。
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