見出し画像

AIでお店を探す時代、店舗集客は「魅力を伝える」から「マッチング」へ

お店の探し方が、少しずつ変わり始めています。

これまでは、Googleでキーワードを検索し、検索結果やGoogleマップに表示された店舗を見比べながら、Webサイトや写真、クチコミを確認してお店を決めるのが一般的でした。

もちろん、こうした探し方が急になくなるわけではありません。

ただ、生成AIが広がることで、

「自分で条件を整理して検索する」から、「自分の状況をAIに相談して、お店を探してもらう」

という選択肢が増えていきそうです。

この変化によって、店舗集客で重要になる考え方も変わるのではないでしょうか。

これまでは、「自分たちのお店の魅力をどう伝えるか」が重要でした。

これからは、それに加えて、

「どんな人の、どんな状況に、自分たちのお店が合っているのか」

が重要になる。

店舗集客が、「魅力を伝える」から「マッチング」へ変わっていくのではないか。

今回は、そんなことを考えてみたいと思います。


お店を探し始める「きっかけ」がある

この変化を考えるうえで、まず紹介したいのが「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」という考え方です。

少し難しい言葉ですが、簡単にいうと、

生活者が、ある商品やサービスのカテゴリーを思い浮かべる「きっかけ」や「状況」

のことです。

ブランドの購買行動を研究するEhrenberg-Bass Instituteでは、CEPを、生活者がそのカテゴリーの購入へ向かうときに頭に浮かぶ考えとして捉えています。

消費者の頭の中にある「カテゴリーの引き出し」を開けるのようなもの、と考えると分かりやすいかもしれません。

例えば住宅なら、「家を建てたい」と思った瞬間だけが入口ではありません。

実際に店舗企業の方とお話をしていると、

「自分たちの収入でも、本当に家を建てられるのだろうか」

と不安になったことから、住宅について調べ始めるお客様もいると聞きます。

商品名や業種名ではなく、そのもっと手前にある、

悩み、不安、生活の変化、やりたいこと。

そこからカテゴリーを思い浮かべ、お店探しが始まることがあります。

AIには「自分の状況」をそのまま相談できる

これまでの検索では、こうした状況を、自分で検索キーワードに変換する必要がありました。

例えば、最近体型が変わってスーツがきつくなってきた人なら、

「オーダースーツ おすすめ」
「オーダースーツ 4万円」
「オーダースーツ ○○駅」

などと何度か検索し、WebサイトやGoogleマップを比較して、お店を決めていました。

AIなら、

「最近体型が変わってスーツがきつくなってきた。30代後半で仕事用。派手すぎず、丈夫なものがいい。予算は4万円くらい。○○駅周辺で、明日相談できるお店は?」

と、そのまま相談できます。

年齢、用途、好み、予算、場所、日時などをAIが整理し、

「この条件なら、このお店が合いそう」

と候補を絞っていく。

つまりAIは、商品名からお店を探すだけではなく、その商品を必要とするに至った「状況」からお店を探せるようになります。

ここが大きな変化だと考えています。

AI検索では、質問が3倍長くなっている

実際に、検索行動にも変化が表れ始めています。

Googleが2026年5月19日に公表した米国のAI Modeの利用データでは、AI Modeで入力される検索文は、従来のGoogle検索と比べて平均3倍の長さになっています。

さらに興味深いのが、「planning(計画)」に関する検索です。

直近6か月で、AI Mode全体の検索よりも80%速く成長しています。

「where to(どこへ)」
「where should I(どこに行くべき)」
「ideas for(〜のアイデア)」

といった、意思決定につながる検索も伸びています。

これまでの検索では、

「オーダースーツ 新宿 安い」

のように、人が検索エンジンに合わせて言葉を選んでいました。

AIには、自分の置かれている状況をそのまま伝えられる。

人が検索に合わせるのではなく、AIが人の状況を理解する。

検索の使い方が、少しずつこちらに変わっているように見えます。

Googleマップも「検索」から「相談」へ

この変化は、Googleマップでも始まっています。

Googleは2026年8月7日、AIと会話しながら場所を探せる新機能「マップに相談」を日本で提供開始すると発表しました。

例えば、

「スマートフォンを充電できて、長い列に並ばずにコーヒーを買える場所」

「今夜使える照明付きの公営テニスコート」

といった、これまでなら何度か検索を繰り返していたような質問を、自然な会話で聞くことができます。

さらにGoogleは、Googleマップが持つ3億以上の場所の情報と、5億人以上の投稿者コミュニティからのクチコミなどを分析し、提案に活用すると説明しています。

これは、

「○○というお店を探す」

から、

「今の私に合う場所を探して」

への変化ともいえます。


「一番魅力的なお店」ではなく、「私に合うお店」

ここで、店舗側から考えてみます。

先ほどのオーダースーツを探している人には、

「30代後半」
「仕事用」
「予算4万円」
「丈夫」
「体型が変わってきた」
「○○駅周辺」
「明日行きたい」

という状況や条件があります。

あるお店について、

「初回39,800円」
「30〜40代のビジネス利用が多い」
「丈夫なストレッチ生地がある」
「体型変化に対応した補正サービスがある」
「○○駅から徒歩3分」
「明日予約できる」

という情報が分かれば、今回のお客様にはかなり合っていそうです。

一方で、

「高品質」
「豊富な品揃え」
「こだわりの接客」

という情報だけでは、良いお店であることは伝わっても、

「今回のお客様に合っているか」

までは判断しにくいかもしれません。

もちろん、お店の魅力を伝える必要がなくなるわけではありません。

変わるのは、魅力の伝え方です。

「うちは魅力的なお店です」から、「こういう人の、こういう状況なら、うちのお店が合っています」へ。

魅力を、「誰に・どんな状況で価値があるのか」まで具体化することが重要になると考えています。

クチコミは「マッチする理由」のエビデンスになる

では、

「うちのお店は、こういう人に合っています」

ということを、何で伝えるのでしょうか。

その一つが、実際に利用したお客様の声やクチコミです。

店舗自身が、

「初めての人にも丁寧に対応します」

と発信するだけではなく、

「初めてで何も分からなかったけれど、一から説明してもらえて安心できた」

というお客様の声がある。

「体型に合わせた提案が得意です」

だけではなく、

「最近体型が変わって何を着ればいいか悩んでいたが、自分に合うものを提案してもらえた」

という声がある。

こうしたクチコミには、

「どんな人が」「どんな状況で」「何に困っていて」「何に価値を感じたのか」

が含まれています。

言い換えると、お客様の声は、

「このお店は、こういう状況の人に合っている」ことのエビデンス

にもなります。

実際にGoogleも、「マップに相談」の提案に、膨大な場所の情報とともにクチコミを活用すると説明しています。

AIがお店と人をマッチングする場面が増えるほど、店舗が一方的に発信する情報だけでなく、実際のお客様が残した具体的な体験が、より重要な情報になっていくのではないでしょうか。

CEPから考える、これからの店舗集客


これまでCEPでは、ある状況になったときに、

「自社のブランドやお店を思い出してもらえるか」

が重要でした。

AIがお店探しに入ってくると、そこにもう一つ、

「その状況で、AIから候補に挙げてもらえるか」

という視点が加わるのではないでしょうか。

整理すると、

お店を探すきっかけ(CEP)

その人が求める条件

AIが店舗の情報と照らし合わせる

自分に合うお店が提案される

という流れです。

だから店舗側も、

「何を売っているのか」

だけではなく、

「誰に強いのか」
「どんな悩みに強いのか」
「どんな場面で利用されているのか」
「どんな体験が評価されているのか」

という情報を、具体的に残していくことが重要になります。

店舗集客は、

「良いお店であること」を伝える競争から、
「なぜ自分に合うお店なのか」を伝える競争へ。

「魅力を伝える」から「マッチング」へ。

そんな変化が始まっているのではないでしょうか。

「誰に、どんな価値を提供できているのか」を残していく

私たちが提供するスタッフバリューは、店舗で実際に生まれているお客様の声を集めるお手伝いをしています。

「どんな悩みを持った人に選ばれたのか」

「スタッフのどんな対応が喜ばれたのか」

「そのお店だからこそ得られた体験は何だったのか」

こうした声を集めていくと、そのお店やスタッフが、

「誰に、どんな価値を提供できているのか」

が少しずつ見えてきます。

これまでは、こうしたお客様の声は「お店の魅力を伝えるためのクチコミ」として捉えられることが多かったかもしれません。

しかし、AIがお店と人をマッチングする時代には、

「どんな人に、このお店が合うのか」を示す情報資産

という価値も大きくなっていくのではないか。

そんな可能性を感じています。



参考

・Ehrenberg-Bass Institute「Identifying and Prioritising Category Entry Points」
https://marketingscience.info/learn-with-us/commercial-research/identifying-and-prioritising-category-entry-points

・Google「How AI Mode is changing the way people search in the U.S.」
https://blog.google/products-and-platforms/products/search/ai-mode-us-insights/

・Google Japan Blog「Google マップの新機能『マップに相談』を日本で提供開始」
https://blog.google/intl/ja-jp/products/connect-communicate/japanese-ask-maps/