スカパーをつけたら、マーティ・フリードマンがせり上がってきた件
暇を持て余した俺
「俺の人生を変えたのは、妻のつわりとマーティ・フリードマンだった。」
これだけ聞くと意味不明かもしれないが、俺にとっては間違いなく事実である。
2012年、妻が妊娠した。喜ばしいことだったが、つわりがひどく、まるで寝たきりのようで体調は常に優れなかった。悩んだ末に彼女は里帰りすることになり、俺はしばらく一人暮らしをすることに。
当時、俺の職場は前年の震災で被災し、大変な状況だった。建物は一部損壊し、業務の継続もままならず、復旧のために仕事は増えるばかり。ニュースを見る余裕もなく、ネットで話題を追う時間もなかった。気づけば、世の中で何が流行っているのかすらわからなくなっていた。
そんな状況がようやく落ち着いた頃、俺は家で一人、手持ち無沙汰になっていた。仕事は忙しくても、家に帰れば静まり返った部屋。飯を食って風呂に入っても、やることがない。休みの日に久しぶりにテレビをつけたものの、何を見ればいいのかもわからず、とりあえずスカパーのチャンネルをザッピングし始めた。
この時はまだ、自分が10年以上続く沼に足を踏み入れることになるとは思っていなかった。
ももクロとの運命の出会い
リモコンを片手に、なんとなくチャンネルを切り替えていた時だった。画面に映ったのは、ももいろクローバーZ のライブ映像。
「そういえば、一度ちゃんと見てみたいと思ってたんだよな。」
実は、ももクロの存在自体は知っていた。当時YouTubeで、彼女たちが戦隊モノのパロディをしたMVを偶然目にしたのだ。
アイドルらしからぬ変な振り付けと、やたらと気合いの入った演出に、「なんか面白そうなアイドルが出てきたな」と思ったのを覚えている。
ただ、その頃の俺は仕事が忙しすぎて、じっくりチェックする余裕がなかった。職場が被災して復旧対応に追われ、娯楽に時間を割くことすら難しかったのだ。それでも、周囲でAKB48の総選挙の話題が出るたびに、「いや、今はももクロを見たほうがいいんじゃないか?」と何の確証もなく口にして、相手に「?」マークを浮かべさせていた。当時は女子もみんなAKBをカラオケで歌うようなブームの真っ只中だったのにも関わらず軽口を叩いていた。
そんなことを言いながらも、実際にはまともにももクロを見たことがなかった。そしてこの日、ついに目の前のテレビで彼女たちのパフォーマンスを目撃することになったのだ。
画面に映る5人は、大人数で完璧に揃ったダンスをするわけでもなく、上手いとは言えない歌を、一生懸命に全力で歌っていた。当時、アイドルといえばAKBのスタイル、口パクでフォーメーションダンスを決めるのが主流だった。そんな中、たった5人で全力で歌い、走り回る彼女たちの姿は、良くも悪くも異質だった。
「なんか必死だな……」
そう思いながら眺めていたら、突如として流れ出すヘビーメタル調のイントロ。一気に耳を奪われた。
「おいおい、これはマーティ・フリードマンが喜ぶやつじゃないか?」
マーティ・フリードマン。元メガデスのギタリストで、世界的なヘビーメタルアーティストだ。速弾きと独特なスケール使いを駆使し、数々の名ソロを生み出してきた。しかし、そんな彼がなぜか日本のJ-POPにどハマりし、日本に移住。J-POPのメロディラインを絶賛し、自らも演奏したりプロデュース、テレビにも多数出演するなど、日本の音楽シーンに溶け込んでいた。
そんな彼が喜びそうなメタルサウンドをアイドルが歌っているのが面白くて、思わず画面に釘付けになった。だが、俺の驚きはこれで終わりではなかった。次の瞬間、とんでもない光景が目の前に広がったのだ。
そして、マーティ・フリードマンがせり上がってきた(沼落ちの瞬間)
イントロの時点で「これはマーティ・フリードマンが喜ぶやつだな」と思っていたが、まさか本当に本人が登場するとは思っていなかった。
メタルらしい仰々しいオケが流れる中、アイドルが全力で歌い続ける。重厚なサウンドと派手なステージ演出が相まって、まるで巨大なスペクタクルショーのような雰囲気だ。だが、これは生バンドのライブではない。流れているのは打ち込み主体のオケ(なぜか豪華なコーラス隊が参加していたが)。にもかかわらず、ステージ上の熱量は異常に高く、観客の盛り上がりも尋常ではなかった。
そんな中、ギターソロが始まった。楽曲のクライマックスを飾るように、鋭くうねるギターの音が響き渡る。そして、その瞬間——
ステージ中央の床がゆっくりと開き、そこからマーティ・フリードマン本人がせり上がってきたのだ。
(1:00あたりから2011年当時の映像)
「ちょっと待て、どういうことだ!?」
驚きと同時に、爆笑してしまった。メタル界のレジェンドが、アイドルのライブでせり上がってくる。しかも、その後の映像演出がさらに衝撃的だった。
センターに立ったマーティが、圧倒的な存在感でギターを弾きまくる。その姿が巨大なスクリーンにも映し出され、完全に主役のアイドルを隠してしまう。普通、こういう場面ではアイドルが映るものではないのか? それなのに、どう見てもこのシーンの主役はマーティ・フリードマン。
「こんなこと、アイドルのライブで許されるのか?」
俺は元々、かわいいアイドルが嫌いなわけではなかった。むしろ、どちらかといえば好きなほうだった。けれど、「悪い大人が女の子たちをコントロールし、計算づくで売る」ような雰囲気を感じてしまい、深くハマることはなかった。結局、どんなに頑張っていても、大人たちの都合で動かされているように見えてしまう。その構造がどうにも好きになれなかったのだ。
しかし、この演出を見たとき、その考えが一気に崩れた。アイドルのセンターを完全に消し去るほどのマーティ無双。この悪ふざけ全開の演出は、ビジネスのための計算ではなく、純粋に「このステージを全力で面白くしよう」とする運営の意地に見えた。
「こんな運営は信用できる。」
そう確信した瞬間、俺のももクロ沼が始まった。そしてその日から、ももクロの動画を漁る日々が始まった。(2021年の再現ライブ映像をお楽しみください)
そして沼へ…現在に至る
マーティ・フリードマンの登場で「こんな運営は信用できる」と確信し、ももクロの動画を漁り始めた俺だったが、そこからさらに深みにハマるきっかけがあった。
ある日、YouTubeで見つけたのはプロレスをモチーフにしたパロディ演出の映像だった。俺は元々プロレスファンだったこともあり、「またプロレスがネタにされてるのか」と軽い気持ちで再生してみた。だが、すぐに気づいた。これは、ただの"いじり"ではない。
彼女たちは単にプロレスの派手な要素を借りて盛り上げるのではなく、しっかりとリスペクトを持って取り入れていた。例えば、振り付けの中には武藤敬司の「プロレスLOVEポーズ」が組み込まれていたし、その後のコンサートでは実際に武藤本人をゲスト出演させて共演していた。普通なら表面的に使って終わるところを、本当にレジェンドを呼んでしまうのだから恐れ入る。
さらに、猪木ビンタの再現パロディでは、適当な演者を使うのではなく、プロレス実況でお馴染みの清野アナをインタビュアー役に起用。こうした細部に至るこだわりから、運営が本気でプロレス愛を持っていることが伝わってきた。
「ここまでやるか……!」
気づけば、俺は完全にハマっていた。ももクロは単なるアイドルではなく、本気で"面白いこと"をやろうとしている人たちだった。そこには、俺がこれまで感じていた「大人にコントロールされたアイドル像」はなかった。むしろ、運営と一緒に「本気の悪ふざけ」をやっているように見えた。そして、それが最高に面白かった。
暇つぶしのつもりが、まさか10年以上の趣味になるとは…
スカパーのザッピングで偶然見たライブ映像が、こんなにも長く付き合う趣味につながるとは思ってもいなかった。でも、ももクロに出会ってから、俺の人生は確実に豊かになった。頑張って出産をした妻と大きくなった子が俺に呆れるほどに。彼女たちのライブを見て元気をもらい、映像を見ながら笑い、時には感動し、そして何より「こんなに全力で楽しんでいいんだ」と思わせてもらえた。
人生、どこに沼が待っているかわからないものだ。
写真引用元
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Marty_Friedman_27.jpg
