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ロボット向け学習データの新興企業XDOF、ステルス解除と同時に7000万ドル調達 ― Thrive Capitalやa16zなど5社が出資

2週間前、OpenAIは、2021年に閉鎖したロボティクス事業を再始動すると発表した。大手AIラボが物理世界で動く機械の開発に再び本気で取り組み始めたことを示す動きだ。しかし、言語モデルが急速に進化したのとは対照的に、ロボット開発には決定的に足りないものがある。学習データだ。

そこに目をつけたのが、米国時間6月17日にステルスを解除したスタートアップ「XDOF(読み方:エックスドフ)」だ。同社は、フロンティアAI研究所やロボティクス企業が自前では構築しづらいデータパイプライン・収集ツール・アノテーションシステムを提供することを目指している


1. なぜ「ロボット用データ」が新しい課題になっているのか


大規模言語モデルは、インターネット上に存在する膨大なテキストを学習データとして活用できた。これに対し、ロボットが物理世界で物を持ち上げたり、折ったり、運んだりする動作を学ぶためのデータは、ほとんど存在していない。YouTube動画やギグワーカーが撮影した映像は解像度が低く、物理的な動作と正確に対応づけることが難しいという課題もある。

XDOFの共同創業者でCEOのフィリップ・ウー氏は、こうした状況をこう表現する。

「すべての主要ラボがロボティクスに本気で取り組んでいる。言語モデル競争で少し遅れを取ったことの代償は、すでに目にしてきたはずだ」

言語モデルの競争で後れを取った教訓が、物理AIの分野でも繰り返されることへの警戒感がうかがえる発言だ。

2. XDOF誕生の経緯 ― PhD時代の「鶏と卵」問題


ウー氏がこの課題に直面したのは、UCバークレーの博士課程で大規模データセットを使ったロボットのスキル学習を研究していた頃だった。

「大規模なデータを使って研究したかったが、そのデータ自体が存在しなかった。基盤モデルを訓練する方法を考える前に、まずデータを集める必要があるという、鶏と卵のような問題に直面した」

この課題を解決するため、ウー氏と後にXDOFの共同創業者兼CTOとなるフレッド・シェントゥ氏は、人間がロボットアームを遠隔操作してデータを生成する低コストの teleoperation システム「GELLO」を開発した。この研究は反響を呼び、同様の課題を抱える多くの研究者がこの手法を採用するようになったという。

2-1. 創業とビジネスモデルの方向性

この機会を見出したウー氏、シェントゥ氏、そして、第三の共同創業者でCOOのネモ・ジン氏は、2024年10月にXDOFを設立した。データ提供だけではビジネスとして頭打ちになりかねないことを意識し、データのクリーニング・ツール開発・アノテーションまでを一体で手がけ、ロボット開発企業にとって持続的な「フィードバックループ」を作ることを目指している。

3. データピラミッド ― 3層構造のビジネスモデル


XDOFが描く事業構造は、3つの層からなるピラミッドだ。

最も価値が高いのは、実際に現場で使われるロボット上で収集するテレオペレーション(遠隔操作)。次に位置づけられるのが、GELLOのような汎用ロボットを使った遠隔操作データ。そして、最下層は、人間が日常的なタスクを行う様子を記録する「エゴセントリック(自己中心視点)」データであり、XDOFは、このために独自のウェアラブルセンサーの開発も計画している。

ウー氏はハードウェア設計の重要性についてこう語っている。

「カメラの選択がデータの質を左右し、それが手の動きを追跡するアルゴリズムの精度に直結する。最初の設計が甘いと、後から気づきにくい問題を抱えたデータになってしまう」

なぜ大手ラボがこの作業を自前でやらないのか、という疑問についても、ウー氏は明確な回答を持っている。数百台のロボットを抱える数十万平方フィート規模の倉庫を維持し、ロボットの校正やオペレーターの訓練まで行う必要がある。これは大手AIラボにとっても、自社で抱えるよりも外部委託したい規模の事業だというのがXDOFの読みだ。

4. 資金調達と顧客基盤 ― すでに20社と契約


XDOFは、Thrive Capital、Spark Capital、a16z、Lux、WndrCoの5社から合計7000万ドルを調達している。従業員は約60人規模ながら、すでに20社の顧客を抱えており、その中には複数のフロンティアAI研究所も含まれる(具体的な社名は非公開)という。

加えて、UCバークレーのAI研究ラボと提携し、学術界で過去に例のない規模の高品質ロボット学習データセット「ABC」を公開した。内容は操作軌跡データ13万件、シミュレーション300時間、評価データ100時間に及ぶ。バークレーの博士課程学生でリリースの取りまとめに関わったデイビッド・マカリスター氏は、言語や画像生成の分野で起きたように、データとモデルが公開されることでコミュニティが想定以上の成果を生み出してきた経緯に触れている。

このデータを使い、研究チームはすでにTシャツを折る、箱を平らにする、AirPodsをケースに収める、といったベンチマークタスクでロボットを訓練している。

5. 投資家・ビジネスパーソンへの示唆


XDOFという社名は、ロボットが持つ独立した動作の自由度を表す「degrees of freedom」をもじったものだ。人間の腕は肩から手首まで7つの自由度を持つとされ、Figure AIの最新ロボットは30の自由度を持つという。社名のXは、「自由度に上限はない」という野心を表しているとウー氏は説明する。

物理AIへの投資が本格化する中、注目すべきはモデルや半導体だけではなく、その手前にある「データ供給網」そのものが新たな投資対象になりつつある点だ。LLM時代における計算資源やデータレーベリング企業の台頭と同様の構図が、ロボティクス領域でも形成され始めている。XDOFのような企業の動向は、物理AI市場のどこに資金とビジネスチャンスが集まるかを見極める上で、一つの参考軸になりそうだ。

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