ライセンスを超えて飛躍するQualcomm──CEOが語るワイヤレス×AI×チップ多角化戦略
Qualcommは、3G、4G、5Gの基盤技術を生み出し、「ワイヤレス通信」「高性能・低消費電力コンピューティング」「AI処理」の三つの中核技術を武器に成長を遂げてきた半導体企業である。2025年6月、Barron’sのインタビューでCEOのCristiano Amon氏は、自社のビジネスモデルの変遷と今後の市場拡大戦略について語った。本稿では、その発言を手掛かりに、Qualcommがいかにして従来のモバイル中心の企業像を打破し、多様な産業領域へ技術を浸透させることで新たな成長エンジンを築こうとしているのかを解説する。
1. ビジネスモデルの変遷とライセンス事業
1-1. ライセンス事業の成り立ち
創業当初のQualcommは、CDMA技術など標準必須特許(SEP)を「公正・合理的・差別なし(FRAND)」の原則でライセンス提供し、携帯端末メーカーからロイヤリティを徴収するモデルを確立した。Amon氏は、「声をかければ誰でも技術を使えるようにライセンスした。このビジネスは、“昔からの”メイン事業だったが、今は“レガシー”となっている」と述べ、安定収益源としての意義を認めつつも、さらに大きな成長源は別にあると強調した。
1-2. FRANDライセンスの意義
ライセンス料は、携帯電話の卸売価格を基準に算定され、公平かつ合理的な水準を担保。これにより、OEM各社は安心して標準技術を採用でき、市場全体の普及スピードが加速した。特許紛争を抑制しつつ、企業価値を高める仕組みとして高く評価されている。
2. チップ事業の成長エンジン化
2-1. Snapdragonプロセッサの普及
モバイル用SoC(System-on-Chip)市場では、QualcommのSnapdragonシリーズがAndroidスマートフォンの定番となった。Amon氏も「当社の成長の大部分はチップビジネスにある。優れたチップが優れた端末を生み出し、さらなる採用につながる」と、ライセンス以上に半導体製品の競争力を自負する。
2-2. iPhone向けモデム提供
かつてAppleと競合していたQualcommだが、今ではiPhone向けにもセルラーモデムを供給。「iPhoneでネット接続するチップも当社が提供している」と語るように、ライセンス事業ではカバーできない端末レベルでの顧客拡大に成功した。
2-3. ウェアラブル・スマートグラス・オーディオ
スマートウォッチやワイヤレスイヤホンなどのウェアラブル市場でも、BluetoothやAI機能を統合した低消費電力チップが採用されている。さらに「スマートグラス向けチップも提供しており、アイウェア企業の参入が相次いでいる」と、周辺領域への横展開を加速している。
2-4. 自動車・産業用途への拡大
自動車分野では、全世界の自動車メーカー(米・欧・日・韓・中・印を含む)がQualcommのチップを採用。コネクテッドカーや自動運転支援、車載AIなど、多岐にわたる用途で「すべてのクルマ会社がお客様」と誇示した。さらにエネルギー、製造、物流などの産業用途にも参入し、新たな市場を開拓している。
3. 新戦略の軸:ワイヤレス+高性能+AI
3-1. 「Everything wireless communication」
Amon氏は、同社のエレベーターピッチを「ワイヤレス通信、高性能低消費電力コンピューティング、デバイス上AI(ディスラプティブ・プロセッサ)」の三要素と定義。これらを“一つの資産”として捉え、既存モバイル以外の業界へ広げる戦略を明確化している。
3-2. シーケンシャルな市場侵攻
CEO就任以来、まず自動車分野に注力し、次にPC市場、続いて産業機器、そしてデータセンター領域へと順序立てて展開。「自動車が軌道に乗ったのでPCを立ち上げ、今は産業用途に注力し、次はデータセンターだ」と、段階的なロードマップを示した。
3-3. エッジAIの成長機会
AI処理は、クラウドではなく端末上の“エッジ”でこそスケールすると強調。車載、ウェアラブル、産業機器など、ユーザーの近くでリアルタイム処理を行うことで「AIが普及する全てのデバイス市場でチップが必要とされる」と語り、将来性を力説した。
4. 投資家・市場とのギャップと株価
4-1. モバイル企業からの脱皮
多くの投資家は、「Qualcomm=モバイル企業」というイメージにとどまり、新興用途の成長を十分に評価していないという。「“新しいQualcomm”はモバイルを超えた多市場企業」として再認識を促した。
4-2. 多市場の成長ポテンシャル
最新四半期決算で、チップ事業全体では過去最高の四半期売上を達成。特に自動車分野は前年比50%増、IoT(産業・ウェアラブル等)も30%超の二桁成長を果たしており、今後の業績拡大が期待される。
4-3. 株価低迷の理由と見通し
現状、モバイル関連株と同等のバリュエーションで取引されており、新市場の価値が織り込まれていないと指摘。成長が進めば「株価は必ず上がる」との強気見通しを示した。
5. グローバル・サプライチェーンと中国市場
5-1. 製造拠点の多様化
半導体製造は、TSMCやSamsungだけでなく、米国内のファウンドリにも投資。2018年以降12億ドル以上を米国製造に投入し、製造リスクを分散している。
5-2. 競争激化する中国市場での成功
中国は世界最大かつ競争最激烈市場だが、「技術力があるから採用される」という構図により、スマホから車載、PCまで幅広く採用が拡大。関税対象外製品も多く、「直接的な関税リスクはほぼゼロ」と説明した。
5-3. 関税と消費者マインド
一方、間接的には消費者マインドや景況感への影響を注視。特にスマホ販売台数や自動車需要は消費信頼感のバロメーターと位置付け、今後の動向をモニタリングすると述べた。
6. R&Dと人材戦略
6-1. 研究開発投資と大学連携
米国・世界各地の大学や研究機関と連携し、基礎研究から応用研究まで幅広く推進。「昨年は米国で特許出願数No.1」と語り、技術プラットフォームの強化を図る。
6-2. グローバル人材の確保
「イノベーションエコノミーの中核企業として、優秀な人材が必要」とし、各国から高度人材を積極的に受け入れる姿勢を示した。
6-3. 特許ポートフォリオの多様性
5GやWi‑Fiのみならず、Bluetooth、位置情報、CPU、GPU、AI向けNPU、画像処理など多彩な特許を保有。これにより新分野への迅速な展開を可能にしている。
7. パートナーシップとコミュニティ貢献
7-1. 製造・技術パートナーとの協業
Samsung、TSMC、エリクソン、Nokiaなど製造・インフラ企業と緊密に連携し、技術ロードマップを共有。エコシステムの拡大を図る。
7-2. 地元サンディエゴへの貢献
本社を置くサンディエゴへの社会貢献にも注力。スタジアム建設やホームレス支援など、地域コミュニティへの投資を進めている。
7-3. グローバルマーケティング戦略
マンチェスター・ユナイテッドとのユニフォームスポンサー契約など、ブランド認知拡大施策を推進。Snapdragonのロゴをスポーツ観戦の場にも露出させ、一般消費者への認知度向上を狙う。
Amon氏が示した戦略の核心は、「従来のモバイル企業」から脱却し、ワイヤレス通信、高性能・低消費電力コンピューティング、デバイス上AIという三つの強みを武器に、多様な産業分野へシーケンシャルに展開することにある。自動車、PC、産業機器、データセンターといった領域での実績は着実に積み上がっており、投資家の評価が追いついていない現状を打破すれば、さらなる成長が期待できる。今後もQualcommの動向から目が離せない。
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