すべてがオンチェーンに向かう時代へ──Coinbase CEOが語る暗号資産の未来
ここ数年、「暗号資産(クリプト)」は、金融のみならず、資産運用、法制度、国際経済にいたるまで変革をもたらし続けています。Coinbaseの創業者兼CEOであるブライアン・アームストロング氏は、「あらゆる資産がオンチェーン(ブロックチェーン上)に移行するのは不可避」と断言し、この見解は業界内外で議論を呼んでいます。本記事では、アームストロング氏の言葉を通じ、企業として、技術者として、また経営者としての視点から「未来のクリプト」とは何かをわかりやすく紐解きます。
1. なぜ「全資産のオンチェーン化」は不可避なのか
アームストロング氏は以下のように述べています:
「短く言えば、オンチェーンは速く、安く、グローバルだからだ」
(“it's faster, cheaper and more global”)
つまり、支払い、取引、借入・貸付などの金融活動をオンラインでより効率的かつ広範に展開できる点が、その理由です。
さらに、氏は具体例として以下を紹介します:
株式のトークン化:これにより、世界中の人々が24時間いつでも米国株にアクセスできるようになり、例えばアルゼンチンに住む人でも、これまでより容易に投資できるようになる。
分数株取引:より細かく資産を分割し、小額からでも投資できるようになる。
永続先物注文板のような新たな注文形式の導入。これは現状、暗号資産領域で普及しているが、証券にも応用できる可能性がある。
長期保有者だけに投票権を与えるなどのガバナンス設計。例えば「1年以上保有している株主のみが投票できる」といった新たな仕組みもオンチェーンなら実現可能です。
こうした構造が「オンチェーン化」の魅力であり、金融市場のアクセス性、効率性、透明性を劇的に高めることになります。
2. なぜ今なのか──技術と規制、両面の進展
アームストロング氏はこうも指摘します:
「技術が整い、規制環境がようやく整備されつつある」
まさに今、アメリカでは、Genius Act(ジェニウス法)によって、ステーブルコインの裏付け資産や監査体制が明確化され、Clarity Act(クラリティ法)のような新法案も議論されています。これにより、暗号資産を用いた資金調達や金融サービスが、これまで以上に法的に安心して行えるようになるわけです。
例えば、ステーブルコインには米ドルや短期国債など明確な資産で裏付けることが義務化され、法的な安全策が強化されています。
3. 政治との関わり方──CEOとして学んだこと
アームストロング氏は起業家としての初期、政府との接触を「不要」と考えていました。しかし、企業規模が拡大するにつれ、政策形成への関与は避けられないと痛感します。
具体的な取り組みとしては:
ワシントンD.C.への定期的な訪問と説明活動。
議会向けスコアカードの作成と、有権者への啓発。
standwithcrypto.orgという草の根運動への支援。
Super PACやロビー活動を通じ、議会の関心を引く。
こうした地道な活動によって「暗号資産支持層は確実に存在する」という認知が広がり、政策転換の端緒となりました。
4. ビットコインは政府への「脅威」か?それとも「支援」か
ビットコインなどの暗号資産は、国家の通貨発行権や金融統制に挑むものとも捉えられますが、アームストロング氏の見立てはこうです:
経済的自由の強化につながる存在。
ステーブルコインのようなドルベース資産が世界に普及すれば、米ドルの国際的地位をむしろ維持していく手段になりうる。
ビットコインは節度な財政のための制約になる可能性があり、「デジタル金本位」のような役割を持てる。
つまり、インフレや財政問題が深刻になれば、ビットコインが逃げ口になりうるが、それでも米ドルよりは望ましい選択肢だと位置づけています。
5. Coinbaseの「エヴリシングエクスチェンジ」構想
アームストロング氏は2025年8月にこう投稿しています:
「全ての資産はオンチェーンに移るのは不可避。我々は“何でも取引できる”プラットフォームを目指す」
Coinbaseは、ビットコインの保有を拡大しながら, トークン化された株式、予測市場、デリバティブ商品などの提供を進めています。これは、金融の民主化やグローバルな取引機会の拡大につながる取り組みです。
6. 意志あるリーダーの決断と勇気──「物議を恐れず、正しいことを」
アームストロング氏は、CEOとして時に物議を醸す判断を下すことの意義をこう語ります:
「リーダーであれば時には大きな反発を招く判断をする必要があるが、それが会社のために正しいことなら避けてはいけない」
例えば過去に政治的中立性を重視して内部抗議が起きた際、「それは許容できない」と毅然と対処した経験があります。結果的に、それが企業としての文化や方向性の明確化につながったと振り返っています。
7. 経営の浮き沈みとメンタルの持続力
暗号資産業界は、熱狂期(バブル)と低迷期(クラッシュ)を激しく繰り返す波の激しい世界です。
アームストロング氏の教訓:
株のバブル時に飛びつかず、暗中に飛び込みたいタイミングでしぶとく支える――逆張りの姿勢が長期成功につながった。
モーメントが良くても衝動的に拡大するのは避け(例:過剰な採用・買収など)、質を優先する文化を温存。
CEO自身も社員も精神的にタフである必要がある。「タイプ2の楽しさ(後で効く or 後で振り返って楽しい)」を大切にする覚悟が必要。
8. 長期構想への人材投資と精神的持続力の設計
成長期の企業でありながら、アームストロング氏は自らのペースと持久力を保つために以下のような「ライフデザイン」を取り入れています:
十分な睡眠、運動、栄養の確保による基礎体力の維持。
定期的な休暇や学びのための時間の確保。
エグゼクティブ・コーチ(いわば経営のセラピスト)との対話。
CEOとして「マラソンのように持続できる仕組み」の設計と、自身の精神的なセルフケアの両立。
これは、「燃え尽きて終わるのではなく、『持続可能な挑戦』を続ける」ための戦略でもあります。
結語
Brian Armstrongというリーダーの言葉には、経営の判断力、技術への信念、規制との対話、そして精神的な持続力のすべてが詰まっています。
技術と規制の整備によって、金融の「オンチェーン化」は現実のものになりつつある。
企業のリーダーには、物議を恐れず正しい決断を下す勇気と、その後を支える精神的タフネスが問われる。
そして何より大切なのは、“持続可能な挑戦”をどう設計するかという長期志向です。
この構造は、金融分野に限らず、VR、AI、バイオテックなど、他のフロンティア領域にも広く通じる示唆を含んでいます。ぜひ、皆さんの業務や思考に役立てていただければ幸いです。

